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『僕と私の殺人日記』 その8

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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月曜日 朝。

ぼくは学校に行く準備をしていた。本当は行きたくなかったけど、おかあさんに迷惑はかけたくない。

「リナ! ごはんよー」

「うん!」

今、ぼくはリナちゃんの身体を使って動いている。なんでこうなったのか、ぼくもわからない。ぼく自身、昨日、生まれたばかりだからだ。ただ、知識や記憶はある。リナちゃんがいままで体験したことや学習した出来事が、確かにぼくの頭に入っている。

「どうしたの? いつもは『あと五か月』って布団から出てこないのに」

おかあさんが珍しそうに、ぼくを見た。どうやらリナちゃんは朝が弱いらしい。記憶を辿ると、リナちゃんは寒いのが苦手なのかよく布団に潜り込んでいた。

朝ごはんを食べて学校に行った。弟の良太と一緒に行くと、ぼくの正体がばれそうな ので先に行くことにした。 途中で靴が汚れていたのが気になった。

思い返してみると、田んぼでカメを捕まえた時に汚れたようだ。 田んぼの水で洗い流した。幸い、靴はスニーカーで防水加工を施したものだった。中に水が入らないように気をつけて泥を落とすと、だいぶましになった。

登校している途中でユイカちゃんに会った。元気で可愛い女の子だ。

「リナちゃん、おっはー。昨日、言い忘れたけど、お誕生日おめでとー」

「あ、ありがとう」

ユイカちゃんの勢いに押されて、ぼくはどう言えばわからなかった。リナちゃんならどう答えるのだろう。おんなじ頭でも考え方は全然ちがった。

「どうしたの? 元気ないね?」

「き、昨日、田んぼで遊んでたら転んじゃったんだ・・・」

「ふふっ。おもしろーい。ユイカも見たかったなー」

なんとか誤魔化せたようだ。ぼくは一息つく。このまま何事もなく終わることを願った。 ユイカちゃんは、道端に咲いていた花を片っ端からちぎっていった。ちぎったらすぐに田んぼに捨てた。なんでこんなことするのか聞くと、ちぎる瞬間が楽しいと言った。ぼくにはよくわからなかった。

「待ってよ! おねえちゃん!」

後ろから声がした。この声は良太だ。先に行ったので追いかけてきたみたいだ。息を切らして小さな身体を動かしている。

「ごめん。今日は温かったから」

「気温で動くって、カメじゃなんだから!」

お、なかなかうまいことを言うな。ぼくはそう思いつつ、謝った。とはいえあまり歓迎しない事態だった。

ぼくはどちらかというと、人と話すのが苦手だった。周りの変化についていく自信がないのだ。うまくしゃべれないからほとんど、一言でしか言葉を返せない。 必要最低限の会話で済ませたかった。いっそ、リナちゃんの心の中に閉じこもっていたかった。

学校は木造の校舎で、廃校寸前と思わせるほど寂れていた。記憶では、生徒は自分も含めて五人しかいないらしい。村、唯一の学校だ。

校庭に入ると、ほかの生徒がすでに来ていた。二人の男子が鉄棒で遊んでいる。身体は二人ともぼくより大きい。ぼくたち三人を見つけると、駆け寄ってきた。

「おい、リナ! 今日のかけっこは負けねえぞ! おれが勝ったら鼻からスパゲッティ食 べる約束、忘れてねえよな?」

一人の男の子が言う。

ええ? リナちゃんそんな約束してたの! 聞いてないぞ! 思い返してみると、確かに約束した記憶があった。男子とケンカして「もし、次の体育のかけっこで負けたら、何でも言うことを聞いてやる!」と宣言したのだ。

それで「じゃあ、負けたら鼻でズパゲッティ食べろよ」と言われた。 しかも「そっちが負けたら逆立ちで学校五十周しろ!」と男子を煽っていた。

いくら同じ身体でも、ぼくはリナちゃんみたいに動ける気がしない。

「おやめなさい、権太君。相手は女の子ですよ」

となりにいた男子が竹石権太くんを静止した。権太くんはぼくに勝負を挑んできた男の子だ。小学五年生で、がたいがいい。自称ガキ大将を名乗っている。五人しかいないのに大将は微妙だと思う。せいぜいお山の大将だろう。

その横にいるのが、骨山ノブ夫くん。小学六年生で学校の最年長だ。体型はひょろ長くて頼りなさそうだけど、頭が良くて権太くんも一目おいている。眼鏡をかけていて文学青年みたいなしゃべり方が特徴的だ。

実質、この二人が村の子供たちを仕切っていると言っ ていい。

「せめて『目でピーナッツを噛む』くらいにしてあげなさい』

ノブ夫くんが助け舟を出すように提案する。 むしろ、難易度が上がってる・・・。

完全にリナちゃんを潰す気だ。 リナちゃんは強気でよく男子に反抗するようだから、目をつけられているのだ。ぼくがなんと かしなければならない。人格が違っても同じ身体なのだ。文字通り他人事ではない。

「さすが、ノブ夫くん。じゃあ、負けたら目でピーナッツ噛めよ」

「の、望むところだ!」

だれか助けて・・・。 ぼくの後ろでは、友だちのユイカちゃんと弟の良太が心配そうな目で見ていた。

もう後には引けなかった。


続く…


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