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「3日で書け!」の全作品にコメントしてみた

私は自分が参加した詩誌や同人誌に関しては、必ず他の方の作品にも目を通します。「当たり前だろ」という方もいるでしょうが、実際にすべての詩人さんがそうしているかどうか、私は疑問です。それはともかく、今回は過去最多の85名という参加者なので一言コメントみたいな感じで全作品の感想を書いてみますよ。まあ昔から「読めない書けない」とか言われてきた私ですから、あまり期待はしないように。もちろん自分の作品に関するコメントが一番長いけどな!

それから元がPDFファイルでテキスト化するツールを持っていないので、作者名やタイトルに間違いがあるかも知れません。見つけた方は御本人でなくても良いのでTwitterのアカウントへDMをお願いします。まさかさすがにないとは思いますが「おいおい自分の作品がないんですけど」という方も絶対に教えてくださいね。あと作者名は敬称略とさせていただきました。それから前述の理由で作者名とかタイトルは手書き&コピペなのでTwitterのIDまでは手が回りませんでした。すまぬ。最後に。この「3日で書け!」に興味を持った方はぜひ御購入ください。渡辺八畳氏(@yoinoyoi)のBOOTHで購入できます。よろしくお願いいたします。
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それではどうぞ!


星野灯「冬が来るのに私はまだ」

繋ぎ方ひとつ間違えただけで、私のものでなくなってしまう「言葉」というものの危うさ。作品自体が内容に沿った構造になっていて視覚的にも不安定さを実感できるのが面白いですね。あと一等賞おめでとうございます!

械冬弱虫「合体」

短歌です。全体的にユーモラスなものが多く中には際どい表現もあります。「喪女ですがラブストーリーは突然にあるわけないだろアロンアルファか」みたいなの特に好き。そして最後に「接着剤トップコートより心地よいにおいないけど春は来たっけ」という印象的な作品で締めるあたり「慣れてますね」という感じ(何がだ

椿美砂子「共犯」

何というか歴戦の勇者の貫禄がありますね。「瞬間接着剤」って詩の中に入れるのが難しい単語だと思うんですが、それを良質な現代詩の中へ無理なくはめ込んでいる。「瞬間接着剤」というものの特製も含めて男女の罪深さと柔らかな絶望を美しく表現していると思います。

川嶋ゆーじ「心音、響けり」

恋する者たちの「ドキがムネムネ」な感じをテーマにして「瞬間接着剤」という素材を自然に組み込んでいます。これがなかなか難しい。作者の技量を感じさせます。

小林素顔「恋」

今回のテーマ「瞬間接着剤」を男女の関係と絡める作品はたくさんあって、まあ私もそっち方向なんですけどやっぱりベタだけど王道ですよね。この作品なんてタイトルがそのまんまという感じの「恋」ですから。そしてベタなテーマをきちんと詩として成立させるだけの力量を秘めた内容だと思います。この辺は第二連だけで分かるんじゃないかな。

よしおかさくら「取れない」

マザーグース的な恐ろしさを感じさせる作品。テーマを「眠さをくっつけてしまった」という形で処理したかと思うと、少しずつ変容していく流れの中でストレートに出してきたりする。短い内容だが展開が早く目が離せない。最終行のドレンチェリーが強い印象を残す。上手いですね。

紳野美紀「初めての身に、重い夜を」

「皇帝」という言葉が使われているので帝王切開をテーマにした作品かなと思いつつ、処女喪失の体験も絡めているような気もします(「気もします」っておい)。「腹を傷つけてはならぬぞ」というフレーズは「ヴェニスの商人」を連想しました。最終連が目覚めたとき特有の、微かで正体不明の喪失感を残していきます。

柿沼オヘロ「てんせん」

一読して詩人としての技術の高さを感じました。平仮名と漢字の使い分けも不自然さや無駄が無い。「ひとつだけ度数の高い/せきばらいをした」あたりは谷川俊太郎の「二十億光年の孤独」を連想したり。最終連の締め方も見事です。

久遠恭子「指先が奏でるセレナーデ」

この作品も「瞬間接着剤と恋愛」という構造なんですが、安易な形で終わっていないのはさすがです。「辟易としながらも/もつれる糸」とか、恋愛沙汰に慣れすぎてちょっと疲れちゃってそれでも離れられないどうしようもなさとかが感じられます。最終連の諦念も良い。

