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【読書記録】絆は呪い、なのか。『ロスト・ケア』葉真中顕


あらすじ

戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奧に響く痛ましい叫び――悔い改めろ!
介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味……。
現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!
全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

Amazonより

感想

面白かったです…また好きな作家を見つけてしまいました!
葉真中顕先生、これからよろしくお願いします。
とても嬉しいです。こういう出会いが本はたまりません。

私は「社会派本格ミステリー」がどうやらとても好きなようです。
この作品もとても重い。考えさせられることが沢山ありすぎて、感想を上手くまとめられる自信がありません。
まだ読んでない方はネタバレ部分も含みますので、お許しください。

高齢化社会を突き進む私たちに、「介護」という闇について考えさせられる物語

身内の介護というのは多くの人が直面する問題。
極めてプライベートなことなのに、社会問題でもある。

犯人である<彼>は四十三人もの高齢者を殺した。それは一人暮らしの高齢者や要介護度の高い高齢者、身体が不自由で抵抗できないお年寄りだった。盗聴器を仕掛け、介護に疲れ果てた家族の状況を把握。
助けを求めても得られない、介護と自分の生活との板挟みで苦しむ人たち。そんな家族を救うために、<彼>は「処置」である殺人を続ける。

「そうです。殺すことで彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です」

本文より

事件性がなければ解剖されない=完全犯罪が成立する

人が一人きりで亡くなった場合、普通は変死体として解剖されますが
「検視」で特に問題がないと判断されれば解剖はされません。
お年寄りであれば尚更、事件性はないと判断され、毒殺されていたとしても、発見されない。解剖すれば毒殺は一発でわかりますが、検視の盲点を突いた殺人。
現場に髪や指紋をいくら残そうが、捜査自体が始まらない。
完全犯罪が成立する。だから四十三人も殺害できたのです。
これには非常に驚かされました。。

捜査されなければ、捕まらないよね…

「『処置』の方法は、そう毒です。煙草からニコチンを抽出して皮下注射したんです」

本文より

社会への叫び

<彼>は決してサイコパスなどではなく、大量殺人を行った本当の目的があった。『ロスト・ケア』(喪失の介護)によって介護に苦しむ家族を救うことだけでなく、社会に対する叫び・・・
それがわかった時に心が抉られました。

「もしも死が救いでなく諦めだとしたら、諦めた方がましたという状況を作っているのは、この世界(あなたたち)だ!
もしも僕が本当に父を殺したくなんかなかったとしたら、殺した方がましだという状況を作ったのは、この世界(あなたたち)だ!」

本文より

うまくまとめられませんが、★5つ中、★★★★★です!
葉真中先生の『絶叫』も購入しましたので、読むのが楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(*^-^*)


作品紹介


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