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2020年広島のドラフトを振り返る

先日行われた2020年ドラフト会議にて、広島は育成を含め全7選手の指名を行いました。
当日のスポーツ紙の1位指名予想が珍しく割れるなど、直前まで早川隆久なのか栗林良吏なのか分からない展開でしたが、ふたを開けてみれば栗林の単独指名に成功。
その後も今年大きな課題となった投手陣再建のために、5位まで投手が並ぶ投手偏重のドラフトとなりました。

3位まで1年目から一軍での稼働が期待できる投手が並び、それも制球に大きな破綻のなくまとまりのある投手を獲得したのは、中々投手の育成が上手く運んでいないチーム状況を如実に表しているとも言えましょう。

そんな2020年ドラフトについて、以下にて球団の指名の意図や補強ポイントとの合致具合、加えて指名選手がどのような選手なのかについてまとめていこうと思います。

補強ポイント整理

まず補強ポイントを簡単に整理しておくと、THE DIGESTさんに寄稿させて頂いた上記記事に記したように、下記2点が大きな狙いどころとなります。

①先発・リリーフ両方で即戦力投手を指名
②長打力を秘めた右打ちの高校生を指名

本来なら投手陣の中心となっていてほしい、薮田和樹、岡田明丈、矢崎拓也といったドラフト上位指名組が揃って継続的な戦力とならず、アドゥワ誠や遠藤淳志といったより下の年代の投手が早々に一軍でリリーフとして稼働せざるを得なかったことに代表されるように、腰を据えた育成が中々出来ない状況にありました。
加えて、3連覇による各投手の勤続疲労もあり、中崎翔太、大瀬良大地、野村祐輔がシーズン中に手術を受けるなど、絶対的に投手の数が足りない事情もありました。

上記状況を鑑みると、先発・リリーフともに即一軍である程度投げられる投手を複数枚獲得し、一軍投手陣の層を厚くすることで、単純に戦力アップ+若手が一軍に早期出荷にならない環境作りが期待できます
ですので、現在将来どちらを考えても、ここは確実に埋めたいマスト補強ポイントと言えましょう。

2018年のドラフトにて、小園海斗ら高卒内野手を多く獲得したことで、多くの野手プロスペクトの補充に成功しましたが、唯一足りないポイントが、右打ちの大砲候補でした。
小園、林晃汰、羽月隆太郎、大盛穂、宇草孔基、木下元秀など左打者は質・量ともに充実していますが、右打者に目を向けると、中村奨成、中神拓都、正隨優弥といずれの打者も二軍ですら大きな成果が出ておらず、少しトーンダウン感は否めません。

加えて、1B/3Bといったコーナーを守り長打を期待できる選手が、左の林や木下のみという事情も見ると、右打ちの大砲候補を補充して、バランスを整える必要性があると言えそうです。
幸い今年のドラフトには、井上朋也や元謙太といったこのポイントに合致する選手もいたため、このあたりの選手が獲得できれば言うことなしという状況でした。

1位:栗林良吏 投手 R/R トヨタ自動車

栗林良吏

指名意図:即戦力として先発陣の強化

選手紹介:空振りの取れるストレートと、カット/カーブ/チェンジアップを投げ分ける森下にひけを取らない総合力を持つ投手

アベレージ140㎞前半~中盤の球速帯ながら、上から投げ下ろす分ホップ成分が強めで空振りを奪えるストレート、130㎞中盤でスッと縦に落ちるカットボール、スピンの効いたカーブ、左打者からは逃げていくように落ちるフォークという球種を持つ、社会人No.1投手の呼び声高い投手です。
若干左右にボールが暴れるきらいがあるのは気になりますが、制球が大きく破綻しているわけではないので、大きな問題にならないのではないかと思います。
イメージとしてはストレートの球速帯と両サイドのコマンドを少し落とし、抜けの良いチェンジアップが落差のあるフォークに変わった森下というと想像しやすいでしょうか。

球界のトレンドに則った、ストレートはホップさせて変化球は高速で縦に落とす投球の出来る投手で、既にリーグを代表する投手たちとそん色ない成績を残す森下と同等の活躍とまでは難しいでしょうが、1年目から新人王も狙える活躍は可能でしょう。

ただ一つ怖いのは、似たようなアームアングルの投手がチーム内に多く、かつ177cmと身長も高くないことからその他の投手よりも縦の角度がつかないことで、相手球団からすると相対的にそこまで打ちづらさを感じないかもしれない点です。
ここさえクリアすれば、何の問題もなくローテで回っていけるだけの投手です。