げんなり「怪奇、瞬間接着剤人間の溶暗」

最初から最後まで「なんでやねん」とツッコミまくりたい衝動に駆られるような展開の連続。それでいて「人喰いアメーバの恐怖」的な流れから最後は諸星大二郎の「生物都市」にも通じる壮大な結末を迎える。そして最後の一行で完全に降参でした。

へちゃ「接続端子」

出だしからいきなり「エヴァですか?」という感じでつかみはOK。こちらも男女の仲を絡めているんだけど、この二人は単なる恋人というより何やらワケありな感じです(ぼかした表現)。さらりと短い作品ではあるが心に残るのは作者の文章力によるものでしょうね。

山田「厭世的な戸締り」

最後まで読んでタイトルの意味が分かる怖い作品。大和和紀の「KILLA」という、少女マンガの歴史に残るピカレスクロマンの名作があるんですけど、その中にアレクという盲目の美少年が登場するんですよ。悪の化身である主人公にとって唯一の「弱点」となる存在である彼が失明したのは、生まれたばかりの頃に精神を病んだ母親から針で両目を突かれたからなんです。その理由が「この醜い世界を見なくても済むように」というもの。今回、この詩を読んで私は数十年ぶりにアレクの母親のことを思い出したのでした。

平山K「素朴な瞬間接着剤」

阪神タイガースが日本一になったことを記念して書かれた作品(たぶん)。瞬間接着剤の絡め方がやや強引かなという気もするけど、強引にくっつけるのが瞬間接着剤なのだから問題ないでしょう(たぶん)。最終行で「あの写真」を連想してしまってもうダメでしたw 上手いオチだなあ。

松本桃英「瞬間接着剤」

短歌作品です。「柔道のウルフ・アロンのCMが頭にこびりついて取れない」なんですが、私は「ウルフ・アロン」の名前を見るたびに水野英子の「ファイヤー!」を連想しちゃうんですよ。だってアロンウルフですよ?(若い人たちごめんなさいねー)。それはともかくユーモラスな作品ばかりでクスリとしちゃいます。

ゆりあなと愉快な船「離れがたい、奪いたい」

こちらは短編小説です。ちょっと……いやかなり複雑にもつれ合う男女の関係を描いた作品。はっきり言って、主人公の女性には共感できない。典型的なサークルクラッシャーというか、自分も相手も不幸にする恋しかできないタイプ。でも、そういう愛し方やその実践者に憧れる季節というのが人にはあるものなのじゃよ(遠い目

.kom「早く繋げて」

若い頃の恋にありがちな「焦り」を描いた詩。分かる、おじさん分かるわー。若さ故にせっかちになっちゃうんだよね。そして結果的にパッと燃え上がってすぐに消えちゃったりする。でも、語り手はゆっくりと育てていく愛の大切さにも気付いているから、きっと大丈夫。そんな気持ちになりましたよ。

星出知美「アリバイ工作」

ショートショート的な作品。何やらワケありな感じの少女による危ない裏商売(まあ危ないから裏商売なんですけどね)を描いております。短すぎて情報量が足りない気もしますが、最後のオチが良いですね。

毛石「補完される心」

こちらも短編小説。完璧主義で仕事に生きる女性が主人公。生き方も身の回りの品もすべてが仕事のためで隙が無い。そんな彼女も時にはアクシデントに見舞われることがある。その時、救ってくれたのは普段軽蔑している人物だったというオチ。短いながらもきちんと物語が完成していますね。

葉山かのこ「刹那の待ち人」

貧困の中で身を寄せ合って生きる幼い兄妹を描いた短編小説。両親は町へ行ったきりまだ帰ってこない。行商なのか短期の仕事なのか。とにかく畑だけでは生活できない状況が分かる。親が不在の不安を隠して妹を励ます兄に泣けてきますね。二人の幸せを祈らずにはいられません。

ふたぐちぴょん「正義の魔法少女VS悪の女幹部」

いやあ、「ちょこざいな」なんてセリフ、半世紀ぶりくらいに聞きましたよ(ちょっと大袈裟)。タイトル通りの戦いを描いた短編小説です。ポロリもあるかと期待したことはここだけの秘密。作者さん、瞬間接着剤とかどうでも良くてとにかくこのお約束的な戦いが描きたかっただけではないかと思いましたよ。誰だよナムラーってw

