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それってホントにお得なの

新たな施設はこの起債を活用してはいかがですか
元利償還に交付税措置がありますので自治体負担が少なくお得ですよ
#ジブリで学ぶ自治体財政

前々回、前回と地方交付税の仕組みとその問題点について書いてきました。

どうも皆さんにうまく伝わっていないのではないかと思うので補筆します。
地方交付税制度は「国が国税として課税徴収する税金の一部を自前の税収の少ない自治体に国が配分する仕組み」とご紹介しましたが、国庫補助金のように国のお金を国が裁量的に地方に分け与える仕組みではありません。

地方交付税の総額は、所得税・法人税の33.1%(平成27年度から)、酒税の50%(平成27年度から)、消費税の19.5%(令和2年度から)、地方法人税の全額(平成26年度から)とされており(地方交付税法第6条)、これは国税として徴収されますが国のお金ではなくあくまでも地方の固有財源。
本来、地方の固有財源であれば地方税として地方自治体が課税し徴収すべきですが、税源が偏在するなかで地方税だけでは地方全体で必要な額を確保して均すことができないので、その財源を国税として全国から徴収しているにすぎません。
なので、地方交付税制度は国のお金が地方に配分される仕組みではなく、地方自治体全体で使うことができるものとして法で定めた地方の共有財源を国がいったん集め、その総額を国が定めたルールで配分しているだけで、国は一切損も得もしない仕組みなのです。

地方交付税として配分される総額は法律により自動計算されて毎年確定するのですから、各自治体に配分される地方交付税はその確定された総額を奪い合っているだけで、国からお金を引っ張ってきているわけでもなんでもありません。
臨時財政対策債は将来の市民が負担する地方交付税原資の先食いだと言っているのはそういう意味です。
仮に地方交付税の原資として法が定める国税の配分割合が変わらなければ、臨時財政対策債発行額が増えれば増えるほどその償還に充てる額が増え、その年度の行政需要に対応するための額が目減りすることになります。
しかし、それは地方の固有財源を先食いしているだけなので、国からすれば地方が自ら判断している朝三暮四に過ぎないのです。

自治体財政をやっていると時々「有利な起債」という言葉を聞くことがあります。
有利な借金といえば金利が安いとか保証人が要らないとかいうのが民間的発想ですが、自治体の「有利」とは地方交付税による戻りがある、という意味で使われます。
地方自治体は社会資本整備の際に地方債を発行して借金することができますが、この借金は当然自分で返さなければいけません。
ところが、この「有利な起債」を使うとその借金を返済する時点で元利償還の一部が基準財政需要額に算入され、地方交付税として措置されるというのです。
自分で借りたお金なのに、返すときに国が面倒を見てくれるのは「有利だ」と考え、こういう借金メニューを積極的に活用する地方自治体は多く、全国の自治体財政課でもそれが当たり前と考えられています。
けど、これも実は臨時財政対策債と同じで、「有利」だと思って借りたお金の返済に充てるのは将来の地方交付税原資である地方の固有財源。
国税の一部ですが、国のお金ではなく地方自治体がみんなで分け合うお金です。
「有利」というのは地方自治体同士の財源の奪い合い、地方交付税分捕り合戦の中での先取りという意味なのです。

この「有利な起債」は、国が地方自治体に取り組んでほしい、推奨する施策に創設されます。
しかしよく考えてみると、そういうものは国が各省庁の予算として補助金を確保し、地方自治体が事業を実施するその年度に国から現ナマで交付するのが本筋ではないかと思うのです。
国が推奨する施策について、国からの補助金ではなく地方債での資金調達に対して後年度の地方交付税措置を約束することで、国は現年度予算を確保する義務から解放されるだけでなく、後年度の財政負担からも解放されているのですが、この構造に気がついていない人はたくさんいます。
地方交付税で後年度90%措置するという「超お得な」起債メニューもかつてはありましたが、よくよく考えるとほぼ全て後年度に地方交付税の原資で償還するということなので、国からみて「超お得な」メニューだったと言えるでしょう。

国のお金であろうと地方の固有財源であろうと国民、市民の税金であることに変わりなく、無駄遣いはよくない、将来の先食いはよくないと言ってしまえばそれまでですが、地方交付税の仕組みは国が準備してくれるお金を地方自治体が「他人のお金」と思って「もらえるだけもらいたい」と考えてしまい、モラルハザードが起きてしまうところに問題があります。
「他人のお金」に目が行くと「収入の範囲内でしか支出できない」という財政の基本原則を逸脱しがちです。
地方交付税は本当に「他人のお金」なのか、「もらえるだけもらったほうがいい」と考えることが適切なのか、制度の趣旨、構造、運用実態などを私たち地方自治体がよく知り、よく考え、地方固有の「共有財源」としてその使い道を国任せにしないで自己決定していかなければならないと私は思うのです。

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