2位:森浦大輔 投手 L/L 天理大学

森浦

指名意図:先発・リリーフどちらもこなせ、チームにいないタイプの左腕の確保

選手紹介:制球力とスリークォーターから繰り出すストレートとチェンジアップが持ち味の好左腕

最近の投球動画がないため、現時点でどのくらいのボールを投げるのかは分かりませんが、出所が見づらく低めのアームアングルからストレート/スライダー/チェンジアップを投げ分ける左腕投手です。
スカウト評を見るとチェンジアップの評価が高く、その通りであるなら右打者も苦手としないタイプと見れそうです。

直近の秋のリーグ戦の成績を見ると、39イニングで52奪三振/6四死球/防御率0.69と圧巻の成績を収めており、3年秋までのK/BB2.29から8.67まで大きく成績を伸ばしている点は支配力が増した点は非常にポジティブに捉えられそうです。

低めのアームアングルの左腕というとチームでは塹江敦哉が近い存在ですが、ストレートとスライダーで押していくパワー系の投球スタイルは森浦とは異なるため、広島にいないタイプの投手と言っても問題ないでしょう。
大学では先発をこなしていますが、嘉弥真新也、中川皓太、大江竜聖に代表されるように近年左腕でアームアングルの低い投手のリリーフとして活躍が目立っていることから、トレンドに則ってリリーフでの起用も考えられます
細身な点が少し心配で、体力的にいきなり一軍で即バリバリ投げるという形にはならないでしょうが、身体を作り140㎞中盤を常時記録できるところまで出力が伸びれば、戦力になってくれる姿が想像しやすい投手でしょう。

3位:大道温貴 投手 R/R 八戸学院大学

大道

指名意図:まとまりがあって育成しやすい将来の先発候補の補充

選手紹介:今秋成長を見せるまとまりのある本格派右腕

外れ1位候補にも名前が挙がっていた投手で、Max150㎞のストレートを軸に縦に鋭く落ちるスライダー/カットボール/カーブ/チェンジアップを投じる本格派の右腕です。
この手の奪三振能力の高い投手にありがちな制球難ということはなく、制球は比較的安定している印象で、現時点で非常にまとまりがある投手のように見えます。

成績的には森浦と同様に、この秋に7回参考ノーヒッターや1試合18奪三振を記録するなど、こちらもK/BB2.38→6.67と大きく成績を伸ばしており、コロナ禍で練習が様々に制限される中でも成長を見せてきたのは、素直に称賛に値します
プロ入りに備えて、あえてフォークでカウントを奪いに行くなど、上のステージを見据えてレベルアップを図る向上心も非常にプロ向きと言えそうです。

この秋成長は見せているものの、現状はよくいるタイプの右投手で、何か突き抜けたものがあるわけでもないため、今すぐプロの打者相手にバリバリ通用するかは疑問符が付くところです。
ですので即戦力としては大きな期待はかけられませんが、これまで多く獲得してきた制球に苦しむ素材型の投手とは違い制球力に大きな破綻がないため、肉付けして球速を上げていけば、確実に戦力になってくれそうな投手です。
現時点でも、広島の投手陣の層であれば一軍入りは狙えるでしょうが、将来性もある素材なので、少し長い目で見てあげる必要はあるかなと思います。

4位:小林樹斗 投手 R/R 智弁和歌山高校

小林樹斗

指名意図:将来性に優れた投手の補充

選手紹介:上位指名候補にも挙げられていた高品質なストレートが武器のリリーフ型右腕

こちらも外れ1位候補にも名前が挙がっていた選手で、ホップ成分の強い常時140㎞後半のストレートを軸に140㎞弱のカットボールやフォークにスライダーを混ぜてくる、非常にレベルの高い投手です。

この投手の良さは何といってもストレートの質の良さで、既に140㎞後半~150㎞の球速帯を誇りながら空振りも奪えるだけの質を備えており、プロでも通用するレベルのボールではないでしょうか。
ただ変化球の精度はまだまだで、カットボールやフォークといったボールは140㎞前後を記録するものの、縦変化が弱くプロレベルで空振りを奪える代物かというと疑問符を付けざるを得ません
この部分さえ克服できれば、制球が荒れるタイプでもないため、単純なボールだけ見るとプロでも十分に通用していきそうです。

公式戦ではリリーフ登板が主で、短いイニングで力を発揮するようなタイプのようなので、広島がどのような育成方針で育成していくのかは分かりませんが、最終的にはリリーフに行きつくのではないかと思います。
上記のようにボールだけ見ると、プロの中に混ぜてもそん色ないレベルにあるので、比較的早い段階で戦力になる可能性が高いのではないでしょうか。