草野理恵子「羽子板」

その作品世界に私が浸水、いや心酔している詩人・草野理恵子氏の作品です。もう冒頭から詩的でありながら意味不明です。これ、他の人が書いたら絶対に詩として成立しないって。第四連とか鳥肌が立ちました。それこそ瞬間接着剤のように、本来はくっつくはずのない単語たちを巧みに繋げて美しい詩を編む草野理恵子という詩人に完敗で乾杯です。

羽島貝「未接着」

傷つけた相手の心を巧みにフォローする。その巧みさが逆に不信を生んだということでしょうか。短い作品なので解釈違いかも知れませんが。こういう女性って、要注意ですよ(お前に恋愛の何が分かるんだよ

あかりん♪「ピタッ!!」

不思議なリズム感が楽しい詩。瞬間接着剤を使ってるうちに少しずつ壊れていく語り手の心情になぜか共感している自分を見つけます。瞬間接着剤は人をダメにする。うん、そんな感じ。

Keisei.hhh「弾丸はジョークじゃない」

小説に政治を持ち込むべきかどうかはともかく、詩に銃に関するあれこれを持ち込むことは決して否定されないでしょう。クリスマスが近づく店内の陳列棚には、銃弾のような瞬間接着剤が並んでいます。自分の将来のこと、この世界の未来のこと。言葉の弾丸と遠い戦場でばら撒かれる実弾。どちらが正気じゃないか、言うまでもないですよね。正気じゃないのは詩だけで良い。

霜月かつろう「瞬間じゃなければ」

一読して「クラリネットをこわしちゃった」を連想したのは私だけでしょうか。家族や恋人の大切にしていたものを壊してしまう。あるあるですよね。そして、その後の行動が運命の分かれ道なのであります。語り手は明らかに道を誤ったという感じですね。やっぱり正直に謝る誠実さが大切です。最初から最後までドキドキさせる短編小説でした。

羽田恭「剃髪」

いやあ勿体ない。剃髪するだけの髪の毛がある人がうらやましいですよ(そういう話じゃねぇ)。うっかり瞬間接着剤を髪にくっつけたことをきっかけに、何と出家してお坊さんになっちゃうという荒唐無稽なストーリー。カミをきっかけにホトケに仕える身となる不思議はさておき、そりゃあ瞬間接着剤も思わずツッコみたくなりますよ。でも現実的に考えてすぐに連れ戻されますよねこの人w

高柴三聞「W・A・Z・A」

たびたび日常から脱線するため、再び戻るためのスキルを身につけていく語り手。しかし新たなヘマをやってしまい、また新しい技を探さねばならない。ユーモラスな内容ながら「普通の人みたいな日常」を維持することが困難な人たちの切なさを感じました。

木葉揺「黄色い斬新なアレ」

アニヲタで京アニ作品のファンなので、タイトルを見た瞬間に「氷菓」「限りなく積まれた例のあれ」を連想しましたよ。幼稚園児の語り手にとって瞬間接着剤は恐怖と共に好奇心を刺激するものであるようです。タイトルの「アレ」と本文の「コレ」とか読ませる工夫が感じられますね。

霜月このは「週に一回、六〇分」

週に1度、60分のギターレッスン。確かにギターのコードって抑えるのが大変なんですよね。特にFとか。それにしても瞬間接着剤が指だけでなく心までくっつけてしまったとは。これからは恋のレッスンも始まるかも知れませんね。←上手いことを言ったつもり。

湯村りす「朝の会」

寓話的な色彩の強い作品です。朝の会でこんな質問をする先生は、いったいどんな動物なのでしょうか。何もかも元通りなんて、そんな魔法はないということを学んで子どもたちは成長していくのでしょう。

十六夜/朔「雪月夜」

俳句によって構成された詩。それぞれが独立した俳句として読ませる力を持っていて、それが詩として寄り合わされることによって新たな詩情が生まれます。冬の身を切るような寒さと愛する者への思いが見事に表現されています。

あさとよしや「ねえ、どうして?」

父親としての威厳を保つために嘘に嘘を重ねていく語り手。でも、これまで経験したことのない出来事には弱いのでありました。こんな質問内容ではコメント欄が荒れるだろうなー。もっと誠実に子どもと向き合った方が良いんじゃないかなと、親の目線で読みましたよ。

