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【小説】不思議なTELのアリス 第5話 束の間ティータイム【毎月20日更新!】

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「よかった。戻ってこられたみたいだね」

 目を開けると先程とは違う景色、だけどあの不思議な世界に放り出される前の景色が広がっていた。

「テルさん」
「アリスと、君はくっついてきてしまったようだね」
「なんやここ。ほいであんたは何を想像したんや。あの女追えないやんけ」

 青年も一緒に来てしまったようだ。なんだか文句を言いたげな様子で執拗にアリスの周りを飛び回っている。

「なんとなく、テルさんの髪色どんなんだっけーとか考えてて。だってテルさん綺麗な髪をしてるのよ? でも確かにあなたの言うとおり、想像したら行きたいところにいけたわ」

 青年が言っていた、『追いかけたいもんがあんなら、しっかりイメージしたらええ。頭の中で、鮮明に、明確に』の言葉通り、アリスは想像したテルのところに行くことができた。イメージをすることはテレワープにはとても重要そうだ。

「とにかく、アリスが何もなく戻ってきてよかった。さて、元いた場所に帰してあげないとね」
「あ、えっと、それが」
「ん? 何か問題でも?」
「あごを持っていかんとこの子は帰せへんで」
「あご? どういうことかな?」
「えへへ」

 アリスは視線を宙に泳がせながらとりあえず笑っておいた。アリス自身もこのまま帰ることを選びたい。だけど、あの怖い王様から逃げられるような気は一切しなかった。

「何か事情があるのかい? それなら詳しく聞きたいね」

 そう言ってテルはアリスと青年に手招きをした。

「お茶を飲みながら聞かせてくれるかい?」

 アリスはテルの背中を追って進むと、その後ろからふよふよと青年も後を追った。たくさんの電話を通り過ぎ、テーブルのある部屋に案内をされた。テルは「ちょっと待っててね」と別の扉の向こうに消えてしまった。

「ここはどこや」

 青年は不満そうに呟いている。アリスとテルだけで話を進めていったことに怒っているのだろうか。

「ここはテレホン堂よ。私ここから電話であなたのいた世界に来ちゃったのよ。あの時なんで電話に出ちゃってのかしら」
「テレワープしたんか? なんにも想像せんと」
「ええ。なんにも。あ、やべ、電話とっちゃった、ぐらいしか考えてなかったわ」
「ほーん」

 青年は周りの家具とかが気になるのか、アリスのそばを離れて部屋中を飛び回っている。その影をアリスは目で追っているが、少し目が回りそうだった。

「おまたせ。お手製のティーセットだよ」

 そう言って入ってきたテルはトレーの上に綺麗なティーカップやティーポット、少しのお菓子がが乗っている。

「まあ、すてき」
「気分で茶葉を変えるんだ。今日はアールグレイにしてみたよ」

 テーブルに並んだティーカップは白を基調とした上品な品物で、こんな感じの骨董品をおばあちゃん家で見かけた気がする。綺麗だな、素敵だな、と眺めた記憶がアリスの脳をかすめた。
 カップを手にしたテルはティーポットを高い位置で掲げ、そこからカップめがけて紅茶を注いでいる。まるで滝のようで、どこかで見たような注ぎ方だ。テルも知っているのだろうか。

「すごいわ。テルさんその注ぎ方はどこで」
「企業秘密だよ」
「企業、秘密」
「はよ紅茶くれや。喉乾いたねん」

 テルが取り出したのは小さめのカップだった。多分あれはエスプレッソ用のカップだろう。あれもおばあちゃん家で見かけたことがある。
 アリスは目の前に置かれたカップを手に取り顔に近づけると、ふわりと紅茶のいい香りがした。一口飲むと渋みはなくとても飲みやすい。

「おいしい。おいしいわ、テルさん」
「ありがとう。お口にあってよかったよ」
「おかわりほしいわ。はよちょうだい」

 早くも青年はおかわりを求めている。ゆっくり飲むようなタイプではないようだ。

「気に入ってくれたようで。はい、どうぞ」
「おおきに」
「さて。それじゃあ教えてくれないかな。何があったのかを」

 向かい側に座ったテルが一息ついたところで、アリスはテレワープした後何があったのかを、城のこと、王のこと、王のあごを奪った女を連れてくると言ってしまったこと、全てを話した。

「おっと、思った以上に大変なことになっているじゃないか」
「どうしたらいいかしら、テルさん教えて」
「あの女を追うはずやったのに」
「ここからその女を追うしかないね」
「できるの?」
「できるさ。ただ、追いかけるのには解像度を上げないとね。想像することがみちしるべ、だからね」
「せやで。あんたの想像にかかっとるんやで」

 二人の視線がアリスに集中して痛い。そんなに重要な役を担うのは慣れていない。

「でも、どうやって? だってやっぱり知らないのよ。その人のこと全然」
「とにかくまっしろい髪の女を想像するんや。あごの中身を持った」
「そのあごの中身をってのもわからないわ。中身なんて、やっぱり、グロいわ」
「もうこの際中身の想像はやめたらどうだい? 持っていかれたあごを想像するんだ。怖い王様のあごを持っていった、髪の白い女性」
「なるほど、それなら想像しやすい、のかしら?」
「とにかく、やってみい」

 アリスは目を閉じた。真っ暗な闇の中、浮かび上がる王の姿。怯んでしまうくらいに怖い王、そのあごを奪っていく女性の後ろ姿。その髪は驚くくらいに綺麗な白。

「いけるわ。今度こそ」

 アリスは電話の前に立ち、目についた厳かな雰囲気のある西洋の電話を手にした。そして目を閉じて先程見たあの姿を想像した。体に謎の浮遊感があった後、その女がこちらを振り返った気がした。

(つづく)

第5話担当 白樺桜樹



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