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より良い予算の条件

やっぱり料理はお手製が一番
その日の気分や仕入れに合わせて
具材も味付けも好みで選べるし
失敗しても自分なら許せるから
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
前回、枠配分予算は組織内の分断によって分散しているエネルギーを一つの方向に集約し、効果的に活用するための「対話」を促進するインフラ、財政運営になるべく多くの人の知恵と力、そしてやる気を結集し、それぞれの役割や能力に応じた分担や連携で解決にあたるための仕組み、と書きました。

では、枠配分予算で編成した予算は「いい予算」なのでしょうか。
現場と財政課がともに同じ方向を向き、相互理解のために忌憚のない対話と真摯な議論を日常的に行うことができる土壌があれば「いい予算」が組めるのでしょうか。
 
そもそも「いい予算」とは何でしょうか。
財政課の視点から見れば、財政指標が良好で健全な財政運営ができている、となるでしょうが、それぞれの行政分野の担当現場では、市民のニーズに即したサービスが過不足なく提供できている、となるでしょう。
市長や議会は、その個々のサービスがバランスよく提供され、自分の支持者層のニーズに合致していることを「いい予算」と評価することでしょう。
そして、市民は・・・?
市民にとって「いい予算」とはいったいどういうモノを指すのでしょうか。
 
市民には三つの立場があります。
一つは納税者の立場、もう一つはサービスを消費する立場、そして選挙を通じて首長や議会を選び、自治体を経営する立場です。
納税者の立場からすれば、納める税金は安いほうがよく、その使途は無駄がないほうがいいでしょう。
サービスを消費する立場からすれば、個人的には自分が必要とするサービスがいつでも便利に使えるほうがいいのですが、そのサービスの種類や質、量については個人の価値観や置かれている状況によって差異があり、その選択は困難を極めます。
そして経営者の立場では、将来にわたって持続可能な財政運営を堅持しつつ、多様な市民ニーズに応える総合的なサービスを提供できる経営体であることを目指すのではないでしょうか。
詰まるところ、自治体の財政運営においては、何を予算として計上、執行すればよい、あるいはどういう姿形の予算になっていればいいという、アウトプットとしての最適解はない、というのが私なりの答えです。
 
では、私たちは何を目指して財政運営に取り組んでいけばいいのでしょうか。
予算編成に正解はなく、予算執行によりそれぞれの事業の効果が発現する中で自治体運営そのものが市民から評価されるにすぎないため、正しさの追求に基づく現場の予算編成能力への懐疑や、財政規律、よりよい予算という価値観の絶対性の信奉は百害あって一利なし、とも前回書きました。
財政課が強大な権力を以て、ある基準ですべての事務事業の内容、金額を精査し、各政策分野の優先順位やバランスを判断しても、それが多くの市民にとって受け入れられ市民満足度が高まるわけではないということです。
 
私は、財政運営が目指すべきは財政のみならず政策の実現や広報公聴などの市民との関係性構築を含めた自治体運営総体のアウトカムとしての市民満足だと考えています。
この満足は、どのような内容の施策事業が予算として盛り込まれているかではなく、その意思決定過程や普段の自治体運営において市民一人ひとりが直接あるいは間接的にジブンゴトとして関わることができるか、できたかに左右されるため、予算編成の内容よりもその過程が重要だと考えているのです。
少なくとも役所の中では、財政課にすべての情報が集まるわけでなく、市民に近い現場で起こっていることと、市役所の中心部でトップや官房部門などの経営層が考える全体最適のために必要な情報、価値観、方針を同じ俎上で共有し、対話することで、より市民に受け入れられ、満足度を高める案に磨き上げられていきます。
この庁内対話・議論の場が予算編成であり、その場での自由闊達な意見交換や情報交換が行われやすいよう、ファシリテーターを務めているのが財政課なのではないか。
そのように考えて、庁内対話の場づくりとして「枠配分予算」というインフラを整備することで、財政課と現場の情報の非対称性を緩和し、現場と財政課がともに同じ方向を向いて相互理解のために忌憚のない対話と真摯な議論を日常的に行うことができる土壌を作ったというわけです。

職員同士が庁内で対話を重ねることがなぜ市民満足度を高めるのでしょうか。
それは、私たち職員一人ひとりが、市民のそれぞれが置かれた環境、多様な価値観、ニーズをもとにその立場、意見を代位し、役所の中で代弁する、いわばアバターの役割を果たしているからです。
職員が自分の背後にいる市民の声を聴き、アバターとしてその声を庁内対話のテーブルに届け、そこに集まっている多様な市民の声にみんなで向き合う。
そうすることで庁内での対話、議論は市民同士の対話、議論へと昇華します。
市民一人ひとりが当事者としてこの対話・議論の場に居合わせ、あたかも市民同士の対話・議論に自分が参加しているように擬制することができます。
大事なのは、職員同士が市民のことを思い、そのことをきちんと対話し、議論し、その過程や結果に幸せを感じられるようにすること。
そして、予算編成をはじめ、私たちが自治体組織内で行う意思決定や合意形成が忌憚のない対話と真摯な議論から導かれる良質なものであることを多くの市民に知ってもらうことなのです。

こう書くと、予算は中身ではない、編成過程での合意形成がすべてだと誤解される方がおられるかもしれませんが、そんなことはありません。
自治体の将来像を踏まえ、これを実現する方策が準備されているか。
新たな課題に対応するための財源が、毎年の財源配分の中で担保されているか。
市民負担を可能な限り少なく、支出を無駄なく抑えることができているか。
現世の利益を優先し後世に負担を強いていないか。
より多くの市民の立場、価値観を代位する職員同士の対話の中では、当然に政策推進や財政健全化のための具体の方策についても市民意見の代位として対話が行われ、合意形成の一部として包含されていきます。
こうして現場に精通した職員と政策推進・財政健全化のノウハウを持つ財政課職員がタッグを組み、互いの立場を尊重しながら歩み寄ることで、多様な市民の多くから許容される妥当性を持った「いい予算」が導かれることになるのです。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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