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大麻(マリファナ)規制を残すべき理由

はじめに

日本において、医療用大麻の取り扱いが話題になっていますが、生物学者や医療関係者の見解としては「医療用を解禁するのは当然だが、一般の嗜好用は規制すべき」という元々の見解がようやく通ったという感想が大半です。医療用としてはモルヒネを超える薬効が期待されているので、使わない手は在りません。一方で、大麻は麻薬としては危険なので、アメリカの一部のように解禁すべきではないという理由を解説します。

産業植物としてのアサ

大麻は植物名は麻(アサ)、素材名としてはヘンプと呼称される、クワ科の一年草です。大変有用な植物で、その利用法は3種類に大別されます。

1.繊維としての利用(流通名ヘンプ)
2.薬用・食用としての利用(流通名アサ、医療大麻、アサの実)
3.嗜好品(日本では違法)としての利用(流通名マリファナ、他多数)

一言にアサといってもいくつか品種があり、流通上重要なのはいわゆる麻薬成分テトラヒドロカンナビノール(THC)を含むかどうかです。繊維用の品種はヘンプと呼ばれ、THCをほとんど含みません。日本で古くから栽培されてきたものはこのタイプです。七味唐辛子や鳥のえさに入っている「麻の実」もこの繊維用品種で、さらに流通前に加熱して発芽できなくしているため、食べても所有しても違法ではありません。

一方、THCを多く含むものは法的な規制が沢山あります。ヘンプは繊維化したり発芽できなくすれば合法ですが、THCを一定以上含む品種(カンナビス類)は許可なく所有するだけで違法です。

規制の現状

さて、かつては世界中で規制されていた大麻は、各国でその規制がなくなりつつあります。一番多いのは、完全規制から医療用のみ許可へシフトするもので、日本も医療用のみ解禁です。現行の規制のタイプは以下の3タイプです。

・全規制型(医療用も嗜好用も認めない)・・・日本、アメリカの一部
・医療用のみ許可型・・・アメリカの一部、フランスなど(建前)
・規制なし・・・アメリカの一部、オランダなど

フランスの規制は「建前」です。フランスには一応罰金刑が存在します。ただ、それはほとんど運用されておらず野放し状態。しかも罰金自体も200ユーロ、2021年7月の時点で大体2万6000円ですから、抑止力になるとは思えません。

WHOの取り扱い

一部報道で、「WHOと国連麻薬委員会が、大麻を『乱用され悪影響を及ぼすおそれが著しい薬物』の規制対象から除外する決定をした」とされていますが、これは誤解を招く表現です。より正確な表現は「WHOと国連麻薬委員会が、大麻を『有用性より有害性が大きく存在価値がない』カテゴリーから『有害性もあるが医療用に限れば有用』カテゴリーに移動させた」です。これは麻薬になりうるが鎮痛剤として有用なモルヒネと同じ扱いです。詳しくは別記事「WHOにおける麻薬の取り扱い」

https://note.com/yunyun_ja/n/n17d70c36ff34

を参照ください。

マリファナの効果

麻薬として使われるときの名称は、「マリファナ」が多いですが、他にも「草」「クサ」「チョコ」「ハシシュ」「ハシシ」「ガンジャ」「葉っぱ」「グラス」などがあります。

さて、マリファナの効果は、一言で言うと「極めて多様」です。本当に個人差があり、また本人の体調や精神状態にも左右されるらしく、同一人物が同量を接種しても同じ効果が出るとは限りません。数日前にマリファナでハイになっていた人が、別の日に使った時にはラリってしまい、自動車で通行人を轢き殺すということも当然ありえます。

