探索的な取り組み(≒知識創造)とベストエフォートの関係。あるいは、「高い金を払ったコンサルから出てくるありふれた提言」問題

ASAP(As soon as possible)が緊急性のアピールには繋がらず、多くの日本人の期待とは裏腹に「出来るときでいいよ」くらいの相手の都合に合わせるニュアンスが生じてしまう、という英会話ノウハウの話を何度か目にしたことがありますが、逆に「ベストエフォート」は通信回線の品質保証を迂回する「低いサービスレベル」を代表する言葉になってしまっていて、これはこれで元々の英語表現とはギャップが生じているのではないかと心配になります。(通信品質にこの表現を用いたのも欧米が先なはずなので杞憂である気もしますが)

さて、前回の記事で、100円ショップの原則、「そこに無ければ無いですね」の価値の話を書きました。

何か探し物をする時には、あるいはもっと抽象的に問題解決のために解決策を探している場合でも、探索範囲を絞り込んで効率良く調査を進めていくことが求められます。一度探した場所に何度も戻ってきてしまっては効率が悪いので、ある領域を探索して見つからなかった場合はそこには無いという結論をしっかりと出し、もうそこには戻らずに他の可能性をあたる、というやり方が望ましいわけです。

(ドン・ウィンズロウの「ストリートキッズ」で主人公の元ストリートキッド ニール・ケアリーが探偵術を仕込まれるシーンで説明される探し物の方法、「最初に空間をメッシュに分割してから順番に探していく」の話をしようと思ったのですが、kindle版とか無いんですね……)

問題解決は解決策の探索である

以前の記事でも書きましたが、コンサルタントの仕事であるプロジェクトワークの現場では、日々、問題を解決するための解決策をチームで手分けして探している状態にあります。

誰かが一度探したところを別の人がまた探しに行っていては効率が悪く、ただでさえ探索すべき範囲が曖昧な状況(わざわざ社外のコンサルタントを呼ぶ仕事というのは、一般にそういう意味での難しさを抱えています)では、プロジェクトの進行を大きく妨げてしまうことにもなりかねません。

そこで、「そっちの方向を掘っても答えには行き当たらない」という見切りをなるべく早く、但し間違えのない形で行う必要があるわけです。この時、「そこに無ければ無いですね」ならぬ「その人がやって駄目なら無理ですね」という担当者に対する信頼があるかどうかが状況を大きく変えることになります。

見切りのためのベストエフォート

もし、その人が駄目でも他の人がやればできるかもしれない、という疑い(希望?)が残されてしまうと、その選択肢(その方向への探索)は原理的には捨てることができません。それでは、チーム全体の探索のパフォーマンスはなかなか上がらない。組織的な意思決定として何かを選択肢から削ろうとした場合、それがうまく行かないという判断を下した理由が必要になります。そこでは、「ちゃんと試したけど駄目だった」という事実があればそれは強力な根拠になります。

では、ちゃんと試した、と言える条件はなんでしょうか? ビジネスの場面においては、必要なスキルを持った人間が必要な労力をかけて挑戦した、ということに他なりません。コンサルタントはスキル要件によって選別され、契約により確保された工数をその仕事に投入します。前半部分については組織独自の情報を持っていないという意味では必ずしも社内の人材より優れているとは言いにくい場面も多々ありますが、後半についてはコンサルタントという立ち場は強力な効果を持ち得ます。もしかすると、社内の人が考えたり調べたりしたのと全く同じ結論がでるだけかもしれませんが、その結論の背景にある前提条件の明確さに差があるわけです。(この点については、自分がコンサルタント側の人間である以上、ポジショントークになってしまってる面も多々あるとは思いますが……)

チームワークだけとは限らない

探索範囲に対する見切り、の重要性は何もビジネスとしてのプロジェクトワークに限定されたものではありません。個人の学習や、キャリア形成においても有効なツールであると言えます。もし何かにチャレンジして失敗、とまではいかないながらも当初望んだレベルの結果が得られなかったとします。その時もし「全力を出していなかった」とするとどうでしょうか。「あの時全力を出していれば出来たかも知れない」と考える余地が残されてしまって、その方面への探索を合理的に切り捨てることができなくなります。

エジソンは「(失敗ではなく)1万通りのうまく行かない方法を発見した」と言ったという話があります。彼の自らの成功を信じるポジティブな姿勢を伝えるエピソードとして紹介されることが多いと思いますが、ちゃんと「うまく行かないことを確かめる」ことの意義を示す話でもあると思います。

以上、ネガティブな切り口からの前向きな提言でした。

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