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映画「1月の声に喜びを刻め」の前田敦子は凛々しかった


映画館で観た感想・レビュー

前田敦子が凛々しかった。彼女を見るための映画だった。

ちなみに三章構成の短編集だ。
前田敦子が出て来るのは真打ちの第三章。

第一章 白い老婆
難解な章。

まず一人で住んでいるお婆ちゃんがいる。

その家を娘の一家が訪ねて来る。
娘・娘の夫・孫の三人だ。

娘はおばあちゃんのことを「お父さん」と呼ぶ。その理由は謎だ。

かつては娘には姉妹がいた。つまりお婆ちゃんには二人目の子供がいた。だが遠い昔に亡くなってしまったらしい。その子の名前はたしか「れいこ」。

途中から部屋が海の底に沈んだような演出がされ、おばあちゃんの独白というか一人演技シーンになる。

「遠くを見渡すレンコンちゃん」とか、「お父さん、私汚されちゃったの」みたいなことを、老婆が延々とひとりごちる。これが10分間ほども続き、第一章は終わる。

終始「なにこれ?」という疑問符がつくのだが、特に謎は解き明かされないままに終わる。

第二章 太鼓の達人

第一章とは全く別のとある島の話。

ひさしぶりに故郷に帰ってきた女は妊娠しているが、それを隠している。

その父親は娘が妊娠しているのかどうかに悩む。

そして父は娘の持ち物の中から離婚届を見つける。つまり娘は妊娠させられた上に男に別れられたのだ。

このことを知ると父親は後輩を呼び出してフェリー乗り場に向かう。島の外に出て、娘の夫もしくは元夫を叩きのめすためだ。

どうやって夫の元に行くのだろうと思ったのだが、離婚届に住所に行ってみるつもりだったのだろう。

鉄パイプを手に持ってフェリー乗り場に辿り着くふたり。たがそこで別の家族を見つけてしまい、なんとなくほっこりしてしまい、襲撃はやめて車で家に帰るのだった。(え?)

そして帰り道で娘と出会う。娘は二人がギャング的行為に走らんとしたことを知らないはずなのだが「なにやってんの!」と車を止める。

そして実は離婚届を出されたわけではなく、男からプロポーズを申し込まれたが、それと共に「負担にならないように、いつでも離婚届を出せるように」と離婚届も渡されたことが分かる。(え?)

ちなみにこの第二章は他の章とは全くつながりがない。

日本の短編集の映画を他にも観たことがあるが、短編集で説得力を持たせるということはなかなか難しいのかもしれない。一章あたりにかけられる時間が少ないので、どうしても場当たり的で説明不足になる。

第三章の前田敦子の話一本で撮ったら良いと思うのだが、そこは大人の事情が色々と絡んでくるのかもしれない。

第三章 前田敦子 登場

舞台は大阪。モノクロの世界。古そうな喫茶店でホットコーヒーを飲むシーンが出て来るので、昭和時代の話かと思いきや、そうではなかった。

主人公である女の心がモノクロなので世界もモノクロなのだ。

前田敦子がついに登場する。白黒の世界で憂いを帯び、凛としている。女の名前はレイコ。

レイコは元カレの葬儀のために大阪を訪れたのだが、心は虚しく抜け殻のようだ。

そこで川辺に佇んでいると、話しかける男がいた。レンタル彼氏業を営んでいる男だ。

レイコは男に「セックスうまいですか?」と言って自分からホテルに誘うのだった。

なぜなら彼女は性にトラウマを抱えている。6歳の頃に性被害に遭い、そのせいで好きな人とも体をひとつにできず、そして彼も死んでしまった。その中でちょうど出会ったのがレンタル彼氏だったのだ。

レンタル彼氏はホテルでレイコが寝ている間に彼女のスケッチを描く。真剣な目をして描いているのだが、なぜか浮世絵みたいな仕上がりだ。

タイタニックばりの真剣さで描いていたはずなのだが….。

それはともかく、レイコは自分のトラウマを切り裂くために、レンタル彼氏と一緒にピンク色の花を切り裂きに行く。自分が性被害に遭ったときに、近くに咲いていた花だ。

この映画はノーカットのシーンが多いのだが、このシーンもノーカットで描かれる。前田敦子の演技からは心に深く根付いた痛みのようなものが伝わってきた気がする。

最終章
ここでちょっとした種明かしがおこなわれる。

第一章に登場した老婆は実は男で、雪の中を歩きながらだんだんと化粧がとれ、老爺に変わるのだ。

そして「れいこ、お前は汚されちゃなんかいない!」と絶叫するのだ。

もしかしてこの男が第三章のレイコを虐げた本人だったのだろうか。もしくは第一章と第三章のレイコは全く別人で、こちらのレイコは性被害の重さに耐えられずに死んでしまったのだろうか。


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