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フリーランス40歳の壁に立ち向かうには

周囲のフリーランスの間で、まことしやかに囁かれている怖い噂がある。

「フリーランスは40歳を境に仕事が減っていく」

という言い伝えだ。聞くところによると、そこにはいくつかの真っ当な理由があるらしい。

・付き合いのあった担当者が出世して、現場に関与しなくなる

・若い人や新人さんが現場を回すことになるため、年上のフリーランスは使いづらく声がかからなくなる

・ハードな依頼は体力に気遣われて声がかからなくなる

すべて40歳になっていない方から聞いた声なので、実際のところはわからないのだけれど、それにしてもリアルだと思う。

実際、38歳くらいのフリーランスの先輩から「就職を考えてる」という衝撃的な台詞を聞いたことがある。なにが衝撃って、その方、とても仕事ができるのだ。引く手あまたで、未来の心配なんて無縁に見えていた。

そんな脂ののった方さえ弱気にさせてしまう「40歳の壁」に私はすっかり震え上がっていた。ただでさえフリーランスは老後5000万円必要だとか言われている。40歳以降の先行きが見えないとなると、現在34歳の私は6年間で5000万円貯め込む必要がある。いやまてよ、5000万円は老後の話だから、40歳以降の生活を考えればその倍は必要なのか...?いやいや、無理でしょ!絶対に無理!!!かといって就職する気にはなれない。

そんな悶々とした悩みを解消するための本を、実は前々から探していた。だけども「書く技術」「ライターで◎万円稼ぐには」といった本はたくさんあるのに、「長く続ける戦略」や「書く仕事でそこそこ軌道にのった後のスキルアップ」など、つまり生き残り戦術的なことが書かれた本はなかった。少なくとも私は見つけることができなかった。

そんな時、憧れる作家さんのひとり佐藤友美(さとゆみ)さんが、まさに求めていたそのままの本を上梓された。

本の表紙のボディコピーを見て「これだ!」と思った。

この本は、文章術の本ではありません。
この本を読めば、みるみる文章力がついたりもしません。
(中略)けれどもこれから書く仕事がしたいと考えたり、長く物書きとして生計を立てていきたいと思うなら、お役に立てる部分があると思います。

私は長く物書きとして生計を立てたい。そのために積むべきキャリアと、歩む道のりを知りたい。どんな可能性があるのか知りたい。というか今できる努力を全部したい!体力があるうちに!

体内に蓄積された焦りが、本を手にした瞬間爆発した。この本からすべてを吸収したい!!


で、案の定、凄かった。ページをめくればめくるほどに「そう!こんな本が読みたかった!!!」と大興奮なのだ。私は遅読なので、あんまり1日で本を読み切ることはないのだけれど、こればっかりは寝食わすれて夢中になり、あっさり1日で読み尽くしてしまった。

とにかく、これでもかってほど使える技術が山盛り。宝の山とはこの本のことである。今すぐ実践できるものから未来につながるもの、今が膨らむものまで、物書きとして生き抜くための「今と未来」がぎっしり詰まっている。

即・活用しようと思ったテクニックや考え方をざっと洗い出してみたけど、こんなにあった。

・書き続けるために心がけること
・コン・テキストのためのトレーニング
・平均点以上になる「わかりやすい文章の心得」
・取材原稿が散乱しない工夫
・「なんでもやります」よりもやりたいジャンルを伝える
・出戻りを減らすためのインタビュー後のすり合わせ
・「どうしてもできない弱み」にその人の強い個性が出やすい
・媒体の相場感を知る方法
・取材相手に信頼される方法
・企画の切り口
・増えてきた仕事でパニクらない秘訣
・稼ぎを増やす秘訣
・コラムやエッセイなど、できることを増やす方法
・リピートされる(次に繋げる)秘訣
・喋り続けるインタビュイーの話を遮る方法
・面白い文章のための視点と視座

特に私は今後、コラムやエッセイの仕事もしたいという野望をもっていたので、仕事の幅を広げる方法について、かなり参考になった。

ちなみに私がやっていた努力と言えば、今年エッセイ賞に数件応募することなのだけど、先日、社団法人日本勤労青少年団体協議会が主催する、第34回「働くってなんだろう」エッセイで最高賞の「厚生労働大臣賞」を受賞しました!(筆名は新姓の「山本」です)


あと、日々心がけたい大事なマインドについてもたくさんの学びがあった。たとえば、常々どう向き合っていけばいいのだろう、どう考えればいいのだろうと頭を抱えていた下記の問題について。

・どこまで相手の言葉を解釈(意訳)していいのだろう問題
・赤字がほぼ入らない原稿はいい原稿なのか?問題
・原稿を書くということはどういうことか(たまにわからなくなる)
・ボリューミーな原稿、着手が億劫問題

それぞれのアンサーについてはぜひ本を読んでみて欲しいのだけど、一番勉強になったのは「悪い点を言われやすい人になる」ことについて。

誰だって自分の悪いところを聞くのは怖い。だからつい褒められたり、赤字がない原稿に関しては「要望を満たすことができたんだ」で完結させたくなるのだけれど、さとゆみさんは仕事が終わるたびに「私の原稿や仕事の運び方で、もう少し意識したほうがいいところがあったら、教えていただけますか?」と聞くらしい。ひえ〜凄い!!!

しかも「ない」と言われても「いや、強いて言えば。強いて言えばどうですか?」と食い下がるという。いや、凄すぎる。ただでさえライターは赤字や締切など、日々メンタルを削られているのだ。そこからさらに自らメンタルを削りにいくこの行為。さすがにこれは真似できないと思った瞬間、そうする理由を読んで「いや、だめだ。真似しよう」と心に決めた。

その理由は「気になることを伝えるのに、心理的なハードルが下がること」「普段人は言うほどでもないと多くの違和感を言い逃している」こと。

ハッとした。つまり普段言えない言葉=普段ライターが聞くことができない些細なやりづらさであり、それを知ることはライバルとの差別化や、より高みに行くための近道なのではないだろうか。しかもこんな傷つくこと、あんまり人はやらない。これこそ、一番実践すべき教えだと心を改めた。

そういえば昔、どえらいお金持ちの方に「お金を稼ぐ秘訣はなんですか」と尋ねたとき「みんながやりたがらないことをやることだ」と教えられた。それはつまり、こういうことなのかもしれない。


読んでいて嬉しかったこともあった。改めて、自分は書く仕事を一生やりたいんだなぁと気づけたこと。

特にここ、感動して2度ほど復唱した。

書くときは、人の話に注意深く耳を傾けます。言葉のひだとひだの間に指をつっこんで、その間を慎重になぞりながら、その人が伝えたかったことは何だったのかを探っています。ひとつ経験が増えるたびに、ひとつ理解できる感情も増えるし、書ける言葉も増えます。それが私にとっての「生活」です。

そうだ。私も仕事を通して自分がひとつ成長する感覚と、それによって理解や言葉が変わっていくことが嬉しいんだった。長年、なんの仕事をしてもスーパー公私混同人間で、それの何が悪い、と開き直っていたけれど、私もちゃんとこんな風に言語化するべきだったな。

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付箋びっしり(笑)
編集者としても学ぶことが多くて、後輩の新人ライターにもプレゼントしたいなと思った本当に幅の広い本だったな。きっと来年、再来年でまた学びが変わってくるはず。折に触れて読み返したい。

最後に、すんごく素敵な言葉が引用されていたのでその言葉をもって本の紹介を終えようと思う。

過去が咲いている今、未来の蕾で一杯な今。(河井寛次郎)


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