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楽しいだけの遊びは要らない

対立を対話で乗り越えるなど笑止千万
対話でなんの問題解決ができるというのだ
否定も断定もしない未来志向というが
結論も出さずに談笑しているだけではないか
#ジブリで学ぶ自治体財政

「対話は社会のインフラ」という話を書きました。

しかし「対話」とは,本当にすべての人にとって役に立つ社会インフラなのか。
巷では「対話では問題解決に至らない」という意見も根強くあります。
「対話が大事なのはわかるけど,対話では物事は決まらないよね。」
「相手の言うことを「わかるわかる」って言ってるだけじゃ議論が深まらない。」
「仕事を進めるには「議論」こそ必要なのでは?」
それは確かにその通り。対話は物事を決める場面で行うことではありません。
決まった物事を実際に動かすときに,そのことに利害を持つ関係人それぞれが一定の納得感を持ち,当事者意識を持って「決まり」に従って行動することができなければ,「決める」ことの意味が失われてしまいます。
物事を決める背景や目的についてどの程度情報共有ができたのか。
対立する考え方を持つ人たちの立場や考え方をどれだけ理解できたのか。
自分の立場,主張をどれだけ真摯に受け止めてもらえたのか。
関係者の意識が変容する過程が重要になってきます。

そこで「議論」の前に「対話」を置いてみましょう。
先入観を持たず,否定も断定もしないで相手の思いを「聴く」。
自分自身の立場の鎧を脱ぎ,心を開いて自分の思いを「語る」。
互いにありのままの思いをぶつけ,それを真正面から受け止めることで,事案の目的や背景に関する情報を共有し,同等に理解することができるだけでなく,関係する当事者がそれぞれ互いの立場を尊重し信頼しあえるかどうかの関係性を確認しあうことができることになります。
その信頼感こそが,意見が対立したときに譲歩し妥協するときの心理的な背景になりますし,導かれた結論への納得性,当事者意識,その結論に従って行動しようという動機づけになる。
「対話」はその後に置かれる「議論」の質を高め,結論の実効性を高める役割を果たしているのです。

「議論」の前に「対話」を置き,相互の受容と理解を図ったうえで議論を行うことでその質が高まり,実効性のある結論に至ることができる。
この関係性,実は世間で十分に理解され浸透されているとは言い難く,「対話では問題解決に至らない」という誤解にもつながっています。
その誤解に拍車をかけるのが「対話は楽しいもの」というアプローチで対話文化の浸透促進を図る数々の対話型ワークショップとその中で多用されるファシリテーションの技法です。
ワールドカフェなどの対話型ワークショップでは,忌憚ない意見交換を行うことができたという満足は得られても,そこで出た意見はどこへ行くのかという不満が出ることもあり,結論の出ないただのおしゃべりは時間の無駄だとその場に足を運ばず,「対話なんてものは参加者が楽しいだけで中身がない」との批判にさらされることになるのです。

いわゆる「対話を楽しむ」場は、話し合って何かを決めるのではなく、自由な発想、アイデアを求めることや多種多様な参加者の経験やそれに基づく意見などを共有することを目的としているため,その場で何も決まらないのは当たり前ですが,参加者が不満に思うのはそのことが事前に共有されていないから。
多くの対話型ワークショップは,普段日常生活で無意識のうちに敬遠している自己開示や他者の受容を仮想体験することで,自分と相手が違うことや,対話によってわかりあうことの難しさと楽しさを理解し,対話の障害となる心の壁を取り払う術を体得するきっかけとする,というような目的で催されているはずですから,その目的を共有し,その達成ができたかどうかを参加満足度として測定すべきなのです。
むしろ「対話」の本質である相互の尊重を基礎とした自己開示と他者受容は,実は相当に面倒くさいもので,その言葉通りに実践することはかなりの熟練を要します。
であるからこそ「対話」は日常的には行われておらず,結果として会議が面白くないものになり,本当に決めなければいけないことが議論できず,決めようと議論しても互いの主張が交わらない平行線で終わり,強引に決めればしこりが残る,だから議論は難しい,という話にしかならないのです。

この「議論下手」問題を解決するため「対話」によるコミュニケーション改革が取り組まれてきたところであり,その導入として対話の楽しさや有用性を前面に出すことで広まったのが対話型ワークショップやファシリテーションの技法なのですから,その一面だけを見て「対話は楽しいだけで問題解決にならない」と言われるのは心外です。
異なる意見の対立を乗り越えるために必要なのが良質な議論のための「対話」。
その基礎となる考え方や手法の体得のために「対話」を仮想体験するのがワークショップであり,そこで得られた成功体験を生かして本当に解決すべき事案に対峙するという手順になっていること,決して遊びや道楽でやっているわけではないってことを我々,対話文化の普及に携わる者は改めて語らねばならないのでしょうね。

とはいえ,「対話」は議論を円滑に進めるためだけにあるものではありません。
「対話」は本来,互いの人格に優劣がないものと認めあい,その意見,主張にも優劣がないという前提で先入観を持たずに拝聴しあうという人間尊重の思想をベースにした,人として当然に行うべき倫理的なふるまいです。
何かの役に立つかどうかで「対話」の必要性や有用性を判断すべきものではなく,役に立たないから,忙しいから,実りがなさそうだからと言って,敬愛の念をもって相手を受容することを怠るのは人として許されないのではないでしょうか。

と熱く語りすぎるとまたドン引きされそうなので少し肩の力を抜きましょう。
まずは自分自身が「対話」の楽しさに触れ,その居心地の良さに魅了され,この快楽を誰かに伝えたい,と思うことが第一。
そうやって自分の快楽のツボを押して感じる「楽しい」という気持ちが高まれば,少々面倒くさい「対話」の場づくりを続けていく自分自身のモチベーションになりますし,さらには「楽しいことを誰かに伝えたい」という気持ちが強くなればそれは必ず誰かの快楽のツボを押し,自然と伝播していきますよ,きっと。
何も小難しく考えることはありません。
「対話」ってそんなものだと私は思っています(笑)

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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