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喫茶日課

日中は汗まみれになるから外に出たくないし、日中のダラダラを取り返すため夜外に出れば駅前は浴衣男女で賑わう。そんな情景からいよいよ夏が来たんだなと思うと、どこか体がソワソワする。

夏の風物詩を楽しむ余裕など微塵もないからかもしれない。あるいはこの時期になっても未来が見えないからかもしれない。ふとSNSを見ればほとんどの友達が旅行に出掛けている。人は人、自分は自分。と思い込まないと体も心もやってられない。

そんな僕は最近、大学最後で最大の課題である卒論に手を出し始めた。去年から所属する都市系のゼミでは周りが建築研究に勤しむ中、僕は1人でサードプレイスについて研究している。このサードプレイスの研究のメインテーマとして喫茶店を取り上げており、神戸の喫茶店を中心に日本各地の喫茶店の取材・調査に足を運ぼうと思っている。この取材経験をひそかにライターへの一歩にしようと企んでもいる。

大学を機に神戸に住むようになって、周りに喫茶店が多くあることから気分転換や一休みでよく利用するように。よく行く家の近所の喫茶店は1人の常連客として、学校のことや留学行った話、あるいは今壁にぶち当たっている就活関係の話を店主のおばあちゃんとよく話す。僕はほとんど学校の課題で長居してしまうときが多いが、毎回「頑張っているね」と優しい声をかけ、時には余り物のサンドウィッチまでくれる。僕自身、周りの友達とは少し変わった大学生活を送っていたため、この喫茶店が僕のそばに居続けてくれたある種のパートナーみたいな存在になっている。(実際には僕が足を運んでいるのだが。)常連として認知してもらっているからか店主からのサービスにはとても感謝している。だが、僕が常連となるまで通うようになった理由はこういうサービスのようなことではないような気がしている。

最初に喫茶店に行った理由は、家で課題出来ないところから始まった。それならカフェだって図書館だってあるかもしれないが、そうではない理由は喫煙。外出るときに携帯は忘れてもタバコは確実にポケットに忍ばせてしまうほど、よっぽどの覚悟を決めないとやめられないくらいに依存してしまっている。赤いパッケージで横文字の名前に、長らくF1のスポンサーを務めるあいつにお世話になり続け、ご恩も山ほどある。そんなアイツとの思い出はまたの機会に置いといて、、、

つまり、片手にタバコ持ったまま課題出来るところを探していたってわけ。女の先輩がこの近くに喫茶店あるよって教えてくれていたのを思い出して家の近くの喫茶店へ。お店はホワイトハウス風の面構え、木のテーブルに少し煉瓦が垣間見える白壁調の内装。4人が囲めるテーブルが5つに、カウンターがある少しこじんまりした雰囲気。そして店の角やレジ横に置かれた植物がお客を囲んでくれている。へんに田舎だからか常連さんのおじさんおばさんが多い印象。人生の先輩たちが繰り広げる井戸端会議や、店で流れる80年代のポップ調の音楽が聞こえてきたあたりで、注文のためにやってくる店主のおばあちゃん。注文以外にも3ラリーほどの会話を交わしてくれた。近すぎず離れすぎずの心地よい距離感かも。あれ、

どこか似ている。

幼少期の僕は隣に住むおばあちゃんの家で暮れ方過ごしていることがたまにあった。おばあちゃん子でありながらも、週のほとんど習い事で頭も体も動かしっぱなしな自分にとって自分の家の扉から30歩ほど歩くのは物理的な事よりも遠く感じていた。緑に囲まれ、エアコンガガンガンに聞いた涼しいおばあちゃんの家は天国気分。ガミガミいうお母さんはいないし、アニメは見れるし、とびっきりはキンキンに冷えたコーヒーとアイスが出てくること。夕暮れ時ということもあっておばあちゃんは大体キッチンにいる。アイスとコーヒーで自分のテリトリーを確保し、テレビの前に陣取る僕との会話は近すぎず離れすぎずの距離感だった。

そんな風に店主のおばあちゃんを見て、遠く離れた実祖母を思い出しながら煙草に火をつけた。タバコをふかすと勢いよく煙が横に流れる。ここで気が付いたのだが、僕の座っていたテーブルの真上にエアコンがあって、自分の席にガンガンにエアコンが向いていた。ちょっと外に出ただけでひどく汗をかいてしまう僕は、ガンガンに冷えた店内に入ったところで序盤は余計に汗が出てしまう体質。汗っかきで暑がりの人ならわかると思うが、暑い夏の日に急いで電車に乗った感覚。(最近の夏は暑すぎて歩いて電車に乗り込んでもハンカチ必須。なんで涼しい所に入ったのに余計に汗出ちゃうんですかねー)そのため気づいていなかったが、エアコンガンガンスタイルも実祖母家に似ていた。

神戸の喫茶店と言えばレトロで洋風かつ少し暗めの店内を想像すると思うが、このお店はこれまでの神戸スタイルっぽくないアメリカン寄りのスタイル。日没手前の時間帯なんて、カーテンなしの大きな窓ガラスから西日がこんにちは。まぶしすぎて携帯画面が見えないくらい。いつもピラフかオムライスを頼むが、毎回おかずが違い、オムライスに至っては形が様々。お客が多い日には注文に来るまで30分ほどかかる時も。こんな店内ハプニングも、おばあちゃん一人で切り盛りしているから行き届かない感じがこのお店の愛嬌のようにも感じる。店主のおばあちゃんが醸し出すこのお店の雰囲気や心地良さ、後は少しのハプニングみたいなものが僕を常連へとしてくれたのだと思う。これはサービスというより、ホスピタリティのような感覚。この自分にとってのホスピタリティが感じられるこのお店に何度も足を運んでしまう。

このお店以外にも程よく通うお店はいくつかあるが、僕はこのお店を機に喫茶店を自分の空間の一つとして捉えている。このお店があるから自分時間が保てている。このお店から始まった喫茶店への興味は今、卒論につながっており、取材を通してライターという道につなげようと自分の未来にもつながっている。そのためにこのお店から取材を始めた。今回の投稿は取材内容を主に書こうと思っていたが、書くにあたっていろいろと思い出しなんか長くなってしまった。そのため近所の喫茶店を取材した内容は後編として次回投稿したいなーと。

写真は、自分の中で暫定1位のオムライス。ケチャップライスを包むことはなく、上に被さった生地の薄い卵。この日は多分卵足りなかったんだろうね。いつも同じメニューを頼んでしまう理由はこういうところに潜んでいるのかな。飽きがこないです。いちばん安いから頼んでいるってのは置いといて。

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