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とぅるーらぶ・るーぷです 三・終

彼女は僕の部屋から出て行った。
これからまた、僕の灰色の2日間が始まる。
少し違う点がある。それは、僕の心がポッキリと折れたことだ。
これまでだって、何度もめげそうになった心を持ち直して、ひとりで頑張ってきたけど、これ以上は何もする気にはなれなかった。
いや、本当はもうとっくの昔に、限界は超えていた、
ただ、彼女が生きない限り、このループから抜け出せないから、僕は頑張っていた。でも、それももう終わり。
僕は部屋に閉じこもった。
親は僕の心境を慮ったのか、特になにかを言ってくることもなく、そして、運命の二日後が来た。

「行ってきまーす!」

彼女の明るい声が、窓の外から聞こえてくる。
僕が彼女に不干渉の時は、彼女はこのまま、彼氏とデートに行き、そして帰り道の交差点でトラックに牽かれて亡くなってしまう。
カーテンの内側から、駆け足気味に向かっていく彼女の後ろ姿を眺めながら、僕は、ベッドの縁に座り込んだ。
なんだ、諦めてしまえば、随分と心が楽じゃないか。
僕は、どうせループするならとこの2日の間、好きなことをしていた。
うとうととまどろむように、時間は過ぎていく。
烏の声が響き始めた頃、空は夕焼け色に染まっていた。

「もうすぐだな」

もうすぐ、彼女は亡くなる。
交差点の横断歩道。運転手の信号無視で、彼女はトラックに轢かれて死んでしまう。
それに気づいた彼氏は、彼女を置いて逃げた。
そして、彼女は一人トラックに轢かれて即死する。

僕はまぶたを開いた。

「最後に、もう一度だけ、彼女をみよう」

諦めた最初の日として、102回目の人生として、僕は今世を記念すべき回に決めた。
僕はポケットに千円だけを突っ込み、立ち上がった。
二日ぶりに出た町並みは、いつもと違って見えた。

「……こんなに明るかったっけな」

まるで憑きものが取れたかのようだ。
妙に晴れやかな視界の中、僕は、周りの人たちを見渡してみた。
――何故か、笑顔が目についた。
目的の交差点につくと、僕は自身の変化をはっきりと感じ取っていた。

以前は、他人の暗い表情ばかりが目に付いていたのに、今では、楽しそうな表情や笑った顔や、希望に満ちた顔ばかりが目に付く。
懐かしい感覚を抱くのは、本来の僕の性分だったのか。今ではもう、分からないけど、悪い気はしなかった。

横断歩道の信号が赤になった。

彼女は、僕の向かいの歩道で、彼氏と話していた。
そういえば、今回のルートで、正面から見るのは初めてだ。

「そっか、あんな顔で笑っていたのか……」

彼女の笑顔は、まるで太陽のようだった。

「あ……」

僕の頬に一筋の川が流れた。
ぼたぼたぼた、と地面に落ちる涙。
その時、僕は彼女と目があった。

――信号が変わる。

「ファ――ン」

けたたましいクラクションが、鳴り響く。
彼女の彼氏が、近付いてくるトラックに気づき、逃げ出した時、僕は入れ替わるようにして、彼女の元へと駆け寄った。
僕と目が合って、固まっている彼女は、横から突っ込んでくるトラックに目を向ける。
衝突まで、残りわずか。

「……だ、ダメだ!」

……やっぱり僕に、君の死は耐えられそうにない。

その瞬間、僕は彼女を力一杯に突き飛ばした。転んだ先で、彼女が膝を擦りむこうが、しったことか。
これ以上、君が死ぬところを見るくらいなら、僕が代わりに死んでやる。

押し出した先、彼女は僕にとても悲しそうな顔を浮かべていた。そんな、彼女を見て、僕が言う抱いた言葉は――

「――良かった」

僕は君のことを愛していた。
君もまた僕のことを大切に思ってくれていたんだね。
そうして僕は――暗闇に身を投げ出した。



*  * *


好きな人が死んだ。
彼の遺体は、いつ見ても心が痛くなる。
彼はいつも、私を庇って死んでしまう。
彼を遠ざけた今回こそは、助けられると思ったのに、彼はまた私を助けてしまった。

私が存在する限り、彼は死に続けてしまう。

だったら私がすることはひとつしか無い。

「今度こそ、私は一人で死んでみせる」

そうして私は、103回目の人生をやり直すのだ。

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