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潮が引いている間に

「今年は経常的経費のシーリングが10%だってさ」
「できるわけねーだろ,そんなもん。だったらてめえがやってみなって財政課の連中に言ってやりたいね」
#ジブリで学ぶ自治体財政

そんな声が聞こえる季節,10月になりましたね
我々役人にとっては予算要求や機構整備など来年度のことを庁内で議論していく大事な時期になりました。
私の古巣,財政課の話でいうと,だいたい10月くらいに次年度の予算編成方針が首長から依命通達され,この号令を合図に各部門での予算見積もりが始まります。
各所属では,事業進捗状況や現下の課題への対応を検討し,次年度に必要な取り組みとその事業費を積み上げ,必要性や緊急性,効果などを説明できる資料を山のように作成して財政課に提出し,そのあとは鬼のようなヒアリング地獄。
現場にとっても財政課にとっても,長い長い冬の戦いが始まる,そんな憂鬱な季節です。
皆さん,準備のほうはいかがですか?

今年は特にコロナ関連で厳しい予算査定になることは火を見るよりも明らかですが,もともと高度経済成長が終わりを告げ低成長時代から少子高齢化,人口減少時代へと移行してきた昨今,自治体財政を取り巻く環境は年々厳しくなっています。
新規事業は自治体として特に重点的に進めていくと定められた事業に厳選されて狭き門となり,それ以外の分野では予算要求調書を財政課に提出することもままならない。
既存事業はシーリング(要求上限設定)の名のもとに一律でカット率がかけられ,じわじわと削減されていく。
真に必要だと財政課と議論しようにも議論にならない,その暇もないという状況ではないでしょうか。

この「自治体財政よもやま話」ではこれまでも予算編成における優先順位のつけ方や誰がいつそれを決めているのか,なぜ毎年シーリングで予算が削られるのかというお話をしてきました。
また一方で,財政課と現場との対話が重要だという話もしてきました。
しかし,毎年秋に示される予算編成方針を受け取ってから財政課との協議相談を始めようとしても,時すでに遅し。
財政課では,夏場には翌年度の歳入と扶助費,公債費等の義務的経費の伸びを見込み,そのバランスを図る歳入歳出のフレーム(枠組み)を試算し,政策的経費にどのくらい投入できるか,そのためにどのくらい経常的経費を圧縮しなければいけないか,を判断します。
その枠組みを前提にシーリングの率やその対象となる経費を決め,重点施策としてシーリングの対象外として所要額を要求できる事業分野を特定し,首長の了解をとったうえで首長名で全庁に通知するのですから,後からその方針について文句を言っても協議を申し入れても通るはずがありません。
現場と財政課との対話,議論の多くは,予算編成方針の通達が出てからではもう間に合わないのです。

私は財政課時代にいつも不思議に思っていたことがあります。
10月下旬に実質的な予算編成作業に突入して以降,財政課には曜日も昼夜も問わずたくさんの職員が詰めかけ,入れ代わり立ち代わり休む暇もなく予算折衝を行っているのですが,予算が固まり2月中旬に予算書を議会に送り込んだ途端,ぱったりと人の往来が途絶え,まるで潮が引いたように誰も財政課に来なくなるのです。
あれだけ忙しかった作業も折衝も全くなくなり,バタバタしているのは議会対応している管理職だけ。
議会対応のない係長や若手担当者はそれまで整理できなかった資料のファイル作成にいそしんだり,とれなかった休みを取ってバカンスに出かけたり。
私も財政課に異動した初年度は,繁忙期の激務の後に訪れた閑散期の時間の流れ方のギャップに戸惑ったものでした。

財政課の職員が一番ゆっくりと時間をとって相談に乗ってくれるのは,実はこのタイミングなのです。
私は財政課の係長だった当時は,予算編成が終わり誰も折衝に来なくなった財政課で独り予算編成中に片付けきれなかった課題をメモに起こし,そのメモを現場と共有して,次年度の予算編成までにその課題についての対処方針を協議できるよう,準備を依頼していました。
財政課の視点でいうと,予算編成の中でいきなり問題点を指摘しても,次の年度の予算から仕事のやり方を大幅に変えられるはずがありません。
ですから問題点,見直しの方向性を指摘し,次年度予算編成までに検討しておいてくださいね,と言っておく必要があるのですが,予算編成の熱い戦いが終わるとお互いにいったん喉元を過ぎてしまってその熱さを忘れてしまうということが往々にしてあるわけです。
なので,私は予算編成の記憶がまだ頭から消えないうちに,年度またぎで担当が代わってしまわないうちに,次年度議論すべき内容の「対話」を,予算編成の始まる半年も前から始めていたのです。
現場から見てもそれは同じこと。
次年度の予算編成に向けて,現場の抱えている課題,予算計上や執行における問題点を財政課と共有するのは,予算編成の潮が引いた3月から,次年度予算編成のフレームづくりが本格的に始まる夏場までが最もよいタイミングなのです。

財政課は予算編成のための財政フレームを作るときに,これで大丈夫だろうかと必ず不安になります。
その不安を解消するために,実はめぼしいところにはそれとなく打診をし,あるいはきちんと協議して,そのフレームで予算編成をやってもなんとかなるという手応えをもって予算編成をスタートさせています。
その協議先,打診先には,普段から情報を共有し,意思疎通している現場が含まれています。
予算が必要だという時期にだけ財政課に現れ,要るものは要ると声を上げ,予算がつかなければそれは財政課のせいだと一方的に主張し,時期が来ると潮が引くように現れなくなる。
そんな現場とはなかなか対話も議論もしづらいという感覚が正直あったことを,10月に入るこのタイミングでふと思い出したので,記事にしてみました。
それなら3月に教えてくれよという怨嗟の叫びが聞こえてきますがそこは平にご容赦を<m(__)m>

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