2020年広島 低迷の要因を探る
昨年オフに流出が心配された會澤翼、野村祐輔、菊池涼介が全員チームに残留し、シーズン開幕前には優勝候補と目されることもあった広島ですが、ここまで最下位と苦しい戦いが続いてしまっています。
昨年のように大型連勝と大型連敗を繰り返すジェットコースター型ではないですが、淡々と1勝2敗が積み重なっていくような形で、なかなか現状打破が見えてこない状況です。
そんな2020年広島について、優勝候補の一角と目されながらもなぜ現状のような低迷が起きてしまっているのか、以下にて考察を加えていきたいと思います。
※成績は8/2終了時点でのもの
1.リリーフ陣の崩壊
今季ここまでの戦績に大きく響いているのは、リードを守り切れないリリーフ陣にあるとといっても過言ではないでしょう。
リリーフ防御率は12球団唯一の5点台に沈み、いまだに勝ちパターンを構築出来ていない事実がリリーフ陣の崩壊をよく物語っています。
過去3年の3点差以内の接戦勝率を見ても、まだ母数が少ないとはいえ今季は.364と低い勝率に終わっており、1点差に至ってはいまだ0勝と接戦をモノに出来ていないケースが目立ちます。
加えて7回以降に逆転したケースが7度あり、そこから逃げきれたケースは3度とその後リリーフ陣が守り切れないケースが目立つあたり、白星を掴み切れない弱さがそのまま順位に響いてしまっているところは否定できません。
ここに関しては、リーグ3連覇という偉業を成し遂げた中で、勝ち試合が増えることで勝ちパターンに組み込まれた投手の稼働が増え、劣化が早まってしまったという側面もあります。
中崎翔太、今村猛、フランスアはその最たる例と言えそうです。
しかし、そんな事情がありながらも、上記noteに記したように、リリーフ運用についてはしっかりした管理がなされていたわけではないため、いくらリリーフ投手に消耗品という側面が強いとはいえ、少々後悔の残る部分です。
2.守備走塁レベルの低下
ここまでチーム防御率がリーグ5位の4.46と失点の多さが目に付きますが、それはひとえに投手陣だけの責任ではなく、野手陣にも責任の一端はあります。
というのも、かつては強みともなっていた守備力が、今では投手陣の足を引っ張るレベルに落ち込んでいるからです。
年度別のチームUZRの推移を見ると、実はリーグ3連覇を果たした2018年頃から低下傾向にあり、今季は更にその傾向が顕著です。
中でも目立つのが、田中広輔と菊池涼介で構成される守備陣の要である二遊間のポジションの守備力低下です。
抜群のコンビ力による併殺完成力の高さは健在ですが、田中は2019年、菊池は2015年、2016年に膝に故障を抱えていた過去があり、加齢とともに守備範囲が狭まることで今季ここまで両者のUZRはマイナスとなるなど、厳しい数字が並んでいます。
加えて、1Bで平均的な守備力を見せていたバティスタが契約解除となり、守備範囲やスクーピング能力が高いとは言えない松山竜平が1B専任となったことによる、内野全体への波及効果もあると考えられます。
以上のような守備力の低下のためか、ゴロ性の打球のDERは12球団中ワースト2位の.714を記録しており、多くイニングを消化する先発陣にゴロを打たせる投手の多い広島にとって、ゴロでアウトを稼げないことが非常にマイナスに働いています。
Hard%が過去5年でワーストと、投手陣側の責任がないとは言い切れませんが、守備力の低下も一因には挙げられるでしょう。
ここまでジョンソンや床田が苦しんでいますが、彼らの投球だけに問題があるわけではなく、守備力の低下に足を引っ張られている側面もあることは否定できないはずです。
守備力と合わせて低下の傾向が見られるのが、かつての広島の高い得点力を支えた走塁面です。
3連覇時は「タナキクマル」トリオや鈴木誠也らを中心に走塁指標のUBRで高い数値を叩き出し、常に攻撃のバリエーションの多い一三塁のシチュエーションを作り出せることが、高い得点力の根底にありました。
