優しい狼Jean (ジーン)
ある山奥の、狼の群れの中にJeanという雄の狼がいました。
Jeanはまだ子供で、自分で狩りをしたことがありませんでした。
Jeanは好奇心旺盛な狼で、いつも母親から離れ、山の中を探検していました。
ある日、Jeanは丘の上の草原の中、風を追いかけて遊んでいました。
すると、風に乗って美味しそうな匂いがしてきました。
「う~ん。いい匂いだぁ~!そういえば、お腹すいたなぁ~」
Jeanは鼻をクンクンさせながら、匂いのする方へと歩いて行きました。
すると、動いている何かを見つけました。
「ん?モコモコしたあれは何だろう?」
そこには群から離れた子羊が一匹、美味しそうに草を食べていました。
「いい匂いだぁ~。だけどご馳走はどこにあるのかな?」
Jeanは、羊の肉を食べたことがあっても、羊というものを見たことが無かったのです。
Jeanは子羊に話しかけてみました。
「ねぇ君、ご馳走を隠してない?」
狼を見た子羊は驚いて飛び跳ねました。
そして、ブルブル震え始めたのです。
「君を脅かすつもりはなかったんだ!ごめんよ。」
それでも子羊はブルブル震えています。
「どうしたの?」
「たっ、たすけて・・私を食べないで!」
「食べる?まさか!僕が君を食べると言うのかい?僕は羊の肉しか食べないよ!ねぇ君、どこかに羊の肉を隠してない?僕、お腹が空いちゃってさっ!持っているんでしょ?少しでいいから分けてくれないかなぁ‥」
Jeanは鼻をクンクンさせながら、口を開けてポカンとしている子羊に近づき、ひと回りしました。
「何かおかしいなぁ・・君のカラダから匂いがしてくるようだ!」
そして今度は、子羊のカラダに鼻をくっつけて匂いを嗅ぎました。
「もしかして・・君は羊なの?」
「わ、私を食べるのっ!!」
「君が羊だったなんて・・知らなかったよ。君のような可愛い羊をぼくは食べていたんだね」
Jeanは、とてもショックを受けました。
母親が羊を捕まえて来て切り裂き、その肉をJeanに与えていたので、羊を見たのはこれが初めてだったのです。
「さぁ!みんなのところへお帰り!グズグズしていると食べちゃうぞ!!」
Jeanがワザとそう言うと、子羊は慌てて逃げて行きました。
あんなに可愛い羊を殺すなんて・・・
お母さんがそんな残酷なことをしていたなんて・・・
僕はもう羊の肉は絶対に食べないぞ
この日から羊の肉は食べないと誓ったJean。
けれども、他の動物も植物も自分と同じように生きているということに気づいたJeanは、羊の肉だけではなく、なにも食べることが出来なくなってしまったのでした。
Jeanが口にするのは水だけで、母親がどんなに説得しても頼んでも、食べることをJeanは拒否したのです。
Jeanは日に日に痩せていきました。
子羊と出会って26日目。
Jeanは静かに息を引き取り、空の星となりました。
牧場の柵の中で、眠れぬ夜を過ごす子羊がいました。
子羊が夜空の星を数えていると、中でも一番輝いている星がささやきました。
「安心しておやすみ・・」すると、子羊はゆっくりと目を閉じ、眠りについたのでした。
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