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ケアと書類の深い関係

お祝い代わりの任意後見契約

母N子さんとは彼女が80歳になったのを機に本人の希望でいざという時に備えて移行型の任意後見契約の公正証書を作成した
任意後見契約には3種類あるが、移行型というのは本人の判断能力が保たれているうちは委任契約の形で状況に応じたサポートを行えるため、一番使い勝手がいいとされている。

きっかけは「80歳のお祝い、何がいい?」と私が尋ねたことだ。
この回答が「普通のお祝いはいらない。でも、代わりと言っては何だけど後々もめないよう、いざという時に誰が介護の手続きなどをするかについて担当者を決めてその人と任意後見契約をしたい」というもので、内心「N子さんらしい!」と思ってしまった。この時父と姉も同席していたが、話し合いの結果一番状況に応じて動ける立場の私が引き受けることになった。
母の要望をさらに確認したところ、遺言書なども作った方がいいことが判明したので公証役場へ出向いてから公証人や秘書さんとは何度もメールで草稿を交わして本人の要望を追加削除し、数カ月後無事書類が揃った。
母にしたら自分が介護や相続で苦労したので、少しでも家族の負担を減らせたらという親心もあったのだろう。それなりに費用はかかったが、今後を考えると実にありがたい先行投資だった

書類、書類、書類…

幸い今のところ元気なので最低限のサポートで済んでいるものの、母がこちらへ転居する頃から介護サービスや税金、年金や生命保険など内容が複雑な契約書などがどんどん出てきた。
本人もある程度は理解していても細かい内容については面倒なのか「読んでおいて!」と頼んでくるようになった。
確かに最近の契約書は文字が小さいし、正確さを期するあまりに内容が込み入っていることが多い。念のため私も目を通した方が何かあった時対応もしやすい。
実際昨年も生命保険会社からの内容確認書類をチェックしたら取引口座が先日解約した銀行のもので「あら!」となり、慌てて変更手続きのためネットで来店予約を取って後日母を連れて窓口へ。担当者に対応してもらい、無事手続きを済ませることができた。

通訳の役割の重要性

ここ5年近く親の用事に付き添ったり介護保険の申請などをしているが、出向いた先の職員と親たちの通訳をすることが増えている。
自分も病院などの医療現場にいた頃はそうだったかも、と反省する一方で、スタッフたちと親たちのコミュニケーションのすれ違いを感じてお互いの意図をすり合わせ、誤解が生じぬよう気を遣い、何とか落とし所を見つけて終わった時は疲労を感じることが多々ある(それでも母に不満げな顔をされてゲンナリすることもあるが…)。
ここ最近特に気になるのがコンプライアンス意識の高まりからか、スタッフ側の説明が紋切り型になりがちなことだ。一言一句間違えぬよう文章を読み上げ、こちらの同意を得るよう一見気を配ってはいるものの、自分たちが伝えたいことを一律に話しているだけのような印象を受ける。
先方からすれば個人差をなくして人が代わっても対応できるようにマニュアルなどを作っているのかもしれないが、こと対人関係においてはマニュアルに書いていないような不測の事態が起こるのは当然のことだ。

それもあってか、高齢者向けの保険商品や通販商品を扱う会社は
・大きめの文字の資料
・電話オペレーターによる商品説明対応の強化
・設置や下取りなど買い替えしやすいフォロー
といった高齢者のハードルを下げるための工夫があれこれ凝らされている。

特に母は難聴で補聴器をしていることもあってか、とっさに相手の話し声を聞き取れていないことがある。すると相手は大きな声を出して伝えようとするが、加齢性難聴の場合補充現象(リクルートメント現象とも)によって健聴者よりも大きな音が苦痛に感じる

穏やかに「あ、補聴器していますから大きな声でなくてもゆっくりはっきり話せば大丈夫ですよ」と私が角を立てぬよう言うと相手もハッとして訂正してくれるが、母がジェスチャーなどで声を小さくするよう意思表示すると相手がムッとすることがあるらしい(少なくとも母はそう感じている模様)。

特に今はコロナ禍のため話し手の口元がマスクで隠れているから聞き取りづらい

そして、これは高齢者ばかりではなく、子ども達にも影響が及んでいると感じるとも増えている(この辺の事情は以前こちらにも書いた)。

とにかくケアする人がいると、ケアの役割を担う人(多くは女性)の負担は見えないところで増大する。とりわけコミュニケーション不全は明らかにQOL低下につながるから、
もう少しケアを担う家族や医療・教育・福祉現場のスタッフが利用者と向き合えるゆとりが欲しいと願うばかりだ。

高齢者にこそ個別支援の視点を

親の介護をしていてつくづく実感しているのが多様な人生を歩んできた高齢者にこそ個別支援という視点が重要という意識だ。しかし、今の介護保険制度だと鎧のようにガッチリとした仕組みになってしまい、母のように制度から少し外れたニーズがある人はカバーしきれない(あらかじめ断っておくが、介護保険制度で利用できるサービスは活用しているし、幸いケアマネさんやヘルパーさん、そしてデイケアのスタッフさんなどには感謝している)。
個別支援の視点については最近思うところが色々あるので、もう少し掘り下げたいと思う。

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