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オードリー若林が引き出す小説家のおもしろさ。「ご本、出しときますね?」

インタビューの勉強として観ている番組がある。「あちこちオードリー」だ。

というのも台本や方針がある中で人に質問するって、実はめちゃくちゃに難しい。私はインタビューが大の苦手で、ほぼ毎回インタビュー後は録音テープを聞きながら「なんでここ深堀りしなかったの」「聞き方....!」などとひとり反省会状態になっている。

テンポよく聞くべきことを聞き、聞かないべきことを排除し、随時適切な相槌と反復をし、時間内におさめる。このなんと難しいことか。

そんな「聞く力」というジャンルにおいて、オードリー若林さんは理想だなと思う。ひとりの人間をあらゆる角度から観察し、見えた景色を過不足なくみんなに伝えようとしてる感じがある。だから「あちこちオードリー」を観た後は、多少なさけない一面が見えたとしても、ゲストのことをすこし好きになることが多いのだ。

なので私は普段から若林さんの対談本は買うようにしていて、中でも「なんでこの本の存在を今知ったんだろう」と疑問に思ったほどの一冊に最近出会った。それがこちら。「ご本、出しときますね?」

本は実際にBSジャパンで放送された番組を一冊にまとめたものらしく、テレビ東京の佐久間ディレクターに若林さんが「小説家とのトーク番組やれますかね?」と打診し、実現した企画らしい。佐久間ディレクターと言えばあちこちオードリーを作った人。しかも若林さん対談モノ、さらに小説家との対談。そんなの絶対に絶対に、おもしろいに決まってるやんけ。

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というわけで見つけた瞬間、即買った(カバーの中身が好みで、即カバーを外した)。内容は、若林さんをMCに、小説家2名を毎回ゲストとして招き、対談するというものだ。

そして案の定、届いたその日からあまりにハマりすぎて、寝不足になったり夫との約束を破ってしまったり、もうやばかった。(あまりにニヤニヤしながら本を読んでいたから夫は許してくれた)

小説のおもしろさは人によってさまざまだと思うけど、私は人間というものの描写や捉え方にとても興味があるので、まったくもって架空の世界で生きる、ひとりひとりの人間を作り出してしまう小説家って本当にすごい仕事だと思う。そしてやっぱり読めば読むほどに、小説家が捉える世界、そして人はおもしろかった。

もしかしたらマニアックなおもしろがり方かもしれないけど、たとえば「コンビニ人間」でおなじみの村田沙耶香さんが、週3でコンビニバイトしている話がすごく好きだ。小説の研究とかではなくて、真剣にコンビニのバイトをしているのだそうで、コンビニバイトに対するプロ意識について語るシーンは、あの猟奇的な小説からはイメージしづらい、可愛らしい女の子をイメージした。

あと、小説を書く時の原動力を聞かれたとき「私は喜びで書いてます」と言った村田さんに対し、若林さんと加藤千恵さんが絶句するシーンとか、ひとりで「嘘でしょ〜」とつぶやきながら肩を震わせて笑った。きっと村田さんの小説を読んだことがある人は「喜び?嘘でしょw」って感覚、わかっていただけると思う。

ちなみに私は「この人めっちゃ変わってる〜おもしろすぎる... 」という感覚がとても好きなのである。

あと、企画の一部としてそれぞれの小説家のマイルールを聞くというシーンがあるのだけど、それは大変勉強になった。

たとえば浅井リョウさんの「”身を削った者が強い”と言う人を信用しない」「安易に弱者の味方をしない」、島本理生さんの「嫌いなものの批評はしない」、若林さんの「今日わかってもらおうとしない」、西加奈子さんの「”誰かを傷つけている”と自覚して書く」など。

ほかにもたくさんあるけど、中でもここに書いたものは読了から3ヶ月経った今も私の中にずっととどまっている言葉であり、自分のマイルールにちゃっかり取り込んでいる。

あとやっぱり、案の定若林さんがその人のおもしろいところをズルッと引き出してくれるから、読みたくなるんだよね。その人の小説を。本の中では各対談ごとに「おすすめの小説」が紹介されるのだけど、それらよりも俄然、その人たちの本が気になっちゃって、ちょこちょこ買い揃えている。

読了後、読んだのはこの2冊。

ちょうどファーストラブは昨日読み終えたばかりで、もうめちゃくちゃ心揺さぶられてしまった。

臨床心理士が父親を殺した容疑で逮捕された女の子に向き合って、真実を掘り起こしていく話なのだけど、「女の子のまわりにはいつだって偽物の神様がたくさんいる」という台詞との出会いは私にとって大きかった。偽物の神様を選ばなくなった私は、どこかのタイミングで孤独を乗り越えたのかもしれない。とにかくこの小説、今年イチ好き。映画も観ようと思う。


ーと、だいぶ脱線してしまったけど、とにかく小説家その人自身のおもしろさ、素敵さ、など人となりから、あの物語が書けてしまう器量はどこからくるのか、マイルールなどのためになる話、ほかの小説家に嫉妬するか、編集者に相談するかなど生々しい業界の話など、若林さんがモリモリ引き出し、モリモリ盛り上げてくれるので、とにかく小説好きの方や次になにを読もうか迷っている人はぜひ読んで!と叫びたい一冊でした。

最後に、メンツだけ書き揃えて終わります。

第一回:浅井リョウ✕西加奈子
第二回:長嶋有✕西加奈子
第三回:浅井リョウ✕長嶋有
第四回:加藤千恵✕村田沙耶香
第五回:平野啓一郎✕山崎ナオコーラ
第六回:佐藤友哉✕島本理生
第七回:羽田圭介✕藤沢周
第八回:海猫沢めろん✕白岩玄
第九回:中村航✕中村文則
第十回:窪美澄✕柴崎友香
第十一回、第十二回:角田光代✕西加奈子
特別鼎談:尾崎世界観✕光浦靖子



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