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彼女とはぐれた理由

 大きな画面の左半分に表示されるアイコンやウィンドウは女性のためのものだ。右半分は白っぽく、それは私専用の画面なのだが、私は左半分しか見ていない。そのいくつかの横長のウィンドウは、時折上下の順番を変えたり点滅したりしていて、その感じは緩い粘土に入ったような快さを醸している。
 その画面を説明していた彼女は、それらが意味するのが、自分のプライベートな情報であることに気づいてきた。ひとつのウィンドウには女性服の紹介があって、それをいつどうやって購入したかなどの文字列が流れていた。
 そこは大きな講堂のような建物の中で、各階はそれぞれ体育館のような広さがあり、わたしは上方の窓に沿った手すりのない廊下を歩いて、先ほどの女性服を籠に入れて運んでいた。ひとつの階の廊下は三十センチほどの幅しかなく、私は何度もそこから落ちそうになっていた。
 私と彼女は、その講堂を出て、帰宅することになり、二人で歩いていたが、いつのまにか彼女と私との間に大きく太いコンクリートの格子のようなものが現れ、徐々に彼女の姿が見えなくなっていった。私は、昔ここから予想しなかった場所に行ってしまったことを思い出し、その格子の隙間をくぐり、彼女側のエリアに入り、大声で彼女の名前を呼んでみた。全方位見渡しても彼女の姿はなく、人通りも増えており、おそらく駅まで行けば会えるだろうと、もとのエリアに戻って駅の構内で彼女を探すことにした。
 駅に着いて、駅員に行き先を告げて、どの線のどこで乗り換えればよいのか、出発は何時なのかをききながら、周囲を気にしていたが、結局彼女を見つけることはできなかった。
 先ほどの講堂からこの駅まで来るのと、別の道から隣駅まで行けるのをマップで確かめ、そういうはぐれ方をしたのだろうと、私はそこまで歩いて行くことにした。隣駅までの電車は運休らしく、線路に沿って進んでいると、向こうから大量の服を担いだ男がレールの上を歩いており、彼はバランスを崩して、そこから崖下に落ちていった。私は、それではっきりと、それがはぐれた理由なのだと腑に落ちた。

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