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拝啓、学際情報学府

はじめまして、yunoLv3です。東大の学際情報学府という大学院で博士課程の学生をしています。この記事では、2019年の入試説明会で現役学生として行った学府を紹介するトークをもとに、学際情報学府へのラブソングを書きます。時々アレなこともあるけど、結構気に入ってるんですよね。

自己紹介

僕はこんな感じの経歴の人です。

2018年 3月:東京大学 工学部 電子情報工学科 卒業
2020年 3月:東京大学大学院 学際情報学府 先端表現情報学コース
(廣瀬・葛岡・鳴海研究室)修士課程 修了
2020年 4月:同大学院 同研究室 博士課程へ進学
(現在は廣瀬先生の退官に伴って葛岡・雨宮・鳴海研究室)

知性・情動・意志などに代表される人の「心」を、自在にデザインする方法に強い興味があります。普段は、バーチャルリアリティ(VR)やアバター技術を活用した「変身」や「分身」などの身体変容体験を活用して、人の認知・行動をデザインする手法や、新しい身体や自己のあり方などについて研究しています。

少し大雑把な言い方をしてみれば、心理学や認知科学の知見を参照し、それを工学的なアプローチに融合することで、人の心の解明や、実生活上の問題解決を図るということをしています。そんなふうに、僕が在籍している学際情報学府という大学院は、情報を軸にした分野横断的な研究を行える場所です。

現在、人間の意識や行動、生命や身体、社会や文化、技術や芸術、産業や政治経済、法や政策、環境や国際関係など、人類文明のあらゆる側面が、「情報」によってラディカルな大転換を遂げつつあります。大学の知の制度も急激に変動するなかで、「情報」を共通言語とした「知の組み替え」が求められています。それに応えるため、情報学環・学際情報学府は、「情報」を交点として「知」を結び付け編み直していく先進的な研究教育活動を展開しています。「情報学」を探求することで、「知の構造化」に積極的に参加し、「知の公共性」を担保していくことを使命としています。
                     (学環・学府について より)

僕は情報学環・学際情報学府の理念が好きです。例えば以下のような人は、ぜひ進学先として学際情報学府を検討してみてください。

●文理に囚われない幅広い分野に興味がある
●興味がアート・デザイン・サイエンス・テクノロジーにまたがっている
●あるテーマに強い興味を持っているが、それが理系なのか文系なのかよくわからない
●情報技術が、人間の意識、行動、生命、身体、社会、文化、技術、芸術、産業、政治経済、法、政策、環境、国際関係……などの持つ既存の枠組みを、どのように変革するのか知りたい
●情報技術を駆使することで、上記に新しい変革をもたらしたい
●「表現」をしたい(先端表現情報学コースへ!)
●……etc

大学院入試 説明会

春から夏にかけて、入試情報の掲載、学府の説明会、オープンラボなどが行われます。詳しくは学府のWebページをチェックしてみてください。

また学際情報学について、先生の口から聞きたいという人は、かつて東大で「学際情報学」をテーマにした連続講義が行われています。

コウモリであるとはどのようなことか

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河合塾 2020年度 2020年度 第 1 回全統共通テスト模試・第 1 回全統 記述 模試 大学コード表

みなさんは、自分が文理の選択や、身を置く大学の学部を考えるときに、居心地の悪さを覚えたことはありませんか?僕はあります。上に掲げたような、膨大な項目を持っている大学の学部学科リストを眺めても、しっくりこないような気持ちを拭えず、自分がそこに身を置く未来を上手く思い描くことができませんでした。

高校生までの僕は、理系の組に身を置きながらも、物語や言葉といった国語に含まれる科目が好きでした。数学と理科がどうもダメで嫌いでした。地歴の面白さには全く気がついていませんでした。音楽とコンピュータ、そして創作は小学生の頃からなんとなく好きでした。理系だったけど、文系科目もいいなと感じる、どっちつかずの心持ちだった訳です。