マリファナはアヘン等に比べて離脱症状(俗に言う禁断症状)がでにくいためより安全と思われがちですが、実際には離脱症状がでるまですごく時間がかかり、ゆっくりと離脱に至る(数週間?)が正しいです。THCは脂溶性が極めて高い、つまり脂肪や脳に蓄積されやすい化学物質です。そのため、使用すると脳に作用した後に余った分が体中の脂質に取り込まれ、ゆっくりと再供給されるため効果期間が長くなります。ゆえに、離脱症状が出ても体調不良や再燃との鑑別が困難であり、離脱症状が報告されにくくなっています。

さらに厄介なのが、マリファナは成分が不定です。他の麻薬と違い、マリファナは精製を経ずに植物そのままで利用できます。マリファナ中毒者たちの偏執的な努力の賜物で、多くの品種が生み出され、またDNA編集によってTHC含有量が以前の数十倍になった品種も流通しているとのこと。さらに、生育状態や生育条件によってもTHC含有量は増減します。もちろん、これらの流通品に安全規格などあるはずもなく、THC以外のアルカロイド含有量なども違い、さらに品種同士で雑種ができるため何が起こるかわかりません。これらについてお断りした上で、確認されている効用をまとめます。ちなみに、具体的な症状の多くは
「薬物乱用・中毒百科」内藤裕史著、丸善出版

Screenshot 2021-07-07 at 18-04-32 薬物乱用・中毒百科-覚醒剤から咳止めまで 内藤 裕史 本 通販 Amazon

を参考にさせていただきました。
本書はちょっと高価ですが、具体的な症例が豊富で読みやすいのでオススメです。大麻についても164ページ~197ページまで、数えられるだけで38、著者によれば43人の症例が載っています!

短期的な影響
・幻覚(物体の大きさ誤認、視覚と他感覚の混乱)
・遠近感の狂い
・平衡感覚の狂い
・夢と現実の混乱
・浮遊感
・色彩の変化(彩度の変化、灰色化、赤化など)
・幾何学模様の出現(恐らく視神経の狂い)
・口の渇き
・脱力
・握力喪失
・頭が明澄に感じる(本人の主観なので信用はできない)
・聴覚鋭敏
・頭痛
・舌がもつれる
・歩行困難
・顔面紅潮
・心悸高進
・強い孤独感、逆に多幸感
・不安感(穴に落ちるような感覚、世界滅亡)
・体が氷になった感じ、底冷え
・頭部、脳の感覚の変化、特に自身の脳が動く感覚の出現
・時間感覚の変化(数時間経った感覚があるのに数分しか経過しないなど。これはアルコールの逆)
・強い眠気
・幻聴
・妄言、妄語
・発狂
・味覚変化(水が苦い、梨の味がしないなど)
・内臓が発酵して発泡する感覚(痛みではない)
・発狂時の記憶喪失
・統合失調症などの症状の亢進
・危機感の喪失
・反射速度の低下

