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自治体職員と政治

「市長の落選,どう思う?特に大きな失政があったわけでもないのに現職が落選するなんて,何が不満だったんだろう」
「それは政治家である市長が考えること。市長が代わっても俺たちの仕事は何も変わらないよ」
「何も変わらないなら,市民の不満も変わらないから,新しい市長も次の選挙で落ちるってことだね」
#ジブリで学ぶ自治体財政

前回に続き、自治体職員がどうしてもお留守になりがちな社会全体のルール、構造についての「リテラシー=読み解く力」について。
前回は「経済」でしたが、今日は「政治」についてです。

自治体職員が「経済リテラシー」を持つべきだという話はうなづきながら読んでいただいた方も多いかと思うのですが、今回私が掲げる「政治リテラシー」についてはいかがでしょうか?
そもそも公務員は全体の奉仕者であって公平公正であければならず、特定の政党、政治的思想への肩入れは許されないというのが常識ですし,その部分に踏み込んで公務員が政治的であるべきだというつもりはありません。
ではそんな公務員の身分で公平公正、不偏不党でありながら「政治」を読み解く力を身に着けるというのはどういう意味なのでしょう。

私たちは普段職場で国の行う政策への批判や国政選挙の結果への感想などを世間話程度に語ることはしますが、公務員が「不偏不党」であることが求められるため、自分が特定の政党や政治家を支持しているかどうかを他人に悟られることを極端に嫌います。
このため「私は政治に関心がありません」と装う人が非常に多く、その結果、職場で政治を語ることはタブーとされ、職場での普段の会話や人間関係の中から政治について学ぶことはほとんどありませんから,結果として個人として政治に関心があり自分で学習する人とそうでない人で,政治を読み解く力=「政治リテラシー」の差が著しい状況が生まれます。
これが公務員の世間知らずを増大させ、新たなリスクを生む、というのが今回の論旨です。

私が自治体職員として「政治」に関心を持ち、そのルールや構造を知り、自分の判断や行動に役立てていこうと考えたのは、今から10年前、福岡市で当時現職だった市長が落選し今の市長が当選した時です。
当時私は現職が2期目を目指すことに何の疑いも持たず、取り立てて大きな失政がなかったと感じていた私はその当選を当たり前のように思っていましたが結果はまさかの落選で大変ショックを受けたことを覚えています。
この時私は、現職が落選した原因を候補者そのものに求めるのではなく、現職の任期中に日々の行政運営を担当した我々職員一人一人の仕事ぶりが至らなかったということなのではないかと考えるようになりました。
そして,一職員としてそのことに気づけなかったこと,すなわち市民が市政運営に不満を感じていること,変化を求めていることに職員として無自覚であったことに大きなリスクを感じたのです。

自治体職員は政治とは決して無縁ではありません。
自治体の運営は市民から選挙で選ばれた政治家である首長がその執行権を握り、地方自治の車の両輪として首長の執行権のチェック機能を果たす議会もまた、市民から選挙で選ばれた政治家です。
私たち自治体職員の毎日の仕事はすべて政治家が決めたことの実行であり、政治家によってその成果を評価され,その政治家たちは数年に一度ある選挙によって市民から審判を下されている。
であれば,私たちの日々の仕事そのものに審判が下されているわけで,日ごろから我々が市民からどう見られているか,どう評価されているかを意識しなければいけないのではないか。
これが自治体職員に「政治リテラシー」を身につけてほしいと私が思う理由です。

市民の意見は現場でいつも聞いている,という方もおられるでしょう。
仕事以外のコミュニティ活動なので市民の生の声をたくさん聴いているので,ことさら「政治リテラシー」などと言わずとも,という方もいるかもしれません。
しかし,あなたの知っている市民の声はあなたの周囲にいる身近な方のものに過ぎず,全体のほんの一部でしかありませんし,そこには偏りがあるかもしれません。
直接聞ける生の声ももちろん大事ですが,そのリアルな一つ一つの声を聴くと同時に,それが全体としてどういう傾向にあるのかという全体像を知ることも重要で,そのためには選挙で選ばれた政治家の言動,ふるまいを観察し,意見を聞き,対話をすることが最も有効な手段だと私は思っています。

ただし「市民が選んだのだから」と政治家の意見に盲従する必要はありません。
政治は複雑で,民意が全てストレートに反映されるものでもありませんし,以前書いたように政治家の「行政運営リテラシー」の問題もあって,主張していること自体が適切でない場合も存在します。
そういった場合に盲従でもなく反発でもなく政治家の主張する「民意」とどう折り合いをつけていくのか,という力量も自治体職員には求められます。
それは,政治家との対話を通じて,その後ろにいる多くの市民の意見を知り,政治家を通じた間接的な対話によってその方々への説明責任を果たしていくこと。
自治体職員が一人一人の市民と直接対話する機会が限られている以上,市民が選んだ政治家との対話,議論を通じて市民と対話し,議論するしかありません。
それができるようになるには,自分たちのまちの政治状況を知り,政治家がどのような背景をもって支持を集め,どのような市民の意見を代弁しているのか,どのような言葉であれば政治家から市民に届けてもらえるのかを考えられる自治体職員でなければなりませんし,政治家の代弁する民意と実際の民意に差がないか,あるとすればそれも自分たちのまちの政治状況の特性として認識し,政治家が拾っていない民意に向き合う方策も考えなければいけません。
これが,自治体職員が政治を読み解く力,すなわち「政治リテラシー」なのです。

そんなのは管理職のやることで,ヒラの自分は関係ないという自治体職員の方もおられるかもしれませんが,そんなことはありません。
自分の仕事と政治は関係ないというのは「市民の思い」と自分の仕事は関係がない,市民がどう評価しようと構わない,聞く耳を持たないと言うのと同じです。
実際に政治家と直接会って話す権限責任の有無にかかわらず,どの現場でも,どの職位でも,常にアンテナを張って「市民の思い」に耳を傾け,その思いと向き合い,日々の仕事に生かしていくことが,自治体全体の「政治リテラシー」の向上につながり,ひいては市民満足の向上につながると私は思っています。

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