見出し画像

特集:無理数の証明

今回は先日見かけた以下のツイートに関連して無理数であることの証明を集めてみました。

オリジナルの無理数 … あまりいいものが思い浮かびませんね。それについてはゆっくり考えてみます。今回はあくまで無理数の証明のみということで。

まずは基本:√2が無理数であることの証明

√2 = 1.41421356... が有理数であると仮定すると、互いに素である2つの自然数m, nを用いて √2 = m/n と表すことができる。このとき、m^2 = 2n^2 となり、m が奇数とはなりえないので、m = 2M (M は自然数) として表現できる。これを代入すると n^2 = 2M^2 と表現できるので、n = 2N (N は自然数) と表現でき、m, n が互いに素であることに反する。よって、√2 は無理数である。

同じ証明で √3 が無理数であることも証明できます。

次も基本:log_{10} 2 が無理数であることの証明

log_{10} 2 = 0.3010... が有理数であると仮定すると、互いに素である2つの自然数m, nを用いて log_{10} 2 = m/n (<1) と表すことができる。このとき、2^{n} = 10^{m} すなわち、2^{n-m} = 5^{m} となりますが、2 と 5 は互いに素であり、n-m と m は自然数であることから矛盾である。よって、log_{10} 2 は無理数である。

京都大学2006年度後期入試:tan 1°が無理数であることの証明

[問題] tan 1°は有理数か.

[解答] 答えは無理数。証明は次の通り。

tan 1° が有理数であると仮定する。このとき、1° ≦ θ < 89° に対して

tan (θ + 1°) = (tan θ + tan 1°)/(1 - tan θ tan 1°)

であるので、数学的帰納法により 89° 以下の任意の正の整数の角度 φ に対して tan φ は有理数である。しかしながら、tan 60° = √3 は無理数であるので、これは矛盾である。よって、tan 1° は無理数である。

[感想] この問題は難しくはないけど、見た瞬間に固まる受験生が多く出そうな、京大らしい問題だと思います。名古屋大学なんかもこういう問題が好きかもしれません。

大阪大学1997年度後期入試:eが無理数であることの証明

[問題] 自然数 n に対して、関数 f_n(x) = x^{n} e^{1-x} と、その定積分 a(n) = ∫_{0}^{1} f_n(x) dx を考える。ただし、 e は自然対数の底である。次の問いに答えよ。
(1) 区間 0 ≦ x ≦ 1 上で 0 ≦ fn ( x ) ≦ 1 であることを示し、さらに 0 < a(n) < 1 が成り立つことを示せ。
(2) a(1) を求めよ。 n > 1 に対して a(n) と a(n-1) の間の漸化式を求めよ。
(3) 自然数 n に対して、等式
      a(n)/n! = e - { 1 + (1/1!) + (1/2!) + … + (1/n!) }
が成り立つことを証明せよ。
(4) いかなる自然数 n に対しても、 n! e は整数とならないことを示せ。

(4) で分かるように、この問題は e が無理数であることの証明を与えています。

[解答] (1) はひとまずf_n(x) を微分してみましょう。0 ≦ x ≦ 1 ≦ n に対して

画像1

であるので、f_n(x) は増加関数であり、f_n(0) = 0 かつ f_n(1) = 1 であるので、0 ≦ f_n(x) ≦ 1 が成立する。

また、f_n(x) は定数関数でないことから、

画像2

が成り立つ。

(2) は

画像3

でおしまい。

(3) は数学的帰納法で行きましょう。n=1のときは

画像4

より成立。n=kのとき成立すると仮定すると、

画像5

 であるので n=k+1 のときにも成立することから、すべての自然数 n に対して成立する。

(4) は (3) を見れば簡単です。(3) の式の両辺を n! 倍して変形すると、

n! e = {1 + (1/1!) + (1/2!) + … + (1/n!) } × n! + a(n)

