見出し画像

【東京大学2020年度前期入試数学(理系)第6問】誘導問題が美しい!

さて、2020年度前期入試数学(理系)の最後の問題、ボスの登場です。笑

いつも誘導問題にはケチをつけている私ですが、この問題は誘導問題のあるべき姿を示しています。すごく練られたいい問題だと思います。

画像1

東京大学安田講堂
2016年12月24日、 Kakidai撮影、Wikipediaより

[問題] 以下の問いに答えよ。
(1) A, α を実数とする。θ の方程式
       A sin 2θ - sin(θ + α) = 0
を考える。A > 1 のとき,この方程式は 0 ≦ θ < 2π の範囲に少なくとも 4 個の解を持つことを示せ。
(2) 座標平面上の楕円
       C: x^2/2 + y^2 = 1
を考える。また,0 < r < 1 を満たす実数 r に対して,不等式
        2x^2 + y^2 < r^2
が表す領域を D とする。D 内のすべての点 P が以下の条件を満たすような実数 r (0 < r < 1) が存在することを示せ。また,そのような r の最大値を求めよ。
 条件:C 上の点 Q で,Q における C の接線と直線 PQ が直交するようなものが少なくとも 4 個ある。

この問題はさすがに直感が働きません。(1) が (2) の誘導問題になっているとは思いますが、初見ではどう使うかアイデアがありません。

この段階でこの問題が6問の中で一番難しいと感じています。

もっとも、前の5問について基本的にすぐに食いついて大丈夫な問題ばかりで、実際に簡単に解けたので、残り時間をこの問題に費やす態勢はできています。残り時間と問題の難易度(もしくは相性)との勝負です。

受験の鉄則通りに私も基本的にはすべての問題を見てから解く順番を決めますが、明らかに易しい問題はすぐに手を付けます。極端ですが、x の二次方程式 x^2 + 5x + 6 = 0 を解け、と言われてすぐに解かないのはあり得ない。それと同じです。
逆に、明らかに難しい問題は基本的に捨てます。付き合うだけ時間の無駄。
結局、順番を決める必要があるのはそこそこの難易度の問題だけです。ただし、見た目判断と実際にギャップがあることもあるので、対応は柔軟です。

さて解答は始めてみますが、(1) は最初に A sin 2θ をグラフに書いてみました。そうすると、実に単純な話だと分かります。

sin 2θ は π/2 ごとに値が -1 と 1 の間を動くので、-1 ≦ sin(θ + α) ≦ 1 である sin(θ + α) とはかならずどこかで同じ値を取ります。であれば、2π の間に 4 回同じ値を取るのは当たり前、 という訳です。

以上を踏まえて

f(θ) = A sin 2θ - sin(θ + α)

とおきます。f はもちろん連続関数です。

任意の θ に対して f(θ + 2π) = A sin 2(θ + 2π) - sin(θ + 2π + α) = A sin 2θ - sin(θ + α) = f(θ) なので、0 ≦ θ < 2π における f(θ) = 0 の解 θ の個数と π/4 ≦ θ < 9π/4 における f(θ) = 0 の解 θ の個数は一緒です。

地味ですがこの一手は時間節約に役立ちます。

(代ゼミの解答ではf(0) = f(2π) の正負で場合分けしていましたが、この一手を使った方が証明が簡潔できれいです。)

ですので、π/4 ≦ θ < 9π/4 における f(θ) = 0 の解 θ の個数について考えます。-1 ≦ sin(θ + α) ≦ 1 かつ A > 1 に注意すると、

・f(π/4) = A - sin(π/4 + α) > 0
・f(3π/4) = -A - sin(3π/4 + α) < 0
・f(5π/4) = A - sin(5π/4 + α) > 0
・f(7π/4) = -A - sin(7π/4 + α) < 0
・f(9π/4) = A - sin(9π/4 + α) > 0

であるので、f(θ) = 0 を満たす θ が π/4 < θ < 3π/4 に少なくとも1つ、3π/4 < θ < 5π/4 に少なくとも1つ、5π/4 < θ < 7π/4 に少なくとも1つ、7π/4 < θ < 9π/4 に少なくとも1つ存在する。すなわち、π/4 < θ < 9π/4 に少なくとも4つの解 θ が存在します。

よって、A sin 2θ = sin(θ + α) を満たす θ が π/4 < θ < 9π/4 すわなち 0 < θ < 2π に少なくとも4個存在します。

(2) のために、P(X, Y) とおき、C 上の点Qを (√2 cos θ, sin θ) とおきます。楕円上の点を三角関数を使って表現するのは基本です。

P を (X, Y) として、Q を θ を使って表現している理由は、P の方は必要があれば Q と同じように表現するつもりで、必要がない間は (X, Y) の方がいいだろうという判断、Q の方は (1) とつながるに違いないという予想で角度にあえて θ を使って表現しました。

Q における C の接線の方程式は (cos θ/√2) x + (sin θ) y = 1 であるので、法線ベクトルは (cos θ/√2, sin θ) となります。

