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頼みの綱には頼りがち

今年の交付税決定額,ほぼビンゴです。
特殊要素分もトッコーでかなり見てもらえました!
#ジブリで学ぶ自治体財政

ここ最近,自治体財政について「収入の範囲内に支出を収める」ことを力説してきましたが,では皆さんの自治体は収入の範囲で自治体運営できていますか?
実は全国の都道府県,市町村のうち,「自前の収入」で自治体運営できているのはほんの一握りで,ほとんどの自治体は「地方交付税」という仕組みで「自前の収入」で不足する財源を国から補てんしてもらっています。
今日はこの地方交付税についてご説明したいと思います。

地方自治体には法令で定められたものをはじめ地方自治の担い手として行わなければならない業務がたくさんあり,国民が全国どこに住んでいても標準的な行政サービスが受けられるようにしなければいけませんが,そのサービスにはそれなりのコストがかかります。
一方,人口や産業,都市構造などによって自治体ごとにその税収には差があり,自治体が自分で課税徴収できる税金だけでは標準的なサービスを提供することが難しい自治体もたくさんあります。
そこで,国が国税として課税徴収する税金の一部を自前の税収の少ない自治体に国が配分する仕組みがあり,これが「地方交付税」制度です。

地方交付税の総額は、国税である所得税・法人税,酒税,消費税,地方法人税のうち法で定める一定の割合とされており,令和2年度は16.5兆円。その配分は「基準財政需要額」と「基準財政収入額」の差額で算出される「普通地方交付税」(総額の94%)と,特別な財政需要に応じて配分される「特別地方交付税」(総額の6%)を,それぞれ総務省が各都道府県,市町村ごとに毎年度決定して交付します。
普通地方交付税の算定基礎となる「基準財政需要額」は,自治体の規模や自然的,社会的条件を考慮しつつ,その地方自治体が合理的かつ妥当な水準において地方行政を行う場合に要する経費を算出したもので,いわば国が自治体運営について最低限度必要だと認める額です。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000363663.pdf

国はこの基準財政需要額について,地方自治体が自前で課税徴収する地方税の75%(これを「基準財政収入額」と言います)を充て,残りの25%は留保財源として自治体の独自のサービスに充てるという考えに基づき,普通地方交付税の額を自治体ごとに算出しています。
なので,地方自治体はそれぞれの規模等に応じて国が算出する基準財政需要額に自前の税収の25%を加えた額の範囲で支出を計画し運営することが基本とされているのです(この収入は,自治体がその使途を自由に定めることができる「一般財源」のことを指し,補助金・交付金や使用料・手数料など,特定の使途に使うために交付され,または徴収する「特定財源」を除きます)。

基準財政需要額は,人口や面積などの「測定単位」ごとに「教育費」「厚生労働費」といった行政目的ごとの「単位費用」が示され,それを掛け合わせ,足し合わせていくことが算出の基本ですが,この方式がごくたまに「行政目的ごとに算定根拠に従って庁内で配分されるべき」との誤解を与えることがあります。
地方交付税はあくまでも地方自治体が自ら徴収する地方税収入と同等であって,国から使途を定めて交付される特定財源ではないため,使途を自由に定めることができる一般財源として自由に財源配分して何の問題もありません。

また地方交付税の算定の仕組みから「基準財政需要額で基礎的な行政運営を行い,市税収入の25%は留保財源として独自のサービスに充てるべき」という主張もありますが,この基準はあくまでも全国の地方自治体に一定のルールで財源保障するうえで自前の収入と地方交付税の分担を定めたに過ぎず,基準財政収入額の範囲で行うべき事務事業が定まっているわけではありませんので,留保財源まで含めてその使途はすべて自治体の裁量にゆだねられています。

全国を見渡せば,令和2年度の地方交付税不交付団体は47都道府県では東京都のみ,1700余ある市町村ではその4%程度の75団体しかありません。
標準的な行政運営経費を自らの税収で賄うことができない自治体がほとんどである日本の地方自治の現状では,税源の偏在をならし,税収の少ない自治体に再配分することで全国一律の均質な行政サービスを提供できるこの仕組み本当によくできていますが,この仕組みにもいくつか弱点があります。

最大の弱点は最低限の自治体運営コストを国が保証してくれるという仕組みそのものだと私は考えています。
税収が少なくても税収が減っても安定した自治体運営ができるよう,いわば自治体運営のセーフティネットとして抜群の存在感を示しているこの制度に我々はつい甘えてしまいがちです。
税収が下がってもその75%は国が交付税で補てんしてくれる。
税収を増やしてもその75%は交付税が減るので実質的には25%しか増収しない。
国に対し要るものは要ると特別地方交付税の配分要求を重ね,基準財政需要額の算定基準に上乗せを求めるさまは,自治体の中で財政課に予算要求を行う現場の姿勢と何ら変わりません。
手厚い最低保証のおかげで地方交付税への依存が高まり,地方自治体が自分たちで税収をあげ,その範囲で自治体運営をしようという自主性,自律性が損なわれているのではないかという懸念,国に財源の大半を依存し,国の庇護のもとでなければ多くの自治体が存立しえない地方自治とは何なのかという疑問は,自治体運営に携わる者として自覚しておきたいと思います。

また,地方自治体全体で見ればそれぞれの地方自治体の税収総額に地方交付税総額を加えた額の範囲内で1700余りのすべての地方自治体を運営する必要がありますが,地方交付税の総額は法で定められた国税の一定割合を充てることとされており,その税目の収入によって総額が変動するため,基準財政需要額の総額が常に保証されるわけではありません。
景気低迷等で国税も地方税も減収になり,地方自治体の運営コストを賄う財源が総額で確保できないとき,どうすればいいのでしょうか。
一つは国税の中で地方交付税の財源とする割合を変え,地方への配分を厚くすることが考えられますが,国も財政状況が厳しい中,法律を変えてまで国税の地方配分を増やすことは並大抵ではありません。

本来であれば「収入の範囲内に支出を収める」という大原則に立ち返り,地方自治体全体が使える収入の範囲で地方自治体全体の支出を考え,全体の収入が減ったのであればそれに見合う支出へと全体で見直さなければいけないのですが,税収の減少に応じて基準財政需要額の単位費用などの算定根拠を見直し,地方自治体の標準的な運営経費の基準にメスを入れていくことは,全国の地方自治体に共通のスリム化を強いることになり,地方交付税に財源の大半を依存している自治体から悲鳴が上がることになります。
そこで編み出された収入確保策が「臨時財政対策債」をはじめとする借金のメニューです。
少々マニアックですが地方自治体の財政運営を語るうえでは避けて通れないこの話題は,長くなりますので別の機会にしたいと思います。

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