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『僕と私の殺人日記』 その14

※ホラー系です。
※欝・死などの表現が含まれます。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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水曜日


リナちゃんは目が覚めた。
でも、朝は寒いのか布団に包まって、また眠ってしまった。 ぼくは昨日の出来事が頭にこびりついて離れなった。

あのおぞましい悪夢。おばあさんとおじいさんが殺される、見てはいけない光景。血が飛沫を上げて顔にかかる。地面に溜まった血だまりが命の終わりを告げていた。

今頃どうなっているだろう。きっと微生物や蛆虫が二人の身体をむしゃむしゃ食べているにちがいない。

だれかが見つけて警察に通報しただろうか。ぼくは怖くなった。殺したのはリナちゃんだ。ぼくじゃない。そう何度も言い聞かせたけど、手のひらに残った感触が紛れもなく、 この身体で殺人を行ったことを物語っていた。

ぼくはまた間違った選択をしてしまった。入れ替わった時、ぼくは自首するべきだった。 罪を認めて罰を受けるべきだった。それなのに、ぼくは、逃げた。

蟻を踏み殺してリナちゃんと入れ替わった。ぼくは関係ないと逃げたんだ。 入れ替わりの法則は、蛙の時からなんとなく見当がついていた。

おばあさんに見つかった時、リナちゃんは後ずさりした。それだけで入れ替わった。しかし、あの瞬間、後ずさりした足の下に蟻がいたのだ。ぼくはお茶を飲みながら、支度しているおばあさんの足下を見ていた。地面に蟻がいるのを発見して法則を確信した。 子猫、毛虫、蛙、蟻、蚊、人間。すべて、殺した時にリナちゃんと入れ替わっている。

間違いなかった。 ぼくたちは生き物を殺すことで人格が入れ替わるのだ。 蚊を殺したのは失敗だった。あの時点で「入れ替わり」を知っていたのに殺してしまった。

夢でリナちゃんが言った通りだった。

ぼくは命を差別していた。 だから、あんな簡単に蚊を叩き潰してしまったのだ。命を大切にしてほしいなんて言い ながら・・・

「リナ! 早く起きなさい!」

おかあさんの声がする。リナちゃんは出たくないみたいで「あと五か月」と言って、布 団で丸くなっていた。

おかあさんに布団を引っぺがされて、やっと起きたリナちゃんは食卓についた。先に座っていた、おとうさんと良太と一緒に朝ごはんを食べる。 すると、電話がかかってきた。

「はい、武富です」

おかあさんが電話に出る。

「はい、はい、ええっ! はい、わかりました・・・

」 おかあさんの声は不吉を纏っていて、それを察知したのかごはんを食べていたみんなの手が止まった。

「リナ、良太。学校は休みよ」

「やったー!」

突然の休校に姉弟は喜んだ。ぼくは怖くなった。その理由が大体、予想がついたからだ。

「村で殺人事件が起こったそうよ!」

「え!」

おかあさんの言葉にみんなは驚いていた。リナちゃんの持つ箸がわずかに震えている。 自分の行いがばれるかもしれないと恐れているのだ。

「今、警察が調べているらしいの。それで危険だから学校はおやすみだそうよ」

警察。その単語で明らかにリナちゃんは動揺していた。そこまで深く考えてなかったらしく、今更ながらにおびえていた。

「弱ったな。もうすぐトンネル工事があって会社に行けれなくなるのに。田植えをしに出たらいけないかな?」

「ダメよ。殺人犯に会ったらどうするの!」

田植えをしたいおとうさんはおかあさんに怒られてしまった。 朝ごはんを食べたリナちゃんは自分の部屋に戻った。 蚊が入り込んでいて、嫌悪の音を鳴らしている。

机に向かって、引き出しの中を探る。指先に硬い物が当たった。取り出したのは昨日、 人間の血を吸った、忌まわしいナイフだった。 リナちゃんはナイフを胸に当てて握りしめる。

捕まりたくない! もっと人を殺したい!

そんな、都合のいいことを必死に願っていた。小さな心が不安な気持ちと利己的な欲求の狭間で、激しく揺れていた。

一体、何がそこまで人殺しをさせるのだろう。リナちゃんの心は純粋で、心の奥底から思考を探ってみてもわからなかった。

ただただ人を殺したい、という思考だけが浮き上がっていた。


続く…


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