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目玉施策は誰のため

村の子どもの数がめっきり減ったな
と言うよりも親になる若者がおらん
若者はどこへいってしまったのか
若者はどこにもいっとらんよ
わしらが生み育てていないだけじゃ
しかし今さらもう一人作れと言われてもなあ
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
「少子化対策として子育て支援に力を入れる」
最近あちこちでこの手の政策立案を耳にしますが、一地方自治体の政策としてはどうも違和感がぬぐえません。
政策は課題を解決する手段です。
政策を論じるには、まず解決すべき課題を明確にする必要があります。
その課題を解決するには、発生の原因を突き止めなければなりません。
その原因となる要素を排除し、事態の改善を図る手法が政策です
そして、政策が有効に機能するかどうかは、政策として講じる手法がどうして課題解決の手段たりうるのかを論理的に、因果関係として説明できることが一番大事なのですが、この「少子化対策=子育て支援」という政策立案はまさにこの論理展開、ロジックモデルが欠落していると思うのです。
 
少子化という言葉が表現する「課題」とはいったいなんでしょうか。
国レベルでの課題認識はさておき、地方自治体として「子供の数が減る」ことは、それ自体が問題なのかということ。
子どもが減ったからといって、直ちに誰かが困るわけではありませんよね。
たぶん、多くの方の問題意識は、ある地域において子どもが減ると将来の地域人口の減少につながり、将来その地域で経済を支える労働力や自治体経営の基礎となる税収が減少し、地域での生活や行政サービスが立ち行かなくなる、という懸念なのでしょう。
しかし、そういう懸念ならばそれは「子どもの減少」ではなく「地域における将来の労働力減少」とそこから生じる「地域における将来の税収減少に伴う行政運営財源の不足」が課題なわけで、取り組むべきは「将来の労働力の確保」と「将来の税収減少に見合う行政の効率化・スリム化」です。
 
将来の労働力確保の一方策として、現在及び将来の子どもが減らないように、あわよくば増えるように、行政が子育てを支援するという選択肢があるにはありますが、それは短絡的にイコールで結ばれるものではなく、将来の労働力確保を導く因果の一つでしかありません。
しかも、将来の労働力確保のために子育て支援に取り組み、子どもが増えたからと言ってそれが地域に定着し、地域における将来の労働力につながるかはわからないという因果関係の不確かさを認識し、子育て支援は必ずしも少子化対策の有効な切り札とはならないことを理解しておく必要があると思うのです。
 
仮に少子化を課題ととらえるのであれば、それは、子どもの減少そのものを課題と捉えるのではなく、子どもの減少がインジケーターとして示す何らかの社会の動向を読み取り、それを課題としてとらえなおす必要があると考えています。
では、地方自治体において子どもの数が減るということは何を表しているのか考えてみましょう。
 
子どもの減少が子どもを産み育てる現在の父母世代の人口減少を示すインジケーターである場合には、当該父母世代が地域で担う労働力の減少やそれに伴う税収減こそが喫緊の課題であり、その転出による社会減を食い止め、あるいは移住人口を呼び込むために、就学・就労や居住環境などの改善を図ることになるでしょう。
このような課題認識のもとで、保育や医療の無償化等の子育て支援策を充実させてその地域での暮らしの質を上げ、魅力を高めるという話は時々耳にしますが、その場合に行われる子育て支援策は、出生数を増やして子どもを増やすという目的で実施されるものではありません。
父母世代の人口減少分を自然増で補うために今後の出生数を増加させる施策を打っても生まれた子供が父母世代になるのは20~30年後ですから、喫緊の課題解決のためには他地域からの父母世代転入による社会増を図るしかないからです。
したがって、父母世代の人口減少を食い止めるために行われる子育て支援策の成果は子どもの数で測定するのではなく父母世代の数で測定することになり、当然、政策推進において掲げる目標の設定も同様に、父母世代の数を指標としなければならないはずなのですが、皆さんいかがでしょうか。
 
