さあ、TKGのMTGを始めようではないか。

実は会社員だったりする私が近年出会って、なんとなく気になっている言葉たちがいる。例えば、MTG。マジで突然ごきげんようの頭文字……というわけではない。そんな挨拶をされても困る。どうやら正解は、ミーティングの略らしい。数年前、取引相手からのメールに、何食わぬ顔で登場してきた時に衝撃を受けたものだ。

メール本文中に文字数制限はなかったはずだ。それなのになぜ使ったのか。かっこいいとでも思ったのか。できる人アピールか。使う相手(私)を見誤ったとしか思えなかった。文字数は半分になったが、理解するのに倍の時間がかかっているため、非効率なことこの上ない。電脳化社会においての一般常識になっているのかもしれないが、古風な私にとっては、真面目にふざけているTKG(卵かけご飯)同様、非常識認定案件だったのである。

このような甘酸っぱい思い出が蘇ってしまったのは、つい先日、別の言葉に出会ったからだ。PJTである。そしてまたもや仕事相手からのメールに登場してきた。誰も彼も刺客のようだ。目にした瞬間、私は動物的直感ともいえる本能で察知した。これは、MTGと似た匂いのものだと。
こっそりネットで調べたところ、正解は、プロジェクトだった。使うことで、私を弄ぶ以外に何か著しい利点でもあるのだろうか。

――今回のPJTの次回MTG日程のご都合はいかがでしょうか?
という暗号文のようなメールを受診した暁には
……御社のメール、日本語のご都合が悪いのでしょうか? 
などと返信してしまいたくなってしまうではないか……良識ある私はしないけれど。

きっとこれが今の世の中の普通なのだ。残念だがそうに違いない。私が物語世界に浸っている間に、現実社会ではアルファベットの略語がはびこり、当たり前のように流通するようになってしまっていたのだ。恐ろしい浸透力。
周回遅れの私ができることといえば、もはや、見知らぬ単語に出会った時、当然知っていますという顔をしながら、そっとネットで調べることくらいしか思いつかない。

KPIもPTAに見えてくる。
NDAもDNAのアナグラムに思えてくる。
略語略語さらに略語。そして略語から略語へ。略語のご都合はいかがでしょうか? 悔しいが敗北だ。
他の人は見間違えないのだろうか。例えばこの暗号文も目にした瞬間に脳内で翻訳できるのだろうか。

「ではTKGのPJTのMTGを始めます」

(日本語訳:ではたまごかけご飯企画の打ち合わせを始めます)

しまった、うっかりほっこりしてしまった。


※私的単語帳
・MTG:ミーティングの略
・PJT:プロジェクトの略
・KPI:重要業績評価指標(Key Performance Indicator)目標達成の度合いを評価する基準となる数値らしい。漢字の字面がなんだか強そう。そしてちょっとコワイ。
・PTA:各学校で組織された保護者と教職員による団体。ずっと保護者のことだと思っていた。
・NDA:秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement)
・DNA:遺伝子情報の物質ということで良しとしたい。
・TKG:卵かけご飯。この流れに置くとそれっぽく見える気がする。

読んだ人が笑顔になれるような文章を書きたいと思います。福来る、笑う門になることを目指して。よかったら、SNSなどで拡散していただけると嬉しいです。