秋月祐一「Close Your Eyes」

これは自由律俳句で構成された詩でしょうか。木星みやげのリキュールは私も飲んでみたいですね。「幼稚園児でいっぱいの深夜バス」はちょっと怖いなあ。単に「マナーの悪い客ばかり」ということなら良いんですけど(いや良くないですけど

源ヒカリ「転送」

SF的な内容でありながら詩としてのしっかりとした骨格を持っていると思います。スピード感あふれる描写から最終連のオチに持っていく構成が魅力的でした。「瞬間接着剤」という言葉をストレートに使わずに、お題の中にあるイメージを上手く使っています。

ツェッツ「瞬着」

これ「待てない」だけですよね? おそらくこれ以上の短い作品はもう出てこないかも。まあ漢字一文字とかはアリかな。すべては渡辺八畳氏の判断次第ですけど。あまりに短すぎて意味不明ですが「瞬着」でも「待てない」という風に読むと逆に色々な物語を想像できるかも。

妻咲邦香「昭和の魔法」

出てくる単語があれもこれも昭和生まれの心を刺激してくれます。「未来の恋人は僕よりも親友の作り話の方を信じた」が切ないですね。最終行に込められたノスタルジーと哀しみ。すべては意味のないがらくたになっていくのでしょうか。

大江信「筆箱」

この詩ね、お題の「瞬間接着剤」が使われていないことを考えると「いじめ」(という犯罪)をテーマにしたのではと思うんですよね。机の中央で動かない筆箱は語り手自身でもある。無駄な描写を用いずに、今も心の底に残る不安や痛みを巧みに表現している作品だと解釈しました。

子鮨えりみ「ハム、接着剤、真の幸」

壁に空いた画鋲の跡って、重曹を溶いた瞬間接着剤で補修できるんですね。知りませんでした。友人も恋人もなく、経済的に豊かなわけでも、何か誇れるものがあるのでもない。それでも大晦日の夜にビールを飲みながらハムを丸かじりするくらいの贅沢はできる。それが幸せだと感じるなら、間違いなく幸せなのでしょう。他人と比較することをやめたとき、人は本当の意味で自由と幸福を手に入れられるかも知れません。

朝海陽音「瞬間接着剤」

「ずいぶん力持ちなお母さんですねぇ」。いや、そうじゃないだろ。小さい子どものいたずらは、油断すると大変なことになるから注意が必要です。それでも、うれしそうに笑う我が子の顔を見ると、叱る気にもならないんでしょうね。いつか、瞬間接着剤を使っても離れていってしまうその日までは、こういう幸せを噛みしめていたいものです。

毒りんご「わたしと接着剤など」

今回は俳句や短歌で構成された作品が多いですね。この作品では「接着剤」が「眠剤」のようなクスリであるかのように用いられていると感じました。「文芸はビギナー」とのことですが、これからも書き続けていってほしいと思います。

伊藤映雪「テーマ詠:瞬間接着剤」

四季を詠んだ俳句によって構成された作品。作者の確かな力量を感じさせるものばかりです。「作業着にボンドをつけたまま夜学」(夜学は秋の季語なんですよ奥さん)「金継ぎの走る茶碗や冬の月」が特に気に入りました。こういう俳句が詠めるようになりたい。

辺菬人「哀歌にもならず」

こういう哀愁漂う詩って好きなんですよね。何というか「ガロ」とか「ビッグコミック」の増刊号とかに載っている読み切りマンガみたいな作風。炒飯を作ってくれた女性が出て行ったのは、新しい靴を買うこともできない貧乏生活に疲れたのか、それとも語り手の酒癖の悪さか。瞬間接着剤という素材を上手く料理した作品です。

書完戒「瞬間接着剤みたいに」

わずか5行の短い作品。心をつなぐ赤い糸を瞬間接着剤に見立てた内容。2人に幸多からんことを。

ぬかるみ/晦「alone_α」

一番美しく響く二語の日本語が「瞬間」「接着剤」とかさすがに無理があるだろうと思いながら読み進めると、予想外の展開に言葉を失う。死んでしまった彼女。拭いきれない罪悪感。何故か出現し続ける瞬間接着剤。それが「チルチルとミチルの道標」であるというオチ。個人的には「ヘンゼルとグレーテル」かなとも思ったんですが、とにかく最後のオチは文字通りに美しい。

