見出し画像

毎年予算が削られるわけ

200627オンライン対話会で寄せられた質問の回答です。
問:マイナスシーリングをすると、一律削減となりがちなのでしょうか。
問:マイナスシーリングなので各部局で削っています。市民への説明責任はどのようにするのが望ましいですか

この質問に答える前に,予算編成における「シーリング」方式と「枠配分」方式の違いについてきちんと説明しておきたいと思います。
「シーリング」は「天井」という意味ですから,予算編成においては「要求上限額」を意味します。


予算編成で,各部局がそれぞれ必要だと思う経費を必要なだけ積算し要求してきたら,その膨大な額を限られた財源の範囲に収めるために経費を精査し査定していくことは気の遠くなるような作業です。
昔は「要るものは要る」という理屈を振りかざし,所要額を要求することが組織の存在意義だった時代もあり,過大な要求も当たり前でしたが,高度経済成長が終わり,時代が低成長へと移る中で,要求を過大に見積もっても要求側も査定側も労多くして実りがないということで,一定の上限を設けることした,それが「シーリング」です。

最初は前年度の予算額を上限とするというキャップのはめ方でしたが,税収が伸び悩む中社会保障費の増等で政策的経費にかけられる財源が一向に増えないことから前年度の額を下回る「マイナスシーリング」が始まったのです。
「シーリング」も「マイナスシーリング」も予算編成の過程で「この額までしか要求してはならない」と言っているだけで枠配分予算のように「この額まではあなたの部局で自由に使っていい」という意味ではありません。
ですから,シーリングの上限額に収めて財政課に提出したとしても,そこから鬼のような査定が待っています。


せっかく厳しいシーリングの範囲内に収めるためにコツコツ削ってやっと出来上がった予算要求調書は財政課担当者による査定による見え消しで数字が見事に書き換えられ,場合によっては影も形もなくなることも。
「シーリング」は,あくまでも予算をつける・つけない,あるいは金額の多寡は財政課が決める「一件査定」の一手法にすぎません。
配分された枠の範囲内であれば自主的,自律的に現在の施策事業の内容を現場で判断して組み替えることができる「枠配分予算」とは全く異なる方式だとご理解ください。

ということでやっと質問にお答えすることになりますが,マイナスシーリングは財政課に提出する際の要求額の上限に過ぎず,そこで部局内での調整を行ってどこかの部門に手厚く配分したとしても,その裁量を財政課が許容しているわけではないので結果的に,平等に痛み分けしようというベクトルが組織内で働き,ご指摘の「一律削減」になりがちですし,その説明責任を市民に対して果たそうというモチベーションもわきません。
予算の削減というリスクを冒すのであればあえて他の事業への優先配分を自ら判断したとかでないと,市民に面と向き合って説明できないですよね。

そうはいってもうちはマイナスシーリングで一律削減なのに市民への説明は現場が負わないといけない,という自治体はどうしたらいいのでしょうか。
まず,なぜマイナスシーリングなのか,全体の財政状況や見通しを財政課に聞きましょう。
税収がなぜ増えないのか,社会保障費はなぜ増えるのか,その結果,自分たちが予算で裁量的に使える経費がどのくらい減るのか。
その根拠も示さずに昨年より〇%カットでお願いします,というのは財政課の横着だと思います。
また,シーリングによる要求額の圧縮で生み出された財源はどこに行くのか。
税収の減,社会保障費の増に充てられるのか,それとも優先順位の高い政策的な経費に充てられるのか,というあたりも財政課が各事業所管課や議会,市民に対して果たすべき説明責任だと思います。

おっと、なぜ毎年予算が削られるのかという根源的な説明をする前に、技術的な話で終わってしまいそうです。

平たく言えば、税収が増えないのに社会保障費が増えて自由に使える財源が毎年目減りしているので、既存の事業に充てている経費を圧縮して、新規事業の財源にしている、という構造なのですが、詳しくは拙著「自治体の”台所“事情 ”財政が厳しい“ってどういうこと?」をご参照ください🙇‍♂️

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885

★日々の雑事はこちらに投稿していますので,ご興味のある方はどうぞ。
https://www.facebook.com/hiroshi.imamura.50


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?