夢沢那智

家族が生き甲斐。詩、短歌、俳句。たまに活字化。奥さんのペペロンチーニが大好き。マイク・…

夢沢那智

家族が生き甲斐。詩、短歌、俳句。たまに活字化。奥さんのペペロンチーニが大好き。マイク・オールドフィールド、萩尾望都、NSP、KISS、つげ義春、山頭火、大藪春彦、森見登美彦、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、氷菓、よりもい、夏目友人帳、裏世界ピクニック、水曜どうでしょう。

最近の記事

「しとたんかとはいく」感想

2023年の秋に発行された「しとたんかとはいく」という、文字通り詩と短歌と俳句のアンソロジーに参加させていただきました。遅くなりましたが収録作品について個人的な感想を書いてみたいと思います。いいですか、あくまでも「個人的な感想」です。「的外れ」とか「しょぼい」とか言わないように。押すなよ! 絶対に押すなよ!! ちなみに各作品はタイトルの通り詩、短歌、俳句の順に収録されています。なお文中は敬称略です。 ★詩★ しせいそうせし「私が見たのは景色だった」 父親の自殺について書

    • 南日本新聞社「2020年新春文芸」入選作

      タイトルの通り、私は南日本新聞社による「2020年新春文芸」において詩と短歌の部門で共に一席(一等賞)に選ばれました。それまでも何度か応募して短歌が三席に入ったりしてはいたんですが、複数の部門でダブル一席という結果には自分でもびっくりしました。ちなみに賞金は詩が7万円で短歌が5万円です。南日本新聞社の、鹿児島の文芸を保護し育成したいという意気込みが感じられる金額だと思います。実際、創作の努力や熱意が「お金」という具体的な形で評価されるというのは大変な励みになるんですよ。そして

      • 原島里枝・椿美砂子の二人誌「milli」感想

        【はじめに】 詩人の原島里枝さんから、椿美砂子さんとの二人誌「milli」(ミリ)を送っていただきました。どちらも実力と実績のある詩人さんです。誌名の「milli」はラテン語の「千」であり、様々な単位の基本である「ミリ」、そして椿美砂子氏の「ミ」に原島里枝氏の「リ」といった複数の意味があるようです。言葉に様々な意味を持たせる詩というジャンルに相応しい言葉と言えますね。以下に、簡単ではありますが読んだ感想を書いてみたいと思います。以下、敬称については省略させていただきます。

        • 滝本政博詩集「エンプティチェア」感想

          先日、詩人の滝本政博さんから詩集「エンプティチェア」を送っていただきました。お世辞でも何でもなく滝本さんは私にとって好みの詩を書く詩人の1人であり、初めての詩集である「エンプティチェア」の収録作品も素晴らしいものばかりでした。それらの中でも特に私の心を刺激してくれたいくつかの詩について、感想のようなものを書いてみたいと思います。批評ではなく感想ですので見当違いなことを言っているかも知れませんが、どうかご容赦ください。なお収録順に取りあげています。 「エンプティチェア」 詩

        「しとたんかとはいく」感想

          「3日で書け!」の全作品にコメントしてみた

          私は自分が参加した詩誌や同人誌に関しては、必ず他の方の作品にも目を通します。「当たり前だろ」という方もいるでしょうが、実際にすべての詩人さんがそうしているかどうか、私は疑問です。それはともかく、今回は過去最多の85名という参加者なので一言コメントみたいな感じで全作品の感想を書いてみますよ。まあ昔から「読めない書けない」とか言われてきた私ですから、あまり期待はしないように。もちろん自分の作品に関するコメントが一番長いけどな! それから元がPDFファイルでテキスト化するツールを

          「3日で書け!」の全作品にコメントしてみた

          詩「幸せな二つの影」(「詩とメルヘン」初入選作品)

          「幸せな二つの影」 琥珀色の夕陽が 地平線に溶ける時刻 公園のベンチで本を読む老女は 黄色い銀杏の葉が しおりのようにページに落ちると 微笑みながら本を閉じた 一日の終わりに 愛する人は、いないけれど 気ままに遊んでいた仔犬が 弾丸のように飛んでくる 彼女は、ゆっくりと 黄昏の中へ歩き出す 仔犬はシッポをふりながら 彼女の周りをグルグル回る ベンチを見下ろす銀杏の樹が 幸せな二つの影を見送った ※「詩とメルヘン」2001年11月号掲載(イラスト・藤田夏代子) やな

          詩「幸せな二つの影」(「詩とメルヘン」初入選作品)

          「文学極道」最後の日々

          【はじめに】 以前から文学極道の最後の時期について書き記しておこうと思っていたしTwitterでも予告はしていたんですが、新型コロナウイルスをはじめ公私共に次から次へ厄介事が持ち上がりなかなか手をつけられずにいました。それでも暇を見つけては少しずつ書き進めて、ようやく作業を終えることができました。 最初に断っておきますが私がこのことについて書くのは客観的に「文学極道が閉鎖されるまでの約2年半の間に何があったのか」を記録しておくためです。多くの方々からこの点について質問され

          「文学極道」最後の日々

          詩「そこは死者の国」

          ねえ、決して届かないものばかり ほしくなるのは何でだろうね 掴んだ途端に消えるものばかり 好きになるのは何でだろうね いつだって目の前でバスが出る 眠りの向こうは無味無臭の現実 叱られて泣きながら雨の中 子猫を元の場所へ捨てた日に バカみたいな世界線で 自分を切り売りする未来が 見えちゃったんだ 見えちゃったんだよ 神様に包まれるなんて 問題外の門外漢 それが、それが、それが、アタシ 「泣いてるの?」 「泣いてないよ。むしろ笑ってる」 「怒ってるの?」 「怒ってないよ。

