仕事術、3つめの神器を求めて④ 〜二軸思考とフレームワーク

noteからは月1回のペースでの投稿を促す通知が来るのですが、今回もあっというまに期限が到達してしまいました。

いつまでも3つめの話が始められなかった連載(?)ですが、ようやく新しい話を。まず、ミニマムなフレームワークとしての二軸思考からいきたいと思います。書籍も出ているみたいですが、「二軸思考」というのが一般に共有された名前なのかはちょっと自信がありません。多数のものを分類整理する時に縦軸と横軸を設定して、平面座標の形に図示するやり方です。さすがにもう喩えとしての有効性が怪しくなってきてると思いますが、かつて「(タモリの)ボキャブラ天国」という番組では、「知的 - バカ」の縦軸と「シブイ - インパクト」の横軸によるマトリクスに視聴者から送られて来たはがきネタが貼り付けられるという趣向がありました。4つの象限が「シブ知」「インパク知」「バカシブ」「バカパク」などと命名されていて、分類した上でそれぞれの軸でどれだけ原点から遠いか、も評価されていました。これははがきネタの面白さという本来多様で複雑なものを、2つの評価軸に従って分類評価するという仕組みです。極めて単純なものですが、MITで開発された、みたいな煽りとセットで紹介されていた気がします。(別の大学だったかも)

当然ですが、「面白さ」なんていう複雑なものが、たった2つの要素に還元し尽くせるわけがありません。しかし、複雑なものをすべて取りこぼしなく評価し、その評価について他者に納得してもらい、その評価結果をなにがしかのアクション(順位をつけたりプライズをだしたり)に結びつけるというのは、時間や労力の制約から不可能なわけです。そこで、まず第一義的には評価の効率化という効能がこのやり方にはあると言えます。平面上にマッピングするという着地が見えていることで、比較的簡単に評価結果を出せるようになるわけです。さらにこれには、複数の評価対象を比較しやすいというメリットがあります。これは、評価結果をアクションに結びつける段階の説得力という意味でも非常に重要な点です。

しかし、このような二軸による整理には(2×2の「マトリクス」と呼ぶ人もいますね、そう言えば。あと漢数字とアラビア数字の使い分けが気持ちよく整理できないですね、この話題)、他にも効能があります。2つめのメリットはコミュニケーションの高度化です。実際、何がインパクトで何が知的なのか、ということには明確な定義も了解も事前にはないはずです。シンプルといっても、そこまで簡単なわけではない。でも、いくつかの評価対象を捌いていく中で評価者の意図するところや定義、癖などが見ている側にも了解できるようになります。その場における軸の定義が進み、それに沿って会話する限り、相互理解には深みが増すといってよいと思います。(「深み」の定義なんて手に余るにもほどがありますが)。二軸という比較的単純な枠組みに沿って対象を評価し、評価結果を積み上げることで評価軸の方の理解も進む、という構造があるわけです。これによって相互理解が進む。厳密に言うと相互の理解についての理解が進みます。

ところで、これはもう記憶が曖昧ですし、実際のデータを見たら否定されてしまう感想なのかもしれませんが、件のボキャブラ天国においては、「バカシブ」と「インパク知」は、「シブ知」と「バカパク」よりも出現頻度が少ない傾向にあった気がします。見ている間に、二軸が直交していないのではないか、もっと言うと、インパクトと馬鹿にはある種の相関関係があるのではないか、という感想を私が持っていたということを意味します。なんとなくデータの可視化や「良いモデル設計」の議論からすると、これは良くない軸の建て方をしているという主張に聞こえるかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。軸同士に多少の干渉があっても、例えば「インパク知」は出づらいからあえて狙ってみようとか高く評価しよう、みたいな反応を引き出すための隙としても機能しうるわけです。実際ある程度この整理を運用(対象をいくつも当てはめてみる)していくと、このような軸の建て方の是非、整理の構造それ自体への評価、の視点が生まれます。第2のメリットとして挙げた、コミュニケーションの高度化の少し先の議論と言えるかもしれません。仕事で使う上では、そうした視点も含めて議論できる様でないと物足りない、ということになりそうです。(これは人の評価、ですけど)

最後に、ビジネス界隈でもっとも有名な2×2マトリクスだと思われるものについて、少しだけ触れたいと思います。もしかするとこれが一番ベタだと思ってるということ自体が世間とのズレを露呈することになってしまうリスクもありますが。それは「アイゼンハワーマトリクス」などと呼ばれているもので(違う名前で呼んでいる人も多そうですし、これが一番オーソドックスであるという確信は私にはないのですが)、『7つの習慣』などで紹介されています。仕事を「重要度」×「緊急度」で分類しよう、というものです。ご存じの方も多い(というかご存じの方しかいない、くらいの気持ちですが)と思うので、中身には立ちいりませんが、これは仕事術として極めて強力だと一般に見なされていると思います。それを否定したい訳ではないのですが、実際、この二軸にしたがって「常に」タスクを整理している人というのはそれほど多くないと思います。しかし、重要なのは、この2つの軸は一度この話を聞いた人の頭の中には残り続けているだろう、ということです。馬鹿丁寧にマトリクスに付箋を貼り付けるようなことをしていなくても、何から手を付けるべきかがわからないカオス的な状況になったときに、少なくとも2つの評価軸に照らしてみるという発想だけは残っている。これはとても強力なことだと言えると思います。個人的には、ある年齢より下の多くの人が、人間の健康はHPとMPの2つのパラメータで評価できるような気がしている、というのと同じ様な変化をもたらしたイノベーティブなモデルだと思います。最後に一番大事なことが書けたので満足です。

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