(進路選択のモラトリアムを延長するように)東大に来てからは、人の意識や心の問題に惹かれ、認知科学、脳科学、心理学、文化人類学、哲学あたりの講義を好んで履修していました。でも、その問題に対して自分がどういう姿勢を取ったらいいのか分からなかったんですよね。

実験をして脳の仕組みを解明するのか?……うーん、あんまり実感湧かない。じゃあ文学部に進んで思索と文献調査に励むのか?……いや、僕は理系だし情報技術から離れたいわけじゃないんだよなぁ……。でも、何かを表現する時にコンピュータを道具として用いたいとは思うけれど、工学部で情報技術を極めたいかと言われると微妙……。

僕にとって心地良い居場所、あんの!?

えっ、こんなこと工学部でやっていいの!?

そんな時に出会ったのがバーチャルリアリティ(VR)、そして現在の指導教官である鳴海拓志先生の研究室(現 葛岡・雨宮・鳴海研究室)でした。この研究室は情報理工学系研究科だけでなく、学際情報学府の学生も受け入れています。

鳴海先生は、人の知覚・認知的性質を巧みに利用して、見た目と匂いを変えることで(物理的には同じクッキーなのに)違う味に感じられるシステムを作っていました。

同研究室の吉田成朗さん(2021年より先端研に異動)は、感情に関する心理学的知見を活用して、表情を笑顔や悲しい顔に変形してフィードバックすることで、ポジティブ・ネガティブなどの感情を誘起する鏡を作っていました。(この研究に関する制作秘話は本人のnoteで詳しく読めます。)

同研究室の小川奈美さん(2021年より同研究室 研究員)は、文学部心理学専修で学部時代を過ごしたバックグラウンドを持っており、VR技術を駆使して身体を変容させた時の身体所有感や行為主体感を調べていました。

カッコいい……。

そこでは、人の知覚や認知、感情といった心理学的探究と、問題解決、システム構築、表現といった工学的実践が融合していました。
コンピュータと人とのインタラクションを扱うHuman Computer Interactionという分野の存在を知ったのはもう少し後の話ですが、「工学をやりながら心の問題を考えても良いんだ!」という赦しのような感覚を覚えて感動しました。今ではあまりそういうこともないですけど、昔の僕は、自分の「好き」に、名前がついていないといけないのだと思っていたから。
(もちろん、本来は良い悪いなんて縛りはないので、誰が赦した訳でもなく、自らを縛り付ける規範を自ら解くことのできなかった浅学を晒しているだけなのですが……。)

もっと言うと、当時の僕は、(SAOとか好きだったから)VRには強烈な憧憬を抱いていたのだけれど、まさか研究領域とそのための方法論が成立しているとすら思っていませんでした。

呼吸が楽にできたから

上に名前を挙げた3人は、修士や博士課程で学際情報学府に所属していた大先輩であり、僕の舵を学際情報学府へと決定的に傾けた澪標のような人たちです。学府には、軸足を工学に置きながらも、心や感情、身体、文化、社会といった諸領域の探究をしている人が、学生・先生の分別なくたくさんいました。博士に進学しようと思ったのは、単純にその人たちがカッコ良かったからだと思います。

学際情報学府に来て心から良かったなと思うことは、自分の興味分野に名前が与えられていること、または、まだ名前が与えられていなくても良いというマインドセットを持てたことです。それは、自分の好きなことについて、自分の所属に関連付けて語ったとしても息苦しくないということ。自由に探求して良いのだということ。そしてそういう場が大学院として用意されることで、当然、似たような興味を持つ人が集まってくること。

博士課程に進学する際、僕は情報理工学系研究科や工学系研究科を進学先に選ぶこともできました。いずれも所属する研究室は同じだし、実質的に受けられる教育についても大きな違いはないと思います。それでも、ただ呼吸が楽にできたからという一点において、僕は学際情報学府に残ることを決めました。