また、ベクトルPQ は (√2 cos θ - X, sin θ - Y) であり、これが先ほどの法線ベクトルに平行であるので、(√2 cos θ - X) sin θ = (sin θ - Y) cos θ/√2 が成立します。

この式を整理すると sin θ cos θ = √2 X sin θ - Y cos θ が得られ、sin 2θ = 2 sin θ cos θ であるので、

sin 2θ = 2√2 X sin θ - 2Y cos θ   (E)

が導かれます。この時点で (1) が使えるにおいがプンプンします。笑

ここで、B^2 = (2√2 X)^2 + (2Y)^2 = 4(2X^2 + Y^2) とおきます。ただし、B > 0 とします。すると (2√2 X /B)^2 + (2Y/B)^2 = 1 となります。

(B = 0 すなわち X = 0 かつ Y = 0 のときは後で説明します。)

このとき、式 (E) の両辺を B で割ると (1/B) sin 2θ = (2√2/B) sin θ - (2Y/B) cos θ となりますが、A = 1/B, cos α = 2√2/B, sin α = -2Y/B とおくと、A sin 2θ = sin(θ + α) が得られるので、A > 1 のとき、すなわち、B < 1 のときに 式(E) を満たす θ が 0 ≦ θ < 2π の範囲で少なくとも4個存在することになります。

ちなみに、B = 0 についても確認しておくと、このときには X = 0 かつ Y = 0 となるので、これを式 (E) に代入すると、sin 2θ = 0 となります。これは θ = 0, π/2, π, 3π/2 の4個の解をもつので条件を満たします。

ということで、B = 0 の場合も含めて、点 P(X, Y) が B < 1 を満たすならば問題の条件を満たすことを意味します。(θの個数は点Qの個数に対応するため。)

したがって、B^2 = (2√2 X)^2 + (2Y)^2 = 4(2X^2 + Y^2) < 1 は 2X^2 + Y^2 < (1/2)^2 と変形できるので、r ≦ 1/2 であるときに問題の条件を満たすことになります。

ここで注意したいのは r ≦ 1/2 はあくまで十分条件だということです。

ですので、r の最大値が 1/2 であることを示すために、2X^2 + Y^2 = 1/4 を満たす (X, Y) で問題の条件を満たさない点が存在することを示します。(再度、X と Y を使ってすいません。)

この場合、r > 1/2 を満たす任意の r について (X, Y) が 2X^2 + Y^2 < r^2 を満たすため、r の最大値が 1/2 であることが証明できたことになります。

(X, Y) = (1/4, -√2/4) とします。このとき、2X^2 + Y^2 = 2/16 + 2/16 = 4/16 = 1/4 となります。

式(E) の X, Y に代入すると sin 2θ = (1/√2) sin θ + (1/√2) cos θ = sin (θ + π/4) となります。ここで、g(θ) = sin 2θ - sin(θ + π/4) とおくと、

g(θ) = 2 cos( (3/2)θ + (π/8) ) sin( (1/2)θ - (π/8) ) 

となりますが、0 ≦ θ < 2π の範囲で g(θ) = 0 となる θ を求めると

・π/8 ≦ (3/2)θ + (π/8) < (25/8)π
・-π/8 ≦ (1/2)θ - (π/8) < (7/8)π

なので、(3/2)θ + (π/8) = π/2, 3π/2, 5π/2 と (1/2)θ - (π/8) = 0 が出てきます。これを解くと、θ = π/4, 11π/12, 19π/12 の3つしか存在しない!

以上のことから問題の条件を満たす r の最大値は 1/2 になります。[解答終]

さて、最後の r の最大性を示すために (X, Y) = (1/4, -√2/4) が突然登場していますが、これについて説明しておきます。

実は sin 2θ = sin(θ + α) の解 θ が 3つしかないような α を先に探しています。そのため、y = sin 2x のグラフを描いて、y = sin x を平行移動させたときの状況を観察して α = π/4 を割り出しています。

そこから出てきたのが  (X, Y) = (1/4, -√2/4) です。解答とは逆順で求めています。

実際に y = sin 2x と y = sin(x + π/4) を描くとこんな感じになります。

画像2

α は他の値でもよく、sin 2θ = 1 である θ に対して sin(θ + α) = 1 になる、もしくは、sin 2θ = -1 である θ に対して sin(θ + α) = -1 になるような α であれば大丈夫だと思います。

この問題は考え方そのものはさほど難しくはないですが、処理する能力の高さ・速さが問われます。テクニカルです。

また、(2) は前半部分だけで安心してしまい、r の最大性の証明を忘れる可能性があります。

示せるかどうかはともかく、r の最大性の証明のために何をしなければならないかを書いたか書かなかったかで点数はかなり違うと思います。

少なくとも私ならそうします。論理を分かっているかいないかの差は大きい。

2時間半で6問ということを考えるとこの問題は解くには時間が足りないかもしれません。その点も含めて、この問題は難しいと思います。

にしても、この誘導問題 (1) は秀逸です。これがないと (2) を解くのは厳しいですし、これがあってもなお展開を読むのが難しい。よく練られた問題だと感服いたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?