では、父母世代が減っていないのに子供が減っている場合は、子どもの減少は何を表しているのでしょうか。
子どもを産まない親、子どもをたくさん持ちたがらない親が増えているということを表しているのでしょうが、それは貧困や社会環境によるものか、それとも個人の価値観なのか。
子どもを産まない、たくさん持ちたがらない理由が経済的事情、あるいは子育て環境の不備によるものなのであれば、この場合、子どもの減少は「子を産み育てたいのにできない市民がいる」という課題としてとらえなおすことができ、そういうものが足りない人たちに対して、個人の望む自己実現を支援するという観点で環境を補うことは住民福祉を向上させる政策としてはあり得るでしょう。
少子化対策と子育て支援はよく混同されるのですが、子どもの数を増やすことを目的とした少子化対策と、個々人の望む子育て環境を整備する子育て支援とは似て非なるもの。
少子化対策は子どもを増やすという社会的な要請に応えるものですが、子育て支援は子を産み育てたいという個人の自己実現をサポートする、少子化対策とは全く違うベクトルの施策です。
したがって、子育て支援は誰のための施策なのか、誰がどうなれば施策の成果が表れたということになるのかという視点が重要になります。
 
子育て支援によって個人の自己実現に寄り添うのであれば、いろんな環境に置かれた個々人がそれぞれ育てたいと希望する子どもの数を完全に実現することが地方自治体の責務なのかという点についても考える必要があります。
市民の納めた税金で行政が個人を支援するのであれば、その個人が自己実現として求める欲求の水準についての一定の社会的容認が必要で、この社会的に容認される水準の自己実現について行政の支援がなければできない人や場合に対象を限定すべきというのが私の考えです。
当然、子どもを持たないことが個人の価値観によるものである場合、行政の施策でそれをコントロールすることは難しいし、そもそもそんな介入は不適切でしょう。
 
少子化対策や子育て支援の議論をするときに、合計特殊出生率と個人が育てたいと希望する子どもの数との差を挙げ、その理由としてアンケートなどで経済的な負担や子育て環境の不備が挙がっていることを子育て支援策の充実の論拠とすることがありますが、これも課題や目的を明確化しないまま手法を論じている例のひとつです。
子育て支援を個人の自己実現の支援として行うのであれば、市民全体を十把一からげにした合計特殊出生率と希望する子供の数との差で課題を認識するのではなく、支援を必要としている人に焦点を絞り、困っているのは誰なのか、そこに対してどこまでやるのか、ということが論じられねばならず、その対象層を支援したとしてそれは自治体全体の出生率を押し上げるほどのインパクトがあるわけがないので、合計特殊出生率のような全体指標ではなくターゲットを絞った成果指標で測定すべきという議論になるわけです。
一方、社会的要請に応える少子化対策として行うのであれば、その課題を示す指標として合計特殊出生率を使うことに一定の意味はありますが、それを全体として押し上げようとしたときに、個々の対象者が子育て支援を充実すればみな父母になるのか、もう一人子を産むのか、という、施策と出生率との因果関係を議論しなければなりません。
社会へのインパクトを求める少子化対策と、個人の願望にアプローチする子育て支援は、まったく理念も目標も成果指標も異なるのです。
 
私は、社会全体で子どもを育てることを推奨し子どもを中心とした社会を実現するという理想を掲げることを否定しているわけでは決してありません。
政策とは必ずしも短期的な課題解決のために行われるべきものではなく、長期的な視点で理想を掲げ、それを追い求めていくという性質のものもないわけではありませんが、それはそれとして、そういう長期的な視点の理想であって短期的に課題解決するものではないという認識、今、風が吹けば遠い将来に桶屋が儲かるという論理展開で皆が納得する必要はあるわけで、その場合に短期的にはいつまでに何を実現すればいいのか、そのためにどういう手法が適切かということを誤解なく同じ理解でそろえておく必要はあります。
さらに言えば、子どもが減ったという事実から読み取れる社会の変化について、例えばそれが個人の価値観によるものであったり、我が国全体のトレンドであったりした場合には、それは地方自治体が介入して解決できる課題なのか、という視点も必要です。
 
子育て支援という政策は万人受けするのでどの自治体でも目玉施策として掲げられがちですが、それはどんな課題を解決するために行うのか、その課題は何を見ればその存在がわかるのか、誰がどういう状態になればその課題が解決したといえるのか、その効果発現のために最も適切な手法は何なのか、という点につき論理的に詰めておかなければ、せっかくの取り組みが適切な効果に結びつかないばかりか、ムードに流されて砂漠に水をまくようなことにもなりかねないということを申し上げておきたいと思います。
 
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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
 
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