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100年前の伊豆を甦らせる「帆船Ami」

西伊豆地域を中心に活動する帆船Ami。なぜ帆船Amiはここにいるのか。海から見る伊豆地域の魅力を帆船Amiの船長である溜光雄さんからお聞きしました。


溜船長の来歴

1948年生まれで現在76歳。長崎五島列島出身。船のチャーター事業を1997年に開始して、2004年に帆船Amiの船長になる。ニュージーランド、韓国、ロシアでの航海経験をもつ。帆船Amiのチャーター事業を通して沼津市の観光業の発展や、瀬戸内地域や長崎帆船祭りなどのイベント、ゲームPVやテレビの撮影にて活躍中。

歴史解説をする船長

帆船Amiの船歴

1989年建造。日本の著名ヨット設計士横山晃氏が設計した唯一の縦帆付きスクーナー。西伊豆の戸田で生産された日本初の西洋型帆船「戸田号」と沖縄の伝統的な船「サバニ」を源流とする設計。8枚帆の木造帆船は日本で唯一。

西伊豆の風景

伊豆に魅了されて20年

ーーなぜ溜さんは伊豆で帆船Amiを運行している?

昔からAmiは青雲と言う名前で伊豆を中心に活動していました。20年前に前オーナーが扱いきれない部分を「君なら乗りこなせる」と言って譲ってくれたのです。

譲ることを提案されて20分も経たずに私がオーナーになることを決断しました。スクーナー型の船の船長になることは私の憧れだったので。

それから20年が経つ今、2016年頃から神戸開港周年イベントをきっかけに、長崎帆船祭りや国を代表してロシアや韓国に赴くなど、伊豆だけではなく様々な地域で活動することが増えてきています。

世界につながる帆船Ami

それでも私と帆船Amiの母港は伊豆です。面白さが特別です。

ーー伊豆地域の自然や魅力はどんな特別さがありますか?

沼津などの伊豆半島の付け根から先の方に行くにつれて変化する植生動物、地域は唯一無二の多様性を持っています。特に松崎から石廊崎にかけての地形は変化に富んでいて、船から見る悠然とした一枚岩の様子は圧倒されるものがあります。

伊豆半島は元々島だったのですが、地殻変動によって本州にぶつかって半島になりました。なのである場所を境に植物や動物の生態、地形が異なるものになっています。

これらの影響もあって伊豆はどこでも温泉が沸いているのも面白いですよね。

ーー帆船で行くことで特別に楽しめるスポットがあったら教えてください。

伊豆にある港はどこも独特な文化や温泉、自然に富んでいて楽しいですよ。あえてあげるとすれば松崎、下田、伊東、熱海です。港と街が一体となっていて、温泉や食事を楽しみやすい。海から来て街を楽しみ、海に帰っていく感覚はまさに非日常です。

その中でも強いて言えば松崎が一番好きですね。花とロマンの里と呼ばれる松崎には山、海、花、温泉、街並みと全てが揃っています。

季節ごとのイベントも充実していて棚田や蛍、底引網体験など様々です。トレイルランニングや自転車、ダイビングも積極的に誘致しているのでぜひイベントを機会に行かれてみてはいかがでしょうか。

船で楽しむ場合は松崎の近くに黄金崎や萩谷という入江があります。そこにアンカリングしてBBQしながら海水浴とか釣りをしてもいいですね。松崎に船を止めてSUPで旅するのも楽しいと思います。

いくらでも泳げる

ーー季節ごとの見どころはどこですか?

伊豆の春は2月の終わりからです。河津桜が咲き始めて、4月にはソメイヨシノとヤマザクラが咲きます。新緑の中にぽつりぽつりとある白い斑点を海から眺めるのは春の訪れを感じさせます。桜をこれほど長く楽しめる所もあまりないですよ。

夏は広葉樹の深い緑が海の青さと広がる空と対比を成しています。入江に停泊してシュノーケリングやBBQを楽しんで、港町に入り食事をして温泉に入る。そして夜は船の上で団欒しながら盃を交わし合います。

秋の紅葉は12月からです。海と風が特に澄む時期で、風をかき分けて船を走らせるにはいちばん気持ちの良い時期です。富士山が特別に綺麗に見れるのが特徴です。気温も暑さが和らいで風も強くなってくる時期ですので、帆をあげて走る感覚を知りたい方にはおすすめです。

伊豆に冬はない。冬の寒さが深い場所から来られた方はそう言います。実際12月でも風がなければ夜に半袖で過ごすこともできますよ。そして海底15mくらいは透き通っていて船はまるで空に浮いてるかのように錯覚します。

これからの伊豆と帆船Ami

ーー今後の伊豆地域での活動の展望を教えてください。

ここだけの話、インバウンド客を受け入れるプロジェクトが進んでいます。今までも国際イベントに参加してきているし、クルーも船長も外国語は苦手ではないので、受け入れ態勢は問題ないです。

一方で、インバウンドのお客様はすでに海外で船に親しんできた方々も多いです。日本の帆船Amiがどんなオリジナリティを提供できるのかということを考えています。例えば歴史や体験。私とAmiでしか伝えられない魅力があると思っています。

ーー観光促進のため計画していることはありますか?