結城葵「くっつけたがり」

え、いや何ですかこれを読んでどうしろと言うんですか? はいはいリア充爆発しろですよ。まあ私も負けないくらい充実しているから良いんですけどね(張り合うなよ)。幸福な二人の生活を切り取った短編は、読む者まで幸せにしてくれます。

本条忠「未来と瞬間」

瞬間接着剤(アロンアルファ)をテーマにした短歌です。何というか「アロンアルファあるある」みたいにユーモラスな作品もあるんですが、後半になっていくとシリアスな展開に。最後の「迷いつつ私は生きる木工用ボンドが白さを失う速度で」が希望を感じさせます。

中川達矢「瞬間を接着する剤」

タイトルが「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」みたいな感じで読む人の興味をそそります。「水」をテーマに、語り手の巧みな語り口に引き込まれます。少しずつ変化しながら繰り返され、最終連へと流れていく構成が見事ですね。「瞬間を接着する剤」とは読点のことであったのでしょうか。つなげていく、そしてかさねていく。

砂塩香味「シーエム」

不思議なCMをテーマにした短編。「心をキレイに修復」なんて無理に決まっているのに、騙されているのではと思いながらもついつい電話してしまう語り手。「値段を聞かないでくれ」というのだから、やはり騙されたんでしょうねぇ。でも私は彼のことを愚かだとは思えないのでありました。

浦桐創「接着罪」

読んでいて切なくなりましたよ。彼女の心が離れていく……というか最初から相手にされていないような気もする気の毒な語り手。それでも未練がましく手伝いに行ってしまう。ああ、何か視界がかすむぜ。最終連のオチが特に哀しいですね。頑張れよ、おい。

ケイトウ夏子「血液以上、雨未満」

濃度で言えば「雨以上、血液未満」となるはずなんだけど、逆なんですよね。そこに作品を読み解くヒントがあるのかも知れません。語り手はケガをしたのか、それとも整形手術を受けたのか。恐らくは病院のベッドに横たわる身体にスコールが降る。私にとっては難解な作品でしたが、何というか動物的な生命力を感じました。

倉本健介「竹ノ内先輩のあだ名」

文字通り「竹ノ内先輩のあだ名」の由来が判明するまでを描いた詩。もうね「ヤクルトの容器」でもうダメでしたよ。そして衝撃的なオチ。「え、そんな人いるの?」という感じです。まあ、ある意味うらやましいかもw

ベンジャミン四畳半「宇宙の果てのホームセンターに瞬間接着剤を買いに行く」

森見登美彦的な外連味あふれる作品。読み始めて少ししてから「母星」という単語が出てきて「ああ、そういうこと」と気が付きました。色々とツッコミどころがある店内や店員ですが、何よりオチが素晴らしかったですw

原島里枝「翳あるいは修復」

これも読み始めてすぐに作者の知識の深さや技術の確かさを感じました。例えばウロボロスを連想させる表現とか、「親指と薬指で永い愛を語る」というフレーズとか。後者はお題と共に考えると意味のある内容であると分かるんですが、読み手にある程度の知識を要求していますよね。「瞬間接着剤」でここにたどり着くのかと感心させられました。

音放送・MCボーソー「しゅんかんせっちゃくざいについて私が知っている二、三の事」

いや面白かったです。途中まで「この人、本当は知ったかぶりして適当なこと言っているんじゃないかな」と疑うくらいに主語が出てこない。まあ知っていたみたいでしたけど。とりとめのない話なんですけど、なぜか最後まで聞いてしまうのはやはり作者のテクニックによるものなのでしょう。

階段ひかげ「瞬間接着した人生」

全体を支配する独特のリズム感がなかなかに心地よい詩です。読み終えて「腐れ縁」という言葉が頭に浮かびました。まったく見当違いの解釈かも知れませんが。最終連が何というか心をほっこりさせてくれる感じです。

浪市すいか「ジャスミン」

ここで描かれているのが友情なのか愛情なのか。私は後者だと解釈したんですけど、どちらにしても「青春時代における関係の終わり」がテーマなのかなと思いました。切ない余韻を残す詩です。