しかし、今季は脚力低下の影響か田中、菊池ともにマイナスを記録し、コンディション不良の影響からか西川も大幅なマイナス、脚力は高いはずのピレラもマイナスを記録するなど伸び悩み、-7.5という数値は両リーグワーストの数値です。
主力選手の脚力の衰えや、全ての選手が次の塁を狙う意識を持っていた3連覇時からの意識の後退が、このような結果を招いてしまっているのでしょう。
3連覇時は高い打撃力のみならず、走塁力と守備力も併せ持った、高い野手力で他球団を圧倒していきましたが、今では打撃力しか残されていない状態なのです。
3.得点効率の上がらない作戦/打順構成
上記にて打撃力しか残されていないと記しましたが、その打撃力も上手く得点という形に結び付けられていません。
チーム打率は両リーグトップの.281、wRC+では巨人に肉薄するリーグ2位の数値を残しながら、総得点では巨人だけでなくヤクルトも下回っています。
東京ドームや神宮といったヒッターズパークを本拠地としているという面はあるにしろ、かつてはそんな巨人やヤクルトを大きく凌ぐ圧倒的な得点力を見せていたため、そこは言い訳に出来ないのではないでしょうか。
このように打撃力を上手く得点という形に昇華できていないのは、犠打の多用に代表される得点効率の上がらない作戦の多用や、中軸に得点圏で多くの打席を回せない打順構成にあると考えられます。
以前も犠打数は常にリーグ1位を記録するなど、犠打は多用されてきましたが、それは少々得点が少なくともそれを守り切れるだけの投手陣に代表されるように相対的な戦力的優位が背景にあり、今季とは状況が違います。
今のチームには少しでも得点を多く奪い、投手陣を楽にする必要があるため、状況によりますが得点期待値は落ちてしまう犠打は極力減らして、より得点を奪える作戦を貫いてもらいたいところです。
加えて打順構成の歪さのせいか、中軸に最も多くの打席を回したい得点圏での打席数配分に異変が生じています。
今季ここまで最も得点圏打席数が多いのが、主に8番を打つ田中となっており、チーム内で最も良い打者である鈴木誠也の前に最も多く打席を回せていません。
このために得点数が思いのほか伸び悩んでいるところはあるはずなので、佐々岡監督も様々な打順を試行していますが、今後は鈴木誠也や堂林翔太にどれだけ得点圏で打席を回せるかを念頭に置いた打順構成を期待しています。
4.先を見据えすぎたドラフト
今季ここまでの低迷は投手陣に拠る部分が大きいですが、このような事象を招いた裏側として、近年のドラフトで素材型選手を多く確保したことにあります。
2014年以降のドラフト獲得投手を見てみると、素材型として高卒投手の確保のみならず、大学リーグ戦通算登板2試合の薮田和樹や、投手経験が高校からの岡田明丈、ケムナ誠など大学生とはいえ素材型に近い投手を多く獲得しています。
その薮田や岡田は2017年に二桁勝利を挙げるなど、一時的に活躍を見せましたが長くは続かず、いずれの投手も継続的な活躍は出来ていない状況です。
直近で獲得した投手の戦力化が遅れていることによって、戦力の入れ替えが出来ずに現有戦力の疲弊が進むことで、投手力が低下してしまっているのです。
90年代から00年代にかけて、15年連続Bクラスに沈むなど長い暗黒期を過ごした広島ですが、この長期低迷に入る以前には、上記noteで指摘したように素材型偏重ドラフトを敢行し見事に失敗。
その結果、投手陣の足並みが揃わず投手力の低下を招いてしまったという歴史があります。
現在生じている事象も、上記と似たような軌跡を辿っており、「育成の広島」を自ら過信しすぎている感は否めません。
幸い逆指名制度はもう存在しないため、かつてのようなことにはならないでしょうが、素材型投手を特段多く育成しきった実績もなく、歴史的に主力投手は大卒・社会人が多いという事実に目を向け、素材型偏重にならないバランス感覚を持ってもらいたいところです。
データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
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