船を使った新しい伊豆の楽しみ方を提案していきます。車や自転車からだけでは絶対に見られない。足元にある絶景は見ることはできないですよね。ドローンなどの空撮だけではなく船で見てもらうことはお客様の特別な経験になるはずです。

それをただの観光船ではなく、船を操る楽しさを体験してもらいながら自分たちで目的地に向かってもらう。そこに過去の船乗りがみてきた本当の絶景があります。

ーー地域活性化についてどう思っていますか?

帆船Amiは15人ほどしかゲストを乗せることができないので、客船のように直接的な経済効果を与えることはできません。それでもちょうどいいサイズを活かして様々な港に入れます。

大型の船では入れない場所に行き、小さい船で滞在するには快適ではない場所がたくさんあります。それ以外にも港で陸の人と会話をしたり船を案内することで地域の方々に特別な機会を提供することができます。

もう一つ、帆船Amiは伊豆風景の一つであるということです。100年前くらいの伊豆では帆船Amiと同じ形をした船が一般的でした。その姿を今に伝えられるのはAmiだけです。昨年、夕日とAmiの写真が伊豆の写真コンクールのグランプリになりNHKで放送されました。絶景の中にいても邪魔にならない船なんて珍しいでしょう。

地域の人々に根付きながら常に新しい人が集う帆船Amiは地域にお住まいの方と観光客の交流を促進できます。また、人だけではなく観光地に対しても新しい視点を与えることができると思っています。

伝えたい。船旅と伊豆の魅力。

ーーこれから伊豆を訪れる観光客に伝えたいことはありますか?

伊豆に来ると豊かな自然と地形に出会うことができます。船ではなくても色々な海岸を巡ってシュノーケリングをして、港町で温泉に入って一休みする。海と港町の組み合わせでゆっくりと過ごされてみてはいかがでしょうか。

海から見る街は新しい

伊豆には冬がないと言われるくらい冬の気温が安定しています。寒いところが苦手、自然を体感したいという方にはぴったりの場所です。山の上は凍結していたりすることがあるので、お越しになる際はそこだけ気をつけてください。

ーー船旅に興味を持つ若者へアドバイスをお願いします。

船旅というと太平洋横断をイメージする人が多いです。ですがそのような航海は成功者の裏に数多の失敗者がいます。自然との戦いはどうしても目指さないといけないことだとは思いません。

また、豪華客船でのクルーズブームもありますが、どうしても海や自然を感じる楽しさや、自分の力で旅をする達成感から離れたものになってしまいます。
船の旅の楽しさは自然を感じて、楽しむことだと思います。色々な地域に寄りながらであれば難しさはあまりないので、世界一周であろうと楽しみながらできると思います。

自分だけで操船するのが難しいようでしたら、帆船Amiはグローバルな帆船旅につながるトレーニングを提供しています。世界中の帆船をクルーとして渡り歩いて旅をすることは若者の特権ですし、楽しいものになると思いますよ。世界に出なかったとしても伊豆を自分のベースにして楽しめるだけの技術と経験を積むことはできます。

世界で見つけた仲間達

ーー最後に言いたいことは?

帆船に乗って20年。船に乗り始めてからかなり経ちますが、今でも新しい発見があります。船の操船だけではなく帆の扱い方、自然との付き合い方、エンジン機器類の整備。学ぶことばかりです。この楽しさを皆さんにもお裾分けしたいと思っているのでぜひ体験からご参加ください!

体験では小さなお子様から大人まで楽しめるクルー体験や、船上BBQ、海の生き物達の生態を追うクルーズなど様々な企画があります。

後日談

いつの間にか伊豆の魅力に出会って5年になろうとしています。初めての出会いは2019年の12月。沼津港から戸田港への旅でした。12月とは思えない暖かさと海の綺麗さに魅了されました。それから西伊豆は特別な場所です。

透き通る海

船旅を通じて築き上げる人間関係は年齢も地位も何も関係ない。自分ができることを提供して、できない部分は助けてもらう。とても安心する環境があります。だから僕のマザーシップはどれだけ時間が経っても帆船Amiで、母港は西伊豆であり続けます。

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