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「つながらない休暇」実践のすすめ

スマホが登場して以来、オンとオフの区別をつけることが劇的に難しくなった。海外と仕事をしているとなおさらである。

私がサンフランシスコの会社で働いていたときは、チームメンバーが東京オフィスにもいたため、夜に家でSlack返信や電話でメンバーの相談に乗るということはよくあったし、日曜の夕方に東京が月曜の朝を迎えると、何か通知が来ていないかと頻繁にスマホをチェックしていた。また、ソーシャルメディアに関わる仕事をしていたこともあり、夜プライベートでSNSをチェックしている最中に会社のオフィシャルアカウントでメンバーが投稿した内容を目にすると、忘れないうちにそのフィードバックを送ることもあった。

これらをストレスに感じたことは特になく、自分としては時間を有効活用しているぐらいに思っていたのだが、それでもきちんと休めていなかったのだろう。そんな気がした私は「つながりません宣言」をして、1週間の有休を取った。1年前の夏のことである。

実は、会社のオフィシャル連休(サンクスギビング、日本勤務&出張時の年末年始)以外で1週間の休みを取ったのは入社以来2年間でそのときが初めてだった。その休暇を取るにあたって、私は約1ヵ月前から「その1週間はつながりませんよ」ということをしつこくしつこく周知した。仕事関連のSlackやメール通知はオフにするし、ソーシャルメディアも見ないほか、メッセンジャーやLINEもつながりません、緊急連絡は電話でお願いします、と。

1か月間の周知が奏功したのか、皆本当に連絡を遠慮してくれて、そのおかげでものすごくリフレッシュできた1週間となった。それで気づいた。私は「つながりすぎていた」ことで、全然休めていなかったのだ。

実は欧米では数年前から「つながらない権利」が話題だ。フランスでは2016年に「つながらない権利」が認められたし、ニューヨーク市でも現在検討中とのことだ。それだけ「つながりすぎる」ことを問題視する人が多いのだろう。実際、過去の有休中にメッセージへの返信をしたり会議に参加したことのある人に対して「あの人は休み中でもSlackを見ている」「たぶん頼めば会議に出てくれる」と周りが期待する光景はまあまあ目にした。かくいう私も休暇中の人に「本当にすみません」と言いながらもメッセージを送ったことが何度かある。休んでいない方は「ちょっとだけなら」と軽い気持ちでメッセージを送るが、その「ちょっとだけ」を10人にされようものなら休暇中の身としてはたまったものじゃないだろう。

さて、ワークライフバランスという言葉とは別に、ワークライフインテグレーションという言葉がある。これは、「いつでもつながる」ことを前提に、ワークとライフをスパっと分けるのを止めようという考え方である。私は会社員時代はどちらかというとワークとライフをできるだけ分けたい派だったのだが、フリーランスになってからはこのワークライフインテグレーションのほうがしっくりくるようになっていた。なので、暇さえあれば、たとえば筋トレのセットの合間などでもSNSやメディアから情報収集を行うし、土日でも夜でも仕事部屋でパソコンに向かうことも多々ある。当然、いつでも「つながる」状態だ。

しかしやはり休めていなかったのだろう。この夏、私はシンガポールに一人旅をした。というか、これを書いている時点でまだシンガポールにいる。このなかで、今回も「つながらない」期間を設けた。4日間の旅行のうち、中2日はSNSを見ない。うち1日はSlack・LINE・メッセンジャー等すべての連絡ツールを使わない。実は、その中2日とは、私の37歳最後の日と38歳最初の日だった。誕生日には親しい人たちから直接メッセージをもらったのでそれに返信はしたけれど、そのやりとりも最小限にした。「つながらない」どころか、「オンライン・オフラインともに知ってる人とは極力関わらない日」を作ったのだ。

たった2日間だったけれど、これが本当にリフレッシュできた。通知を気にしないことで自分の体験や感情に集中でき、本当に解放された気になったのだ。習慣でSNSのアイコンをタップしそうになることもあったが、そんなときはKindleにダウンロードした漫画や本をひたすら読んだ。Netflixは見ず、ただひたすら活字を読んだ。

書くことを仕事にして、そしてこうやってプライベートでも散文を書いていると、早くもアウトプット慣れしてきてしまっているというか、自分の頭が若干鈍くなっている感覚が、実は少し前からあった。だから、今回は感じたことを誰とも共有せず、メモに書き留めておくだけにした。書いて発表して、を繰り返していると人の反応というのは当然気になるわけだけども、今回SNS断ちをしたことでそこもリセットできた。

宿泊したアンダーズをチェックアウトした際、誕生日を1人で過ごしたと言うとレセプションのお姉さんに気の毒がられたが、今回の旅での最大の気づきを彼女に教えてあげたい。オンラインでもオフラインでも全くつながらないことはとても贅沢で、自分を大事にする最高の時間の使い方だったのだ。

家族が居ると、オフラインでつながらないというのは現実的ではないだろう。でも大抵の仕事は、周知と準備をしておけば「オンラインでつながらない日」を1日もうけることはできるのではないだろうか。さらにSNSを見ないというのは自分自身の決めの問題であるからして誰でも実践可能だ。

つながらないというのはちょっと怖い。責任ある立場だと尚更である。しかし、本当に1日すらつながらないことが許されないほどの立場で仕事をしている人はそうそう居ない。すべては周知と準備の問題である。

働き方改革が叫ばれているが、「どう休むか」も今後日本のワーカーたちの大きな課題となっていくだろう。その1つとして、つながらない休暇は断然おすすめである。ちなみに私は来年の夏もまた少しつながらないでいようと思う。

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