長期的な影響
・ゆっくりとした人格の荒廃
・IQの低下
・大麻精神病(ゆっくりと進行するので気付いたときには手遅れ)
→ 吸引開始1年後、突然に不安、恐慌、恐怖を感じ、電波を受信するようになる
→ 吸引開始3ヵ月後、突然に「俺は全能の神だ。神の父は神だ。一緒に死んでくれ。死ねば51千年続く」と父親の首を絞めようとする
→ 約5年間のマリファナ使用後、徐々に被害妄想が悪化、世界変容感を経て入院。自発性の欠如や意欲低下は回復せず
→ 5年ほどのマリファナ喫煙から高熱後に発狂、「行動全てが神様に指示されている。知らない人が追いかけてくる」の混乱状態から精神科に入院。精神病薬の投与で症状は抑えられるも、投与をやめると再燃。結局脳に物理的損傷が残る。
→ 数年間の大麻常用後、路上で発狂、通報され、警官に説得されるも不審な言動が続き、拘置所内で不穏、不眠、多弁、多動、食欲亢進、興奮、器物破損、支離滅裂行動、ジーンズや布団を噛み千切り続ける。精神科に入院し、粗暴行為のみが落ち着き、拘置所に戻る。
→ 数年間のマリファナ使用、当初は何でも笑う笑い上戸反応だったが、後に関係妄想や幻聴に移行。引きこもり、寡黙な性格となり、新聞配達中に女子高生殴打、バイト先の雇い主を殴打し、入院。裁判や懲役を経ても症状は変わらず、人間性の喪失、攻撃性は顕著なままであった。
→ 21才から断続的に吸引、当初はいい気分や笑い上戸であった。24才頃から常用、怒りっぽくなり、被害妄想も亢進、精神が荒廃し異常行動が目立つようになる。通行人に喧嘩をふっかけるも相手がボクサーで顔面骨折、入院、精神科に再入院。ネパールから大量のハシシを持ち帰り、吸引を続けると攻撃性が増大。電撃療法で攻撃性だけは抑えられるようになった(易怒性は残った)。
→ 約9年間の使用中、徐々に被害妄想が進行、「誰かに見張られている」「日常生活に色々指示干渉してくる」などの幻聴がみられるようになる。興味や意欲が低下、考えがまとまらない、考えが止まる、思考の幼稚化、複雑な会話が理解できなくなる。バイト先の主人に突然殴りかかり、さまよっているところを保護される。診察に対して攻撃的な態度が増え、本人のたっての希望で退院。
→ アメリカにわたって高校入学、マリファナに手を出し、以降は継続的に吸引。最初は思考が亢進するように感じた。しかし被害妄想が強くなり、「近所の人が自分の家を覗き見している」「外へ出ても皆が自分を見ている」「盗聴器が取り付けられている」と訴えるようになり精神科を受診。被害妄想、関係妄想、注察妄想、追跡妄想が認められ、薬物治療を開始。テレビを見ていて「お父さんが殺される!」と外へ飛び出したり、父親に攻撃的で注意すると屋根から飛び降り、近所の犬が自分をにらんだと犬をけり、缶切りで自分の手を切り、マッチで腕を焼こうとし、花火で服を焼くようになる。この症状は3ヶ月続き、突然治った。
→ マリファナ吸引を7年続けた後、幻聴や衝動的な暴力が著しくなり入院。薬物治療で症状抑制。
→ 1年ほどマリファナを吸引後、仕事の不安と重なり不眠、幻覚妄想が発症。警察の周りを徘徊し、「自分は死んだ方がいい」などと手首を切り入院。入院中は思考錯乱、情動不安。薬物治療で異常体験は消失するも「なんだかわからないけどとても怖い」「自分が何なのかどこにいるべきなのかわからない」などの後遺症はそのまま。
→ 期間不明。インド、スリランカでマリファナとともにヘロインを乱用。被害妄想と寡黙状態となり入院。「どこかへ連れて行かれる、自分は悪いことをしてスリランカ全体を殺してしまった。だから食事を摂るなどもってのほか」など被害妄想、関係妄想、注察妄想、罪業妄想が著しかった。帰国後も症状は改善せず、結局マリファナ吸引を再開、再度精神科に通院。その後も改善せず、ゆっくりと自発性と思考が消えていき、外来もできなくなっていった。
→ 期間不明。マリファナ吸引を日課とするようになってから2ヵ月後に発狂、夜間に裸で外へ飛び出し、パスポートを破り捨て、パソコンを路上に投げ捨てるなどの異常行動。友人の協力で帰国後、自宅で絶えず鼻をかんだり、手を洗ったり、貧乏ゆすりなどが続く。飲食にも異常があり、突然ゲラゲラ笑い出したりと異常すぎるので家族が精神科に入院させる。激しい症状は改善するも、感情的共感や喜怒哀楽はほぼ失われ、人生の目的はマリファナだけとなる。
→ たった一回、4口だけマリファナタバコを友人に吸わせてもらう。最初は楽しかったが、15~30分後に感情不安定を経て言われない恐怖に襲われる。帰宅のため車を運転すると、他車からの被害妄想、周りの車が極端に遅く感じる時間錯覚、母親に包丁で刺されるという被害妄想で眠れぬ夜を明かす。その後恐怖感はさらに増大し、その後発狂。警察署前で全裸で暴れているところを保護され、精神科で鎮静剤を複数回打たれてようやくおとなしくなる。精神科での治療が功を奏し、なんとかほぼ回復。

