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続・予算が余るのは悪いこと?

昨日の続きです。
自治体の職員は「予算が余る」ことを嫌いますが,その大きな理由は二つ。
「財政課に怒られるから」と「議会に怒られるから」です(笑)

福岡市ではさすがに最近そういう議論にならなくなってほっとしていますが,未だに決算の説明では歳入歳出ともに最終予算額に対する「執行率」というものを説明することになっています。
これは「予算が使われた」=「その事業規模に見合う成果が市民にもたらされた」と判断できていた時代の名残なのです。

高度経済成長期からバブル経済期くらいまでは,道路,公園,学校,上下水道整備など,市民生活に密着した公共事業がまさにこの執行率議論の代表格でした。
事業に使われた金額だけ市民の生活が豊かになると信じられ,議会はそのための公共事業費確保に躍起になり,せっかく確保できた予算が執行できずに余ると,もっと仕事をしろと役所が叱咤される時代。
もうとっくにそんな時代じゃなくなっているのですが,未だに過去の残像におびえ,予算をきちんと使わないと議会から怒られる,という思想が染みついている課長さん,部長さんも,まだ現役でおられるのではないでしょうか。

もちろん今でも,予算を使うことで市民生活が豊かになることは変わりません。
公共事業以外の,教育や福祉などのソフト施策でも,予算を執行することで市民生活にインパクトを与え,生活の質を向上させる効果があることは事実です。
しかし,市民から本当に問われるのは,その施策事業にどのくらいの予算を投じたか,ではなくその結果,市民生活の何がどのように変化し,市民が喜ぶ結果が生じたのか,です。

道路などの社会基盤整備だとわかりやすいですよね。
道路が狭くて不便だったのが,広くなって使いやすくなった。
ある施策事業に投じたお金とその施策事業が社会に与えた便益の相関関係がわかりやすいものが多かった時代には,予算の投入額で事業の効果を判断しても差し支えがなかったかもしれませんが,今は市民の価値観も多様化し,社会構造も複雑化している中で,お金をかけた分市民が喜ぶなんてそんな単純な施策事業はありません。


昨日の投稿に対して,民間企業であればより経費を安く上げようと考えるのが当たり前だが公務員はそう考えないのかというご意見もいただきました。
民間企業の場合は,より大きな利益を追求することが究極の目的であり,そのためのコストダウンは企業として当然第一に考える基本的な認識になりますが,地方自治体の場合,企業会計や特別会計などの特別な事業構造のものを除き,ほとんどの事業は市民から集めた税金という原資で,よりよい市民サービスを提供することが究極の目的であり,「より安く」よりも「より大きな満足」を追求することが基本になっています。
なので,先ほどご紹介したように「たくさんの予算」=「たくさんの市民満足」だったという時代背景もあって,「より安く」という意識が民間企業に比べれば少し薄かったのではないかと私は思います。

しかし,時代は変わり,予算の額で市民の満足を買える時代は終わりました。
また,市民の満足をお金で買えたとしても,地方自治体の財政は年々厳しさを増しており,市民の満足のために投じる資金が潤沢にあるわけではありません。
そこでまず「より高い満足」を目指したうえで,それを「より低い金額」で実現する「費用対効果」という概念が芽生えてくるわけです。

昨日の投稿で,支出予算の執行節減、歳入の確保などにより予算を余らせた場合に一定の額を自由に使える財源として翌年度予算に反映する「節約インセンティブ制度」についてご紹介しましたが,これはあくまでも「職員の創意工夫」に起因するものに限られ,単に契約落差で予算額を下回ったものや,事業進捗の遅れで当該年度の出来高が予算を下回ったものなどは対象になりません。
あくまでも,同じ内容の市民サービスを職員の創意工夫でより効率的に提供できたというものに限られます。

これは同じサービスを提供するのであれば,工夫してより安く実現する努力を現場に委ねたものです。
しかし,よりよい市民サービスを提供することが究極の目的であるならば,そもそも同じ金額でも「より高い満足」を目指すことが必要です。
そのためには,自治体組織はどのように取り組めばいいのでしょうか。
そのために必要な自治体組織の努力を促すために,市民は,議会はどのように自治体組織と関わっていくべきなのでしょうか。

予算はあくまでも個々の施策事業に投じる費用の明細に過ぎません。
大事なのは金額ではなく,その金額で何をして,どのような効果を上げるか。
予算が余ったか使い切ったかで財政課や議会から怒られるのではなく,限られた財源でより大きな満足を実現できる事業内容の予算を組み,それを効果的,効率的に実行することで市民から喜ばれるよう,工夫したいものですね。

★「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」について
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