霜月セイジ「夜空のかたち」

「夜空のかたちをしたブーツ」という発想が素晴らしいですね。靴の表現がダイナミックで文章に生命力が満ちあふれている感じです。生きていくことは大変だけど、まだまだ明日も歩いて行ける。希望あふれる魅力的な作品です。

宇佐美踏繁「左手の狐」

バーには時折、怪しげな客が訪れるものである。今夜の客は左手を狐の形に接着してしまったという。しかし、そういう話を鵜呑みにしてはいけない。もしかしたら、この男こそ狐の化身かも知れないのである……などと考えてしまいましたよ。文字通り狐につままれたような気分になる作品でした。

月ノ音姫瑠「瞬間接着剤」

幼い頃には壊しても直してくれる人がいた。その優しさに甘えていたら、いつの間にか大人になっていた。もう、壊れてしまった大切なものを直してくれる人はいない。それでも傘をさしてくれる人がいる。もう生きている間には直せないものを抱えながら、それでも今日を歩いていく。そんな風に読みました。

北吉史「君の風景」

朝、目を覚ました……つもりが語り手は描きかけの絵の中に不思議な光景を見る。それは寝ぼけた彼女による夢なのだろうか。夢だとしても何か意味があるはずだ。それは少女が抱える不安なのかも知れない。そういう解釈で楽しみました。

加藤万結子「インフルエンザー」

「インフルエンサー」ではなく「インフルエンザー」です。まだJKだった頃の(何でその表現)作者のセンスはなかなかのものであると言えますね。そして今、彼女は「インフルエンザー」の状態で作品を書いています。教育に関するあれこれが、時代によってまったく違った反応を生む恐ろしさ。昔は告発されるべき者たちが野放しになり、現在は悪意のない者でも火あぶりにされます。せめて私自身は魔女狩りに加担しないよう気を付けたいと思いました。

嘉鵲「自白防止剤」

読後の感想は「これはひどい」(良い意味で)。こういうナンセンスな話、好物なんですよ。スパイを捕らえながら一か月経っても情報を引き出せない相手側も、自白防止剤として瞬間接着剤を与える味方側もマヌケすぎます。「何? 毒物を用意する予算もなかったの?」という感じですね。「物理じゃねぇか」は卑怯。唯一、有能と思える語り手が一番ひどい目に遭うという理不尽さがじわじわと効いてきます。

夢沢那智「シアノアクリレート」

はい、私の作品です。よーし、おじさん聞かれてもいないのに語っちゃうぞ! 今回はいつもと違って仕事が忙しいため、リアルタイムでお題発表のツイキャスを聴けなかったんですよ。それでお題を知ったのが数時間後。その時点でけっこうな数の作品が提出されていたんですが、当然のことながらタイトルや内容に「瞬間接着剤」という単語がわんさか出てくるわけです。それを見て「逆に、このお題を直接使わないで書いてみようかな」と思った瞬間に大まかな設定が降ってきました。作中で人類はネットに嘘をばら撒いた挙げ句に核戦争とか地球温暖化とかのミックスセットで微生物以外の生き物をすべて道連れにして滅亡しちゃいます。その後、地球外生命体が「遺跡の発掘調査」に来るんですが、やたらと保存性の良い記憶メディアに入っている膨大な嘘情報の中から真実を取り出すのに苦労するわけです。最終的にはAIの助けを借りて答えを見つけるんですけど、それでも壮大な勘違いをしちゃったりします。ほら、今の私たちにとっての「歴史」でも、けっこう後から「実は全然違いました」みたいなことってあるじゃないですか。ああいう感じです。

萩尾望都の「精霊狩り」という作品では第三次世界大戦によって人類の歴史に関する資料が散逸してしまい、宗教や神話と実際の歴史がごっちゃになってしまいます。この作品もそういう世界観で書かれています。いつか宇宙人たちが真実にたどり着けると良いですね。

戯鳥「瞬禍」

何と漢詩形式の作品です。これは教養がないと作れませんよ。そして書かれた内容が段々と解読されていくわけですが、その内容の無さがまた味わい深いです。「いや残らない」とか、ちゃんと漢詩の形式だからこそ面白いですね。

中貝勇一「すけるつぉ」

タイトルの通り、おふざけ的な内容ですね。ただし構成は童歌の「通りゃんせ」を下敷きにしていて、けっこうな技量を必要とするものだと思います。OKサインが可笑しいやら哀しいやらですね。最後の一行で上手くまとめていると思います。

