第11話 イモの行方を探している
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「二瀬先輩のため、だろ」
響斗の眉がピクリと動く。
「でも、ここまで大事にさせるつもりなんてなかった。こんな風に首吊りさせるつもりも無かったんだろ?」
響斗が見せた動揺の色を僕は見逃さなかった。その隙をつき、彼を押しのけて部長の元へと近づく。部長の首にかかっている紐を外し、椅子からゆっくりとおろした。
「神城くん……ありがと……」
横たわるように僕に体を預け、弱々しく答える部長は笑顔を向けていたが、力なく上がった口角は微細なものだった。
「神城先輩、なんで。なんで助けちゃうんですか。そいつが妹子さんを殺したのに」
呆然と立ち尽くす響斗がぽそりと呟いている。
「妹子さんはボクのことを弟みたいに可愛がってくれて、ボクも妹子さんが大好きで。高校だって合格するために頑張って勉強してたのに……なんで、なんで合格発表の前に妹子さんが亡くなった事を聞かなきゃいけないんですか……」
掠れる声が部屋に溶け込み、響斗の握る拳がふるふると震えている。
「響斗、お前勘違いしていないか? 部長だって自殺の原因は知らない」
確かに部長と二瀬先輩は仲が良かった。この教室を使ってひっそりマジックを披露してたところを僕も部長も見ていた。
「でも、だって、妹子さんが死んだ時に現場にあった絵は部長の絵……」
僕の体にかかっていたものが軽くなる。部長が自分で少し体を立てている。
「妹子に、頼まれたの。サツマイモだけが塗られていない水彩画を」
サツマイモが塗られていない絵。全ての発端となったもの。
「あの子マジック好きだったからてっきりマジックに使うのかと思ってた。そのために描いたのに……妹子がいなくなるなんて」
床を見つめる部長の瞳が揺らいでいる。きらりと光ったそれが彼女のスカートにじわりと水玉模様をつけた。
「なんで気づけなかったのかしら」
僕は響斗と目を合わす。
「美術室にサツマイモの無い絵を置いたのはお前だ。二瀬先輩のことを聞くために。でも、なぜか部長は消えてしまい、二瀬先輩と同じように首吊りさせられていた。そうだな?」
「ボクはただ知りたかっただけで、こんな風に首吊りさせるつもりなんて」
「わかってる。響斗が犯人じゃないことは。響斗は犯人にとって都合の良い駒だった。いいように使われたんだ」
「じゃあ誰が」
「部長、こうなる前に犯人を見ていますか?」
鼻を啜りながら目尻の涙を拭った部長に聞いてみる。部長は首を捻りながら考え込んでいた。
「わからないわ。見る間もなく意識を失ったわ」
部長は何も見ていない。手がかりとなるものもここには無い。でも、僕の頭の中には一つ浮かんでいた。二瀬先輩と部長を繋ぎ、響斗を駒として使えるほど近くにいる奴を。
「もうじきやってくると思う。向こうもイモの行方を探しているのだから」
「イモの行方……?」
「あぁ。全てを消して無かったことにさせるだろう」
遠くの階段から足音が聞こえてくる。ゆっくりと歩みを進めるその音は確実にこの部屋へと向かっている。部長の体が少しだけ後ろへと滑る。響斗は握った拳を緩めずにジッと扉を見つめていた。
「来ますね」
廊下に響くペタペタとした足音が第二美術室にも届いてくる。扉の前で止まるとガラガラと音を立てて開いた。集まる三人の視線が真実を照らし出した。
「お前ら、まだ帰ってなかったのか。ったく、後始末するこっちの気持ちも考えろよなー」
「来ましたね、先生」
気怠げに立っている彼の口角は上がっているものの、眼は静かに光なくこちらを捉えていた。
続く
担当 白樺桜樹
次回更新は1月15日(土)予定です。
お楽しみに!
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