先の本には、まだまだ複雑な症例がありますので、作用機序などまで詳しく知りたい方はどうぞ。そして、ひとつ指摘しておきたいと思いますが、この本において紹介されている43人は、全員生きていて話ができることがあるから記録にあるだけです。人格が荒廃し発話もできなくなった患者は記録できません。また、ご紹介したとおり、症状が亢進すると高所から飛び降りたり、幻覚に苛まれたまま車を運転することになります。自殺や死亡事故を起こした場合も、記録には残らないわけです。とんでもない危険運転で犯人死亡の例の中には、マリファナ使用者が隠れているのかもしれません。

昔と違い、現代人はとても大きな力を行使できる

さて、なぜ大麻を規制するべきかというと、大麻使用者は突然正気を失ったり、判断能力を失ったりする危険があるからです。昔、例えば江戸時代においては、人を殺傷する可能性があるものは刀剣、農具、自身の手くらいでしたし、明らかに正気を失った人がこれらを振り回していても、比較的容易に逃走可能でした。

現代は違います。何も力を加えなくても、誤操作で人を死に至らしめるものは無数にあります。自動車運転、クレーンなどの重機操縦、飛行機の操縦などは、操作者が大麻を使用すれば殺人兵器となるでしょう。アルコールと異なり、大麻は作用時間も長く、酔っ払いのように明らかな変化をせず、しかも持込が簡単です。つまり、アルコールと比べてはるかに発覚しにくいのです。個体差はありますが、まともそうに、しっかりと受け答えしながら足取りも軽く出社してきた従業員の、思考だけが狂気に蝕まれているということが起こるわけです。同様に、発電所、水道、ガス、医療、警察、消防などは、判断ミスや不適切な操作で間接的な殺人が起こります。嗜好用大麻を解禁するというのは、突然発狂しうる人材が、医療現場のような命を左右する現場に紛れ込むということです。

厄介なのは、何度も書きますが、大麻の使用効果には毎回個人差があるのです。先輩は大丈夫だったから、昨日大丈夫だったから、それは何の保証にもなりません。ただの屁理屈です。大麻使用者は、常にこの点を無視し、あるいは理解していません。有名な大麻合法化運動者である高樹沙耶氏の異常な言動を見れば、なんとなくその危険性は理解できるのではないでしょうか。

さらに、司法、教育、役所、郵便・配送などは、大麻使用者によって個人の人生を破壊しうるという点も指摘します。大麻は効果時間が長いので、実質的にどこかの時点で酩酊状態で仕事をする羽目になります。アルコールの酔っ払いが出勤することは難しいですが、大麻による酩酊は顔に出ないため出勤可能です。大麻の効果として、責任感の弱化、危機感の弱化、判断能力の低下、知能の低下が認められます。本当に怖いのは、これらは「目に見えません!!」。大麻を使用した裁判官の、警察官の判断力が低下したまま、法を執行する権力はそのままになります。

この、目に見えない危険性を理解できない人だけが、嗜好大麻の解禁を主張するのです。そして、医療用大麻の解禁とセットで嗜好用の大麻も解禁するよう訴えているのです。

一度解禁すれば、元に戻すことは難しいです。なぜなら、政府中枢にも大麻使用者が大量に現れ、大麻禁止を必死に止めるからです。言い方を変えれば、嗜好用大麻を一旦解禁した国は、政府中枢に巣食う大麻中毒者を相手に戦う必要が出てくるのです。

このことを多くの人に知ってほしいと思います。

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