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できていないことを悟る

「今日から財政課でお世話になります!忙しい職場と聞いていますが精いっぱい頑張ります。ちなみに比較的時間に余裕がある時期っていつですか?」
「そうねえ。深夜12時から朝の8時くらいまでかな」
#ジブリで学ぶ自治体財政

このやりとり,実話です(笑)
これは私が課長だったとき,4月に異動してきた若手職員さんに冗談めかして言ったセリフで決して福岡市財政課の真実ではないのですが,このやりとりを読んで「あるある」とほくそ笑んだ財政課の皆さんは相当病んでますね。

昨日までの投稿で「枠配分予算」のことをご紹介してきましたが,結局のところ予算編成手法の改革として実現するためには財政課が積極的,能動的に動かなければいけないというところまで書きました。
では,多くの自治体でなぜ財政課は枠配分予算の実現に向けて積極的に動かない(あるいは動けない)のでしょうか。

全国の自治体財政課の課長,職員の皆さん,予算編成をはじめ各種の執行協議,政策決定に向けた議論,財源の確保・調達等,年がら年中多岐にわたって財政運営全般をつかさどり大変お忙しいと思います。
その時間と労力は何のために費やされているのでしょうか。
皆さんは財政課の果たすべき使命をどのようにお考えでしょうか。
また,その使命をどの程度果たせているとお考えでしょうか。
さらにお尋ねすると,そのためにどの程度のコストをかけているでしょうか。
財政課は自分たちの仕事内容,やり方について査定を受けません。
「目的に即した成果を最大に得ているか」
「もっと効率的な方法はないか」
財政課の皆さんが普段現場の皆さんに投げかけている言葉を,予算編成,執行管理,あるいは財政運営全般に置き換えてこの問いを立ててみてください。

財政課の存在意義,使命は,効果的な資源配分と持続可能な財政運営の両立です。
この目的を達成するため,無駄な経費をそぎ落とし必要な施策事業に予算をつけ,借金や基金の残高に留意しながら全体を束ねるということを予算編成の中で行い,それがきちんと実行されるために予算執行管理を行うのが財政課の使命だということに異論をはさむ人はいないでしょう。
持続可能な財政運営という目的については,確かに全体を束ねて見渡す必要がありますので,財政課が最後まで担わないといけない部分かもしれません。

しかし,効果的な資源配分という目的に即した成果はどうでしょうか。
財政課の行うシーリング(要求上限額)設定や一件査定は,効果的な資源配分にどの程度貢献しているのでしょうか。
効果的な資源配分であったかどうかを何のモノサシで測定するかというと,市民が市政に満足しているかということに尽きます。
極端に言うと,福岡市の規模でいえば財政課長一人で3000事業の内容と優先順位を決め,9000人の職員がそれに従うのと,9000人の職員がそれぞれの持ち場で自分の与えられた裁量の範囲で最大のパフォーマンスを発揮するとのどちらが市民を喜ばせることができますか,という話だと私は思っています。

私は,市民の満足度を高めることについて,財政課長が現場の職員に敵うはずがないと考え,枠配分予算の対象事業を大幅に拡大し,財政課の査定していた権限と裁量を現場に委ねました。
現場のニーズや課題を知り尽くし,マンパワー,誠意,笑顔,人間関係など,お金以外の解決策,市民満足向上のための技を持った現場に,財政課が敵うはずがないと考えたからです。
これは私自身が財政課の限界を悟り,私一人に権限と責任を集中することでは財政課の果たすべき使命を果たせないと考えたことによります。
もちろん,旧来型の一件査定の手法でも,時間と労力をかけてそれぞれの事業の目的や効果,効率性などを議論していくことで「効果的な資源配分」について一定の成果を得ることはできますし,多くの自治体はそう考えてこの手法をとっていると思いますが,ここであえてもう一度財政課の皆さんにお尋ねです。
「もっと効率的な方法はないですか?」

財政課だけでなく予算編成に関わる各職場の職員が秋から冬にかけて財政課とのやりとりでどれだけたくさんの時間と労力を割いていますか。
3ヶ月にもわたる内部調整で費やされるエネルギーにふさわしい,よりよい予算案が出来上がっているのでしょうか。
あるいは,その内部抗争の徒労感が生むマイナスのモチベーションは,現場で市民に悪い影響を及ぼしていないでしょうか。
逆に,現場にプラスのモチベーションを持たせることができれば,同じ経費でもより効果的な事業実施が期待できるのではないでしょうか。

これだけのことがわかっていながら財政課が動けないのはなぜか。
言葉は悪いですが,組織の自律経営を阻むのは財政課の自負,プライドです。
財政運営については,財政課が最終的な責任を取らなければいけないと考えるその自負は素晴らしいと思いますし,その自負がなければあれだけの激務をこなせるはずがありません。
しかしその自負,プライドが邪魔をして,現場に任せるよりも財政課で判断したほうがよい,現場に任せるわけにいかないという驕り,あるいは枠配分予算を導入することが財政課の使命の放棄だとの批判や枠配分予算がうまくいかなかったときの非難への怖れから来る,枠配分予算で絶対的な正解を導くことができる,導かねばならないという過信と重圧から,枠配分予算の前提となる組織の自律経営,現場を信じて委ねるという思想に舵を切ることができないのです。

効果的な資源配分と持続可能な財政運営の両立だけが財政課長の使命ではありません。
財政課職員はもちろん,財政課が船頭となって庁内全体を取り仕切る予算編成・執行管理の業務にかかわるすべての職場で,職員の過重労働をなくし,やりがいのある職場をつくるという労働者保護,働き方改革の推進も重要な仕事です。
いい予算を組みたいという気持ちはわかりますし,その責任感も大事ですが,「目的に即した成果を最大に得ているか」「もっと効率的な方法はないか」と自分自身に問いかけてみてください。
自分自身が今,財政課長として十分に使命を果たせていない,課長として職員の労務管理ができていない「ダメ課長」と悟ることから道が開けますから。
「そうはいっても忙しくてそんなことを考える暇がない」と言われると,それが最大の悲劇ですけどね。

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