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愛媛新聞「道標」連載コラム

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記事一覧

アニメ、戦争、マンガ



「道標」連載の初回にも書いたが、 私がそれまでにないほど懸命に見たアニメは初代『機動戦士ガンダム』だった。ガンダムは戦争アニメである。もちろん架空の世界で、実在の戦争を扱っているわけではない。でも中学生の私にとって、怪獣や宇宙人でなく人間と人間が軍をそれぞれ組織して戦っているアニメというのはやけに大人っぽく新鮮に映った。組織の論理を押し付けられ、前線に追い立てられていく若者たち、信頼と裏切り、

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妊婦は闘っている



20代半ばで妊娠出産を経験した。子供ができたこと自体はうれしかったが、やはり何もかも初めてで、とまどうことばかりだった。つわりや様々な体の変化、食生活にも気を付けなくてはならない。出産を終えた時は心からほっとした。
 ある日テレビを見ていると、「妊婦がもたもた歩いていると突き飛ばしたくなる」と言い放つ男性がいた。最近も「邪魔だ」と妊婦のおなかを蹴った不届き者がいたが、そんな気持ちで妊婦を見て

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時間のかかる人



 長年参加してきた「コミティア」というイベントがある。東京など各地で開かれる創作同人誌即売会で、数千サークルが自作のマンガやイラストなどの本を持ち寄り、対面で売り買いや交流をするイベントだ。先日の週末も開かれるはずだったが、あいにくのコロナ禍で中止となった。ただ中止というのも残念なので、SNS上での「エア開催」が呼びかけられた。イベントが開かれるはずだった時間に皆でネット上にマンガをアップした

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マンガという名の自由



 なぜ私はマンガを描いているのだろう?そう思うときがある。だいたいは、うまくいってない時だ。アイデアが浮かばない時。キャラがうまく動かず、ストーリーが流れない時。コマ割りや演出がはまらない時。絵のデッサンがくずれてしまう時。描いても描いても終わらない、果てしない仕上げ作業が続くとき。数十ページのマンガを描くのに、何でこんなにやることがあるのか?泣きながらダッシュして逃げ出し、旅に出たいと願った

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見えない怖(おそ)れを描く



 13年ほど前に、『天顕祭』というSFファンタジーマンガを描いた。戦争により、病をもたらす「フカシ」という毒物に汚染された、日本のような国を舞台にした未来の話である。鳶職の少女、咲は50年に一度の大祭「天顕祭」の「クシナダヒメ役」に選ばれる。だがその祭には恐ろしい秘密があった。姿を消した咲を鳶の若頭・真中が追ううちに神々と現実の汚染が交錯し、「天顕祭」の真実が明らかになる…という和風伝奇SFだ

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同人誌な日々



 高校生の時、美術部に入っていた。美術部であるからして、美術部らしく石こう像を囲んでデッサンをしたり、油絵を描いたりなどする。そんなふうに確かに絵も好きだったが、正直なところ、アニメやマンガはもっと好きだった。そんなわけで、美術室の片隅でマンガ好きの同好の士と1枚の紙を四方から囲み、だらだらとオタクな話をしながら落書きをするのが何より楽しい時間だった。

 だがちょっとした転機が来た。部員の1

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私、スキマに立つ



 「ごはんよー」「お母さん!録音しよるんやけん静かにして!」ラジカセをテレビの前に置いて私は必死だった。多くの家庭で繰り返された光景。正確には、ビデオデッキが普及する前の時代、熱心なアニメファンの子供がいる家庭で繰り返された光景である。

テレビ番組を「録音」しながら食らいつくように見ている番組は「機動戦士ガンダム」。言わずと知れた人気ロボットアニメである。その時既に内容のあらすじは知ってい

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