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#文芸評論

「たましひ」は何処へゆくのか~永井陽子の霊的世界

「たましひ」は何処へゆくのか~永井陽子の霊的世界

はじめに
永井陽子の作品世界は、異界や遠い過去と交感し、魂や心をみつめる豊かな霊的世界である。本稿では、永井の短歌に表現された霊的なるものの姿と行方を追ってみたい。
 
過去世への憧れ
 遠い過去への憧れは、まず第一作品集『葦牙』の次のような歌に現れる。

 続く『なよたけ拾遺』は、「竹取物語」と加藤道夫の戯曲「なよたけ」を下敷きにした歌集タイトルからもわかるように、全体が過去世を志向しているとい

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死の側から生を視るということ 〜『時禱集』と『景徳鎮』~

死の側から生を視るということ 〜『時禱集』と『景徳鎮』~

         
はじめに

『時禱集』は二○一七年二月に刊行された三枝浩樹(一九四六年~)の第六歌集である。
『景徳鎮』は二○一七年三月に刊行された大辻隆弘(一九六〇年~)の第八歌集である。
この二歌集はほぼ同時期に刊行され、「死」を扱った多くの歌が収録されていること、著者の職業(教員)などの共通項をもつ。(三枝は二○○九年退職)。
『時禱集』の集題はリルケの『時禱詩集』を意識したもの、『景徳

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