百目鬼祐壱「アロン」

アロンと言うと水野英子の「ファイヤー!」を連(もうええ)。何というか読む者を煙に巻くという感じの文体とストーリー。個人的には「っすよね」という口調のおっさんが自分を見るようで辛かったっす。後半の展開はもう完全にナンセンスで「生き別れちゃった系の人ですか」「そうです」とか何なの本当に最高だよ。また、こういう感じの作品を読みたいと思いました。

伊丹秦ノ助「透明人間捕獲計画」

これ、もうタイトルの時点である程度の予想がついた人がけっこういるんじゃないかと思います。その後の展開も面白いけれど良くある内容。だけどラスト近くになると哲学的な様相すら呈してくる。主人公と透明人間の足跡が似ているのはなぜか。なぜ主人公はそれを知った途端にあらゆることへのやる気をなくしてしまったのか。色々とオチが考えられますね。

ちゃたz「汗をかいた日」

たぶん、作者は私と同世代ですね。詩の中に出てくる「あなた」元キャンディーズの伊藤蘭で間違いないと思います。まあ、さすがに「アイドル3人組」とか家族構成とか「時間がないのよ」とか豊富なヒントがあれば若い人でも分かるかw 「あの頃」に立ち止まるのではなく、伊藤蘭と同じように今を生きていこうとする姿勢に共感します。

けいりん「世界がこのようであるために」

SFショートショートです。時空の構造についてはこの作品のような解釈もあるわけですが、記憶を瞬間接着剤として修復に使うというのは面白い発想ですね。人間にとっては迷惑な話ですが「彼ら」は一種の神みたいな存在だから抗うことも許されないのでしょう。手塚治虫の「火の鳥」を読んだときにも似た切ないオチでした。

エイドリアン「愛の鳥」

コザクラインコの生態を自分の現状へとつなげている詩です。「よお、鳥よ」のフレーズは筋肉少女帯の「サーチライト」「やあ!詩人」を連想させます。最初は怒り、次に絶望する語り手。しかし、そこで終わらずに再びファイティング・ポーズを取る彼=作者に拍手を送りたいと思いました。

サンシ・モン「新龍」

お題で書けない自分をネタにしたメタな感じの作品。語り手が愚痴を書いている間にそれ自体が作品となって終わりという展開は良くありますが、この作品では「ドラゴンボール」を使っているのが面白いですね。「ニューロン」を使ってちゃんとオチにしています。次も頑張ってくださいね。

四方塚環「魔法のチカラ」

西原理恵子の「パーマネント野ばら」を思わせる、家族愛と切なさに満ちた作品。「酔っ払いクセに」は「酔っ払いのクセに」だと思います。魔法使いのように思えた姉も、大人になってみると自分と同じように悩みを抱える人間だったということでしょう。語り手の事故には驚きましたが、きっと元気になって今度は姉を励ましてくれることでしょう。

渡辺八畳「剪断」

この場合は土木用語である「剪断」を用いて瞬間接着剤を説明しつつ、そこからマンションとその住民たちへと展開させる。さらに蜘蛛を登場させて(「天上の阻まれて」は「天上に阻まれて」でしょう)、それが「咲いた花のように固まる」という残酷だが美しい光景を読者の中に固定させて終わります。この企画を立ち上げ驚異的な情熱とエネルギーで続けていることからも分かるように、作者は優れた詩人であると同時に有能な実務者でもあると思います。

エキノコックス「復元」

語り手は「タイセツナモノ」を落として割ってしまう。決して元へ戻せなかったハンプティ・ダンプティ。「タイセツナモノはイラナイモノから/できている」というフレーズには考えさせられました。語り手はタイセツナモノがまったく元通りにならないけれど、それでもいいと言います。それは諦めの中にある希望でもあると私は感じました。

高鴨樹壱「鬼剝村抄」

氷鬼(鬼ごっこの一種)が禁じられた村。村の名前から鬼の伝承があるのだと想像がつきます。何者かに触れられた途端に動けなくなる語り手。それは魔=鬼の仕業だったのかも知れません。神隠しに遭いかけた彼を救ったミヅキには特殊な能力があったでしょうか。想像が膨らむ作品です。

