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その寡黙さに甘えるな

「築30年でしょ?大規模修繕の予算はとってあるの?計画はいつ?」
「そもそも修繕計画がありません。計画を作るための調査費をつけてもらえなかったので」
#ジブリで学ぶ自治体財政

これからの自治体財政を語るうえで避けて通れない、そしてたぶん最も乗り越えることが困難な課題、それは「施設による公共サービスの提供」です。
地方自治体は、市民の期待に応えて様々な公共サービスを提供するため、たくさんの公共施設を持っています。
道路、公園、上下水道、学校、公民館、体育館、図書館、美術館、博物館、文化ホール、清掃工場、病院、公営住宅、鉄道、空港、港湾等々、数え上げればきりがありません。
地方自治体は行政サービスを提供するための専用の施設を作り、その施設を稼働させることで市民に利便を提供し、私たちの生活を支えています。
その施設を維持し今後もサービスを提供していくうえで、先日からお話ししている財政上の制約が大きくのしかかってきています。
そしてこの財政上の制約を乗り越えていくことを難しくさせているのが「施設」というモノの性格で、私が財政課時代からずっと「最も乗り越えることが困難」と感じている所以です。

公共施設はすべて、サービスを長期にわたって安定的に提供するためのものですから、同じサービスが永続的に提供できるよう設計され、整備され、運営されており、日々の施設運営はもちろん、光熱水費や警備清掃、施設保守等の維持管理に係る必要経費は毎年ほとんど変わりません。
この安定という特性が財政上の制約を受けるときに大きな足かせになります。
つまり財源不足に対応し必要経費の規模を見直すことが難しいのです。
厳しい財政状況の中で配分される財源が限られると、公共施設を管理する側としては営業日数や時間などを減らして市民サービスの質を落とすわけにいかない
ため、利用者の目に見えないところで施設のハード部分のメンテナンスに係る経費を削るのが常とう手段になります。
毎年度のシーリングで施設のメンテナンスに関する経費を薄く削り、緊急対応の予備的な経費だけでなく日常的な修繕の経費にまで手を付け、点検すら怠るようになってしまうと、それが結局、施設の老朽化を早めたり、思わぬ事故を招いて市民の信頼を損ねたりして余計なトラブルを抱えることになるのですが、そうなるまで放置されてきた現状が全国にあるわけです。

また、減価償却費をコストとして認識できないという話を前回書きましたが、そのことと関連性があるのかないのか、施設の大規模修繕や更新に関する費用を準備しておくという概念が欠落しているケースが多々あります。
マンションを購入する場合のアドバイスとして「修繕積立金を適正な額で積算徴収しているかチェックしましょう」という話がありますが、地方自治体の公共施設の修繕積立は悲惨なものです。
特に毎年度引き当てておくような仕組みはなく、必要な時期に予算要求を行い、必要かどうかの議論から始めるというありさま。
しかも、財政上の制約から予算要求した年度に予算が計上されることはほぼなく、必要な修繕は常に後手に回ります。
公共施設は自治体の持ち物ですが、それは市民の共有財産でもあるわけで、それがこんな杜撰な管理でいいのか、市民が許してくれるのかというのは首をかしげたくなります。
これがうちのマンション管理業者ならとっくに文句を言いに行っているところですがね(笑)。

このように、施設の維持管理、特にハード部分のメンテナンスについては軽視されがちなのですが、なぜ地方自治体はハードのメンテナンスに予算をかけないのでしょうか。
これは、近代化とともに市民の信託を受けて社会基盤を整備することが使命とされた我々行政の使命感の名残です。
人口の増加と都市化の進展を受け、足りない公共施設を整備することが行政の役割で、そのことを最重要課題として予算も人員も投入してきた時代が長く続き、その間、整備した施設の維持管理は政策課題として日の目を浴びることなく脇に置かれてきました。
市民も議会も首長も、新しい施設の整備を求め、整備された既存施設が適切に維持されることが選挙の公約とされたり市民の重要な要望とされたりすることはありませんでした。
毎年度の予算編成でも新たな課題に対応する新規施策・事業の構築のために既存事業の見直すという手法の中で、既にある公共施設の維持管理も予算削減の対象とされてきました。
施設の維持管理はすでに解決された政策の維持であって解決すべき新たな課題ではないと考えられていたのです。

しかし、時代は成長から停滞へ移り、もはや足りない施設を新たに作ることが礼賛される時代ではありません。
高度経済成長期に大量に整備した社会資本が大規模修繕や更新の時期を迎え、施設の老朽化や陳腐化への対応、人口減少時代に対応した都市のスケールダウンの議論ももうだいぶん前から始まっています。
すでに公共施設の適切な維持管理は重要な政策課題になっているのです。
福岡市では、この課題意識を予算編成上のルールに落とし込み、市全体での公共施設のハード部分の維持補修や大規模修繕については、通常の枠配分とは別の仕組みを作り、全庁のバランスを保ちながら計画的、戦略的に施設を維持できるようなやり方に改めています。
まだ十分に機能しているとは言い難い面もありますが、このやり方を導入したおかげで枠配分予算の仕組みのなかで通常の施策と施設の大規模修繕との優劣を平行で論じることはなくなりました。
直接モノを言う市民と少々乱雑に取り扱われても黙って耐える施設を同列に扱えば、文句を言わない施設の寡黙な包容力に甘えたくなりますが、その寡黙さの向こうには市民からの無言の信託、あえて言わずとも安心して任せているのだぞ、公共施設なのだから安全に利用できて当たり前だという絶大な信頼感があるわけですから、それを裏切るわけにはいかないということに思いを馳せてほしいと思います。

公共施設についてはメンテナンス経費の予算確保よりもさらに重い問題がありますが、それはまた別の機会に。

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