知らないのは誰のせい
自治体の予算書ってちんぷんかんぷん
款・項・目・節って何なの?
そんなことはわからなくてもいいんだよ
知りたいことは役所の人に聞いたほうが早いって
#ジブリで学ぶ自治体財政
総選挙が終わりました。
結果についての論評は控えますが,私自身が選挙前から課題があるととらえていた「行政運営を行政運営リテラシーの向上」については,改めて現状が確認できたところです。
ここで何度か触れましたが,現職の財務事務次官による意見表明が総選挙にいい意味での緊張感を持たせることができたことを,私個人としては評価したいと思います。
自民党総裁選のさなか各候補が財源について言及せぬまま政策の拡充を主張し,野党各党も減税や金銭給付などの国民負担軽減策を財源の裏打ちのないまま他党に負けじと掲げるさまは,まさに昨年コロナ禍の中で行われたいくつかの自治体首長選挙を彷彿とさせました。
赤字国債による財政出動の是非については議論の分かれるところですが,件の次官発言に今さらながら注目したマスコミが財源なき施策拡充に警鐘を鳴らし報道で取り上げ始めたために,与野党ともいったんは財源論に向き合わなければいけなくなり,そのおかげで我々国民も,政策を論じる上では“ザイゲン”という無視できないものがあるという当たり前のことを改めて意識できるようになりました。
これはここ数年の国政選挙ではなかったことであり,特に昨年未曽有のコロナ禍の中で誰も言い出すことができなかった「開きっぱなしのワニの口」への懸念,赤字国債乱発への問題意識を思い起こさせ,国民の国家財政運営に対するリテラシーの向上を果たした,ファインプレイだったと思います。
ただ惜しむらくは,そのことが組織的に行われたものでなかったため,政治的中立を図るべき公務員としていかがなものかという批判を浴びたこと。
ではどうすればよかったのか。
私も自治体職員として,自治体運営のリテラシーを高めるために市民にどのような情報提供,共有に努めるべきか,この事案を踏まえとても悩ましく感じています。
また,今回の総選挙では「投票に行こう」という声掛けがいつも以上に盛んで,実際に若者の投票率は若干ですが向上したというデータもあります。
しかしながらこちらも少し物足りなかったのは,「選挙に行こう」と選挙権を行使することへの呼びかけばかりが強く感じられたこと。
選挙権行使の際には,「誰に入れるか」を判断するために「誰が何を言っているか」を理解する必要がありますが,日頃,行政運営にあまり興味関心のない国民は行政の仕組みや政策の目的,狙いとなる社会課題の現状について「何を言っているか理解できない」という問題があります。
今回の総選挙に際しては,各党の政策が自分の価値観とどの程度一致するかを検証できるwebサイトなども開設され,政治に無関心な層に投票を促す社会的な工夫改善は進んでいると思いましたが,例えば,年金は自分の掛金が戻ってくる「積立方式」ではなく,年金受給の時点で掛け金を払っている現役世代の負担に支えられる「賦課方式」であることを,誤解なく正しく理解できているか。
この事実認識が正しくなければ年金の財源問題に言及できるはずもなく,その改善方策について誰かが何かを主張したとしても,それが自分の価値観に照らして望ましいものなのか判断できません。
一部の識者の見解によれば,若年層の中には「間違ったものを選びたくない」という投票行動を採ろうとするために「わからないから投票しない」という判断に至ることもあるようで,そういう意味では「選挙に行こう」という呼びかけだけではまだまだ本質的ではなく,判断の前提となる事実の社会的共有をもっと進める必要性を感じました。
では,判断の前提となる事実を国民,市民はどうやって知ることができるのか。
それは求めれば手に入るものであるにも関わらず,国民,市民が無関心であるためにその情報を収集することを怠っているのでしょうか。
例えば私がいつも話している自治体財政の話。
最近,ある民間人の方と話していて「自治体の予算書ってわかりにくいですよね」という話になりました。
確かに,議会に議案として提出される予算書,予算説明書は総務省の示す様式に従い全国一律の様式で調製されており,事業の体系化が大括りで細かい事業説明がないため,予算書を見るだけではどのような事業をやっているのか,自治体の財政畑に長くいた私だって実はよくわかりません。
多くの自治体では議会での予算審議について事業部局ごと,政策目的ごとに審査する分科会方式を採用しており,この分科会で配られる資料であればもう少し事業の体系や各事業の内容や予算書よりは詳細に記載してありますし,それぞれの自治体の当初予算編成時の公表資料や,事業部局ごとに作成された事業概要などのほうがわかりやすくまとめられていますので,自分の自治体がどの政策に力を入れているか,それはどのような内容か,などについては調べればわかるようになっています。
財政健全化に関する指標や取り組みなど,財政運営全般についての情報についても近年どの自治体でもそれなりにまとめられた資料を公表しています。
しかし,私のように自治体財政に精通した方ならともかく,一般の市民はおろか,自治体の職員でさえ,自分が知りたいと思う情報に正しくたどり着けるのか。
たどり着けたとしても専門用語が並ぶ資料を自らの力だけで読解していくことができるのか,私は疑問です。
これまでも何度か書きましたが,行政運営を正しく方向付けるには選挙で選ばれる首長や議員の力に負うところが大きく,そのためにはきちんとした行政運営リテラシーを持った市民が育ち,その市民が選挙によって力量のある政治家を選び,その力量を監視していくことが必要です。
しかし,市民の行政運営リテラシーを向上させるための行政情報の提供についてはまだまだその方法や内容に課題があると言わざるを得ません。
件の財務事務次官発言についても,その後財務省は公式にコメントをしておらず,赤字国債の発行の是非については評論家やマスコミが外野で騒いでいるにすぎないのです。
少なくともある案件について課題意識を持った市民が,現在採られている政策の是非について判断を行う上で必要な事実を理解したいと考えた場合に,その事実を知りうる状態を作ることは我々公務員の責務だと思います。
そのために公務員が外の世界とどう向き合い,接点を持ち,政治的中立や組織の内部統制を考慮しながら,「中の人」として培った知見を活かして市民の行政運営リテラシーの向上に貢献できるかということを考え,実践していきたいと思っていますが,皆さんはどのような方法があると思いますか?
ご意見をお寄せいただけたらうれしいです。
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https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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