見出し画像

クアラルンプールの朝の光

 窓の無いホテルに滞在した。安ホテルだが、ホステルではなく、ホテル。世界各国旅してきて、旅慣れているような顔をしているが、実は私はバックパッカーの経験が無い。ドミトリー形式の宿でタオルやシャンプーでトランクが占有されるのも、寝るときまで貴重品を気にしなければならないのも面倒でなかなか選択肢に入らない。なので、可能な限りホステルではなくホテルを選ぶ。その結果、クアラルンプールのホテルは窓無しとなった。

 ホテルには夜中に着いたが、窓が無いだけで少し窮屈な感じがした。窓が無いだけではない。トイレとシャワーが同じ部屋。もちろん、いわゆるユニットバスではない。浴槽は無く、シャワールームも無い。少し広めの洗面所付きのトイレの壁にシャワーが付いているだけ。つまりシャワーを浴びるとトイレまでびしょびしょになってしまう。トイレのふたを閉めていてもあまり気持ちの良いものではない。

 そんな最初の夜を過ごした翌朝、1階のテラスのレストランに朝食をとりに出た。その日最初の日の光。クアラルンプールの暖かい気候とキラキラした朝の光がどんな高級ホテルの朝食より贅沢なバカンスの空気を作り出した。何でもない朝食が爽やかな忘れられないものになった。

画像1

 この日、初めて明るいクアラルンプールを見た。コロニアル風の建物とヤシの木の組み合わせが素敵。移動には地下鉄のようなモノレールのようなMRTを使う。台湾のMRTと同じ造り。同じメーカーが作ったのかしら、と少し職業病を発症する。想像していたものよりずっときれいで清潔で快適。さすがイスラム教徒の多い国。女性専用車もある。乗ってみたらかなり空いていた。逆に女性専用車以外はぎゅうぎゅうに混んでおり、暑い国なのでどうしようもないのだが、男性は少し汗臭かったので、助かった。

 MRTで向かった先は布地の問屋街。一般的にガイドブックにはなかなか問屋街の情報は載らないが、たまたま地図を眺めていて小さく書かれた問屋街の文字を見つけ、行くことにした。洋裁や手芸を趣味としているので、興味がわいたのだ。

 布地にもお国柄が出る。熱帯のマレーシアでは涼しげなポリエステルのカラフルな布がロール状に巻かれているものが多かった。日本では半分に折られて巻かれたものが並んでいたりするが、マレーシアは折らずにフルサイズで巻かれて柱状に林立している。シャリシャリした素材のポリエステルは使いにくいので綿地が欲しいなぁ、と順に店を見て回る。だが、暑い国なので涼しい素材のポリエステルばかり。

画像2

 ようやく1軒綿地を扱う店を見つけた。今度はロール巻きではなく全てカットされた布だった。何の単位か不明だが、全て4m長にカットされ畳まれた布が積まれている。4mも要らないのになぁ、と店内をうろうろする。半分にカットしてくれないか頼んでみるも、あっさり断られた。

 イスラム教徒の多いマレーシアでは暑いのに女性は肌を露出しない。(イスラム教徒以外は別。)長袖長ズボンを着用する女性が多くいる。彼女たちの服地の単位が4m長なのかしら、と想像しながら隣の店も物色。すると一部の柄では2m長でカットされていることが分かった。全くマレーシアっぽくないマリメッコの花柄のにせものも可愛いけれど、やめておく。トロピカル柄が一番マレーシアっぽいかな。と思うも白地とグリーン地があり、これまた迷う。白地の方が爽やかだけど、スカートにするならグリーン地の方が落ち着くかなぁ、と迷いに迷ってグリーン地に。

画像3

 この問屋街には布地の店の他にも小さなブローチを扱う店もあった。どうやらイスラム教徒の女性が頭にスカーフを留めておくために付けるものらしい。同じイスラム教徒でも中東の女性より、マレーシアの女性の方が華やかにおしゃれを楽しんでいる。彼女たちはスカーフを頭からかぶり、髪も隠れるように覆っている。どう巻いているのか分からないが、要所要所をピンで留めている。しかも安全ピンではなく、ただのマチ針。何かの拍子に頭に刺さらないか心配になる。そのスカーフを顔の輪郭にぴったり沿わせて最後に留める時に小さなブローチを付けるようだ。道理で、服に付けるには一般的なブローチに比べると格段に小さい。だが、どれもこれもキラキラしていて、とても華やか。しばらく迷って、セーターなどに付けても違和感の無いデザインを選んだ。

 どの国のどんな宗教の女性も小さくてキラキラしたものが好きなのだ。

magazine "foreign bijou" vol.10

よろしければサポートお願いします!皆さんが楽しめるものをぼちぼち書き足して行きます(*^^*)