          詩「そこは死者の国」

          詩「Lean On」

          曇りの日に海へ行った 空も海も灰色なのに 仲介者の努力も虚しく いまだに和解は成立しない その国境線は水平で 欠けた世界の端から端までを 頑なに切り分けようとしている 曖昧だが根深いライン 見せかけの直線への固執 アタシは砂浜に座って ぼんやりとそれを見ている 左横にはアナタがいる 見なくてもそれが分かる だからアタシは狡猾にも 海風に押されたふりをして 左横にいるアナタへ向かい ゆっくりと凭れかかる それに伴い水平のラインも ゆっくりと傾いていく それはアナタの肩で 固定

          詩「Lean On」

          詩「バイオスフィア3」

          いつまでも終わらない夕焼けを スマホ越しに見ている間に 柱時計は腐敗し過去には蛆が湧く 曲がり角の向こうには妄想が潜み 躊躇わない愛という最凶の暴力が 可愛らしい獣の頬袋を満たしていく そんな句読点の位置にも迷う三月 振り返ればいつだって懐かしい青春の屍たち みんなゾンビになる覚悟はあるんだよって 三日でへし折れた初恋の無邪気な笑顔 そこには確かに生命の痕跡があって 観測者は実在しない恋人の面影を連想する 自分で自分を抱きしめると永遠が生まれる その秘密を売り歩く男が半

          詩「バイオスフィア3」

          詩「雨の日」

          雨の中で溶けていく かけがえのない欠片たち 明け方に見た夢が まだ喉の奥につかえている 戦争で濁った空に 震える手をかざしてみる 雨粒が肉を貫いて 決して消えない傷を刻む 大丈夫だよスワイプすれば すべて流れてしまうから 母をなくして泣く子どもも 我が子をなくして泣く母も それでも舌が苦いなら みんなウソだと書き込めばいい 雨は少しずつ強くなる 色が少しずつ赤くなる 残り時間を気にしながら 人々は足早に死へと急ぐ もうすぐ傘は役立たず 心の中までずぶ濡れになる 無関心の代

          詩「雨の日」

          詩「ファミレスの中と外」

          寂しさが窓を叩くファミレスで 僕と恋人は神さまの話をした さらに永遠や海や隠花植物について お互いの意見を交換した やがて寂しさが無知を経て憎悪となり ついには絶え間ない銃声に変わった 僕と恋人は合わせ鏡と歴史について 外の騒音に負けぬ大声で激しく議論した そうやって時間をつぶしたけど 窓の外の殺戮は終わらない そもそも、いつ始まったのかさえ 憶えている者はほとんどいないだろう もしかした僕たちが生まれる前から ずっと続いていたのかも知れない やがて中年のウエイトレスが

          詩「ファミレスの中と外」

          詩「自滅回路」

          女性を蔑み 妊娠や出産や育児を軽視し 一部の貴族たちのために 働く者たちの賃金を減らし 消費や結婚を躊躇わせる 当然の結果として 子どもは減り続け 老人たちは増え続けるが 奴らは巧みに責任を放棄して 老後も介護も自己責任 これからは海外の労働力に 頼るしかないというのに 何を勘違いしているのか 彼らを差別し虐待して そのニュースが世界を巡る 大学の学費は増え続け 教育は庶民から遠ざかり 研究者への金すらケチり この国の唯一の資源である 科学技術力もドブに捨てる 子どもでも

          詩「自滅回路」

          詩「バベル」

          磨りガラスの向こうの公園で 外国人に話しかけられた どうやら、フランス語らしいが 何を言っているのか分からない 家に帰ると母親が叫んでいた ひとつひとつは意味のある言葉 けれど、つなげると耳に入らない 彼女は歌い方を忘れてしまった テレビを付けたら色とりどりの人たち カメラ目線で得意気に囀っている でも、相変わらず理解できない ぼくの方がおかしいのだろうか 病院へ行って医者に話をした 彼は首を傾げてぼくを見ている そして、ようやく口を開くと 様々な動物の声で鳴き始め

          詩「バベル」

          初めて活字になった詩のこと

          『生まれて初めて詩を書いた日』で、小学校低学年の時に初めて書いた詩を母親から鼻で笑われたことを書いた。いやあ、あれはいま思い出しても胸が痛くなる。よく泣かなかったよな。偉いぞ、あの時の私。 当然のことであるが、その出来事の後はずっと詩を書かなかった。まあ元々が学校の宿題だったし、そういう必然性がなければ小学生が詩を書くことなんてほとんどないと思う。私も他の子どもたちと同じように、何か特別なことでも起こらない限りそのまま「詩を書かないし、読みもしない普通の大人」になっていただ

          初めて活字になった詩のこと

          詩「火事の夢」(芸風が決定した作品(芸風て

          午後の眠りから醒めると 薄暗い部屋は雨の匂いがした 曖昧な火事の夢から ようやく解放された私は 庭先で鳴いている茶色い猫が かつての恋人であることを思い出した 花の名前を忘れて 風の色を忘れて 水の味を忘れて あなたの温度を忘れて 私は人になった 曖昧な火事の夢を見るだけの人になった あなたは今でも 疑り深い猫のままなのに ※「詩の雑誌 midnight press」2001年 No.13掲載 この作品で、私の芸風はほぼ決まったと思っている(だから芸風て 私は頭に

          詩「火事の夢」(芸風が決定した作品(芸風て