こんにゃくるな「剥がれるくせに」

ヒリヒリとした感じの短歌作品です。世界に対して中指を立てている感じが良いと思いました。「生意気に燃えるんだってこいつらは人間だって燃やせるんだよ」から伝わってくる激しい怒りが絶望では終わらず生へのエネルギーに変換されている気がします。

青ノ颪「アロンアルファ」

タイトルに関しては「そのまんまやん」という感じなんですが、内容は極めて良質な現代詩です。最初と最後に「犀の角」が出てくるんですが、これはやはり「スッタニパータ」でしょうか。ちなみに犀の角は昔から中国で回春を含めて様々な効果があるとされ薬の材料として乱獲される原因となったそうです。個人的に「ランボーとヴェルレーヌと拳銃と」に痺れましたよ。

化野夕陽「縷紅草」

縷紅草って本当は多年草なんだけど日本は寒いので冬に枯れてしまうらしいですね。そんな切ない植物が蜘蛛の糸にすがって上を目指しているのに、それを阻んでしまう語り手。その背景がうっすらと見えてくると苛立ちの原因は自分自身の中にあると分かります。最後に瞬間接着剤で元通りにしようとする語り手。それが上手くいくかは分かりませんが、彼の中にも変化があると良いですね。

重根梨花「明朝体の句点ダンス」

瞬間接着剤から始まっているけど、この作品の要は「句点」です。「ミスドで明朝体の句点ばかり買ってくる」とかシュールで面白いですね。でも単なるナンセンスでは終わらせない最終連がすごいです。「1秒前とは違う水があることを分からない人など置いて」が爽快。

病氏「使えない体質」

身体から出る体液がすべて瞬間接着剤になってしまう男の話です。そりゃあ大変ですよね。まともな生活が送れない。そんな彼が謎の組織から受けた依頼とは? 本当に役に立つのか分からない連中ばかり集められるという設定も面白いし、最後のオチも気が利いています。

七色「そんなもん最初から無かったら良かった」

.kom氏の「早く繋げて」とも共通するものを感じました。恋の始まりは何だったのか。何にせよ、もう少し時間をかけるべきだったのではないか。今となってはどうしようもないと思いながらも考えています。そういう時ってありますよね。でも、どんなに後悔しても始まらないから、これからのことを考えるしかないのでしょうね。

ひまわり「感情慟哭フリーダム」

「少女革命ウテナ」の中で流れる曲の「バーチャルスター発生学」とか「天使創造すなわち光」「ワタシ空想生命体」あたりを連想させるタイトルですね。何か禍々しい存在から憑依されていたのか、決して幸せになれない類の恋をしていたのか。とにかく他者から侵食されるような状態だった語り手が最後に解放され自由を得る。人と人との繋がりの難しさみたいなことを思いました。

七辻雨鷹「先週の金曜日」

いきなり「イタタタタッ!」な展開で身が縮む思いをしましたよ。そこからさらに最悪の展開になるのかと思いきや、語り手の想像だったのでほっとしました。でも、その想像した内容こそ彼女が社会人になってから待ち受けている運命なのかも知れません。あるいは過保護に育てられたからこそ今の状態なのであって、社会人になって家を出れば何もかもが良い方向へ変わっていくのかも知れませんね。最後の短歌からも、私は後者であってほしいと思いました。

宇ノ倉なるみ「踏む」

これは私にとっては難解な作品でした。靴底が瞬間接着剤でくっついてしまったのでしょうか。誰もいない銀座を横切っていく飛行機。何もかもが白昼夢のように幻想的な光景です。

大正躑躅「お湯の中で揉んでいたら取れてくるんですって」

タイトルを見たときは笑ってしまったんですが、内容は笑えないシリアスなものでした。いや語り口はユーモラスなんですけど、現実的であるが故に重いものでした。そうですね、瞬間接着剤でくっつけるような安易さが今の悲劇を生んだわけで。お湯の中で揉むようにじっくりと時間をかけて、本当に何とかなると良いのですが。


以上、丸1日をかけて簡単なコメントを書いてみました。まあ見当外れな内容も多いでしょうが、作品は発表した瞬間から読者のものだというのが私の考えなのでどうかご容赦を。最後に企画立案者の渡辺八畳氏にあらためて感謝いたします。いつも本当にありがとうございます。いやあ、文学極道のスタッフとして月間選考していた頃を思い出したわ。あの頃の私ってけっこう頑張ってたんだなw


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