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『僕と私の殺人日記』 その22

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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「何回、泥まみれになったら気が済むの!」

ほとんど悲鳴に近いおかあさんの怒号を浴びながら、ユウくんはお風呂に向かった。

ユウくんは不機嫌そうにしている。「どうして、ぼくが・・・」と心の中でぼやいていた。

お風呂でシャワーを浴びる。臭い泥が流れて、排水溝に消える。まだ昼過ぎなので、お風呂の準備ができてないらしく、浴槽に水は張っていない。 浴槽の中に何かが入っていた。よく見ると、蜘蛛だった。

多分、おかあさんがお風呂を洗った時、窓を開けたせいだろう。その間に入ってしまったのだ。 それを見たユウくんは浴槽にシャワーの水を降り掛けた。滝のような雨を蜘蛛は感じたにちがいない。溺れてじたばたもがいた。逃れようと、たくさんある足を必死に動かしている。しばらくして、動かなくなった。

心が切り替る。ユウくんは怒っているみたいだった。ここ最近、『入れ替わり』を利用して、面倒事を押しつけたからだ。怒るのも無理はない。もし、わたしがそうされたら、殴りたくなる。「ごめんなさい」と心から謝った。

ユウくんがわたしと入れ替わるために、自分から生き物を殺すのは初めてのことだった。 それがちょっぴり悲しくて、うれしかった。

やさしいユウくんも好きだけど、殺すことを何とも思わないユウくんも素敵だと思う。 もしかしたら、入れ替わりながら人を殺す日が来るのでは? そんな想像をして胸が躍った。

お風呂からあがったわたしは、出かけることにした。もちろん、サバイバルナイフを持って、だ。

後ろで「もう服を汚すな」と念を押してくるおかあさんを背に、玄関を出た。 ユイカちゃんちに向かう。約束通り一緒に人を殺すのだ。昨晩、待ち合わせた木の下を 通り、村の中心を目指す。

向かっていると、ユイカちゃんが向かい側からこっちへ歩いていた。

「お~い。ユイカちゃ~ん!」

「リナちゃん! 遅いよ!」

わたしはユイカちゃんのところに駆け寄り、さっそく作戦会議を開いた。

「ごめん。家の手伝いしてたから。・・・それで、どこに行く?」

「いいところがあるの。まずはそこに行きましょう」

ユイカちゃんに従って、わたしはその場所へ向かった。そこはトンネル近くの民家だった。ほかの家とは、かなり離れていて騒ぎにはならなそうだ。

「ここの家には生まれたばかりの赤ちゃんと母親がいるの。父親は離婚していないから一番殺しやすいわ」

「おお~、さすがユイカちゃん」

窓を覗いて、母親がいるか確かめる。ゆりかごの中で赤ちゃんがすやすや眠っていた。 そのとなりに母親らしき女の人が居眠りしている。

チャンスだった。玄関から侵入して、近づく。田舎は玄関に鍵をかける習慣がないので ありがたい。おかげで手間がかからない。 ユイカちゃんと合図を送りながら進んだ。

忘れないようにナイフの刃を出しておく。部屋の扉を開くと、昼寝している親子がいた。こちらには気づいていないようだ。 先に母親を殺しましょう。 耳元でユイカちゃんが提案する。

確かに片方を殺して、目覚められると厄介なのは大人だ。わたしはうなずいて母親の喉に刃を向ける。 母親は机に突っ伏していて、手を枕にして寝ていた。その後ろでユイカちゃんが待機する。暴れたら抑えるつもりなのだろう。わたしは思い切って刃先を突き出した。

刃が柔らかい喉に吸い込まれていく。その間から赤い液体が滲み出て、刃を濡らした。 母親は異変に気がついて、目を覚ました。

わたしはナイフを抜く。切り口から血が溢れだした。当の本人は口をパクパクさせて何か言っている。

だけど気道から空気が入り、声になっていなかった。言葉の代わりに、血を口から吐き出している。 信じられない、と言った顔でわたしを見た。

母親は暴れることもなく、静かに立ち上が り、赤ちゃんのところに歩いて行った。両手で赤ちゃんの頬を撫でて、覆いかぶさる。自分の子を庇っているように見える。

ユイカちゃんが母親の背中に指を差す。わたしはうなずいて、背中を刺した。ナイフから伝わる肉の切れる感触がたまらない。

何度も突き立てて、飛び散る血を浴びながら刺しまくった。やみつきになりそうだ。楽しすぎて思わす、笑みがこぼれた。

やがて母親の身体が崩れ落ちた。

きれいな肌をした赤ちゃんが現れる。

母親が死んだことに気づかず、赤ちゃんはぐっすり眠っていた。


続く…


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