学問の細分化と学際の重要性

星の王子さまには、こんな一節があります。

「ここで何をしているのですか?」
「わしは地理学者だ」と老紳士は言った。
(中略)
「本当にきれいな星ですね、ここは。大きな海はありますか?」
「知らないね」と地理学者は答えた。
「そうですか」。王子さまはちょっとがっかりした。
「じゃ、山は?」
「それも、知らないね」
「じゃあ、町や河や沙漠は?」
「どれも、知らない」と地理学者は答えた。
「でも、地理学者なんでしょ!」
「そのとおり」と地理学者は言った。「しかし私は探検家ではない。この星には探検家が徹底的に不足しているのだ。町や河や山や海や、大洋や沙漠を数えるのは地理学者ではない。地理学者は大事な仕事をしているから、あちこち歩き回る暇などない。(後略)

科学の進歩は凄まじく、現代までに専門領域の細分化が随分と進みました。しかし、異なる専門分野は、それぞれに独自の言葉、知識の表現方法、価値基準を持っており、だんだんと相互理解が難しくなってきました。そうした「弊害」のような一端を垣間見れるシーンです。

実際のところ、研究領域の細分化は、今もなお進行しています。例えば、科研費の申請時に使われる研究分野リスト「分科細目表」を見てると、平成24年度に298細目だったものが、平成 29 年度には321細目にまで増えています。理工系だとこんな感じ。

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物事を解明する科学においては、分野が細分化していくのは自然の理かもしれません。しかし、専門分野が尖っていくことで解ける問題もあれば、鋭利な専門性だけでは太刀打ちできない問題もあるのです。

例えば、近代科学が積み上げてきた方法論では答えが出しにくい問題。
例えば、実社会で人、社会、自然が絡み合って起きている複合的な問題。
例えば、人類社会を変革する情報技術が、今まさに生み出している問題。

実世界でいま我々が直面している複雑な問題を解くには、様々な分野の知見を融合する「学際的な」視点が必要です。複数の国が関係することを国際と呼ぶように、複数の学問を横断するような領域を学際と呼びます。

分野横断の重要性は問題解決だけに留まりません。学際領域は、既存の学問領域を深化することも、新しい学問分野が生まれることもある、極めてラディカルでワクワクする現場です。例えば、認知科学は、心の問題に果敢に挑むために、言語学、哲学、心理学、計算機科学などを巻き込みながら誕生しました。生物学と化学の学際分野として誕生した生化学は、今では一つの専門分野として成熟しています。

僕がいま愛してやまないVRは、人の「現実感」を工学的に作り出す技術。これには、人の知覚や認知の性質を理解するサイエンス的な視点だけでなく、それをハックするシステムを実装するためのテクノロジー的な視点も必要になります。まさしく学際的な領域です。

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ちなみに学際情報学府 先端表現情報学コースには、VR/ARを扱っている先生が集中的に在籍しており、xRを研究したい、xRで研究したいという人には打ってつけの環境です。

学際という危険を冒す勇気

これは余談なんですが、2021年3月に、研究紀要『東京大学大学院情報学環紀要 情報学研究』の100号が刊行されました。その巻頭で、当時学環長だった越塚先生が、「学際という危険を冒す勇気」というタイトルで記事を寄せています。学際情報学府という場所に魅力を感じる皆さん、きっと勇気づけられると思うので良かったら読んでみてください。

(ちなみに佐倉先生やら暦本先生やら他の記事も面白いです。)

学際情報学府へようこそ

僕は先端表現情報学コースにいるので、それを例に取り上げてみましょう。次のキーワードをご覧遊ばせ(出典)。

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こうした専門領域を持つ先生方が一同に介して編み上げられているのが、情報学館・学際情報学府。文字列を見てワクワクした人は、ぜひいらっしゃいませ。

何かに夢中になっている人、居ても立っても居られない熱情を抱えている人、表現せずにはいられない人、この世界に何か愛するものを見つけられた人、そんな人たちと一緒にディスカッションできる日が来るのを楽しみにしてます!

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