となるが、この式の右辺の第1項は整数、第2項は 0 < a(n) < 1 であるため、n! e は整数とはならない。

[感想] この問題は誘導に乗ればいいだけなので簡単ですが、e が無理数である証明として非常にスマートです。

大阪大学2003年度後期入試:πが無理数であることの証明

[問題] πを円周率とする.次の積分について考える.
 I(n) = π^{n+1}/n! ∫_{0}^{1} t^{n}(1-t)^{n} sin πt dt  (n=0,1,...)
(1) n が自然数であるとき,不等式
 1 + (x/1!) + (x^{2}/2!) + … + (x^{n}\n!) < e^{x}  (x>0)
が成立することを数学的帰納法により示せ.これを用いて,不等式
 I(0) + u I(1) + u^{2} I(2) + … + u^{n} I(n) < π e^{πu}  (u>0)
が成立することを示せ.
(2) I(0), I(1) の値を求めよ.また,漸化式
 I(n+1) = {(4n+2)/π} I(n) - I(n-1)  (n=1,2,...)
が成り立つことを示せ.
(3) π が無理数であることを背理法により証明しよう.
πが無理数ではないとし,正の整数 p, q によって π = p/q として表されると仮定する.A(n) = p^{n} I(n) とおくとき,A(0), A(1), A(2), ... は正の整数になることを示せ.さらにこれから矛盾を導け.
(注) 問題文の I はアイなのですが、以下では間違えてエルで書いてしまっています。

[解答] (1) は まず

画像6

を証明しましょう。見当がつきますよね?

n=0 のとき、f_{0}(x) = 1 < e^{x} (x>0) であるので成り立つ。

n=k のときに不等式 f{k}(x) < e^{x} が成立すると仮定する。このとき、

画像7

であり、f_{k+1}(0) - e^{0} = 0 であるので、x > 0 に対して f_{k+1}(x) - e^{x} > 0 すなわち f_{k+1}(x) > e^{x} である。

以上のことから数学的帰納法より f_{n}(x) > e^{x} が成り立つ。

画像8

とおくと,0 ≦ t ≦ 1 に対して 0 ≦ g_{n}(t) ≦ 1 かつ g_{n}(t) は定数関数ではないので,

画像9

が成立する。したがって、u > 0 のとき

画像10

が成り立つ。最後の不等式はfn(x) < e^{x} に x = πu を代入することで成立する。

(2) は単純に積分計算。

画像11

さらに、

画像12

である。

(3) は A(0) = p^{0} I(0) = 2 かつ A(1) = p^{1} I(1) = 4q より A(0), A(1) は整数である。

A(n+1) = p^{n+1} I(n+1) = (4n+2)q × p^{n} I(n) - p^{2} × p^{n-1} I(n-1) = (4n+2)q A(n) - p^{2} A(n-1) であるので、A(n-1)とA(n)が整数であるとき A(n+1) も整数である。

以上のことから、数学的帰納法によりすべての非負整数 n に対して A(n) は整数である。また、(1)より I(n) は正であるので、A(n) は正の整数である。

さて、(1) の式に u=p を代入すると、
 A(0) + A(1) + A(2) + … + A(n) < π e^{πp}
が得られるが、この式の右辺は定数であることに注意されたい。しかしながら、A(0), A(1), ... は正の整数であるため、n → +∞ のとき左辺は +∞ に発散する。これは矛盾である。

よって、π は無理数である。

[感想] この問題も誘導に沿って解いていけばさほど難しくはありません。

それより、テキストで積分式を書くのは苦痛ですし、読む側も苦痛ですね。これについては後日修正したいと思います。

あとがき

ざっと思いつくままに無理数に関連した話題を集めてみましたが、大阪大学で円周率 π とネイピア数 e の両方の無理数の証明を出題しているのは興味深いです。

また、京都大学で tan 1° が無理数であることを証明させたり、西の方はこういう問題が好きなのでしょうか?個人的に、北大、東大、東工大にこの手の問題を出すイメージはありません。(東北大については断定するほど研究しておりません。ごめんなさい。)

証明は数学の(簡単という意味ではなく、土台という意味での)基礎なので、無理数の証明に限らず、いろんな証明問題を解いてみることをお勧めします。

今回のnoteがそのきっかけになっていただければ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?