5位:行木俊 投手 R/R 徳島インディゴソックス

行木

指名意図:将来性に優れた投手の補充

選手紹介:今年一気に球速を10㎞以上伸ばした潜在能力抜群の右腕投手

あまり名前が知られた存在ではありませんでしたが、この夏に140㎞前後だった球速をMax150㎞を記録できるところまで引き上げ、その底知れぬ潜在能力も評価されてか支配下での指名となりました。

徳島インディゴソックスの解説記事によると、持ち球はストレート/縦割れのカーブ/スライダー/チェンジアップのようで、特にチェンジアップは来ない系のタイプでチームメイトも魔球と評する代物のようです。
そして成績から見える特徴としては、奪三振率が低い一方四死球を出すことは少なく、ゴロアウトが非常に多いことから、ゾーン内で垂れるタイプのストレートや変化球を集めていくスタイルであることが何となく窺えます。

投手のタイプとしては、チームメイトとなるアドゥワ誠のような垂れる系のストレートとチェンジアップの軌道偽装で打ち取っていくタイプなのでしょう。
ホップ系のストレートを投じる投手の多い広島投手陣の中で、行木のような球筋の投手は異質で良いアクセントと成り得る存在と言えそうです。
まだ20歳と若く身体も出来上がっていないため、ここから更なる出力向上が図れれば、非常に面白い投手ではないでしょうか。

6位:矢野雅哉 内野手 R/L 亜細亜大学

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指名意図:現チームにいない守備力特化の内野手で、小園、羽月、韮澤らSS/2Bがメインの選手への競争煽り

選手紹介:打撃に非力さはあるものの、俊足強肩から繰り出す守備は一級品のSS

支配下指名では唯一の野手で、173cmと小兵ながら50m5秒9/遠投128mと高い身体能力を持ち、生田監督が「井端以上の逸材」とも称する高い守備力が持ち味の選手です。
多少粗さはあるものの、深い位置からでも走者を刺せる強肩は非常に魅力的で、プロでも守備の名手と呼ばれる素養は十分あるように見えます。
同じようなタイプの菊池涼介がチーム内にいるため、そこから様々なものを吸収してもらいたいところです。

ただリーグ戦で首位打者も獲得したこともある打撃面は、逆方向にゴロをとにかく転がそうとするように見受けられ、コンタクト力は高いものの力強さはまるで感じられません
より強いボールが増えるプロでは、最初打撃面苦労しそうですが、追い込まれるとノーステップ打法に変え、構えを小さくすることや選球眼の良さから四球は選べるため、簡単にアウトを提供する打者でない点には希望を持てます
プロでは時に力強く引っ張るということを身に付けられれば、相手の攻め方も変わってより打撃面でも成績を残せるようになるはずです。

イメージは日本ハムの中島卓也ような、高い守備力と出塁能力を誇るバックアッパーといったところでしょうか。
SSには田中広輔、2Bには菊池が君臨しており、小園というトッププロスペクトもいますが、特にSSではUZRがリーグ5位と守備力の低下が著しいため、しっかり高い守備力を発揮できれば早々に一軍への定着も期待できるでしょう。

育成1位:二俣翔一 捕手 R/R 磐田東高校

二俣

指名意図:右打ち野手の強化

選手紹介:捕手ながら強肩と俊足を兼ね備え、SSや投手もこなせる万能プレイヤー

松本スカウトが「中村奨成以上」と評する強肩が持ち味の選手で、1年時はSSを務めたりこの夏も1番に座るなどスピードも兼ね備えた選手です。
特に二塁送球が1.8秒を切り、投手としてもMax146㎞を叩き出す強肩ぶりはプロでも十分武器となりそうな気配があります。

高校通算21本塁打を誇る打撃面は、上記動画中では上手くタイミングが取れておらずイマイチ捉えきれてないように見えますが、打撃フォームに変な癖はなく早めのトップに入る形は作れており、木製バットにも対応できているようなので、変にフォームを弄らなくともそれなりに打てるようになるのではないでしょうか。

今回の指名は捕手としてですが、昨年も石原貴規と持丸泰輝の2名を指名し、その上には會澤翼、磯村嘉孝、坂倉将吾、中村奨成と飽和状態のため、強肩俊足で1年時はSSを務めていたとなると、早々にコンバートされることも考え得る選択肢でしょう。
捕手でそのままいくにしろコンバートされるにしろ、ライバルが非常に多い状況下になりますが、持ち味の強肩とともに打撃面を素早くプロレベルに適応させることで、支配下登録への突破口を探っていってもらいたいところです。

まとめ

最後に補強ポイントへの合致度を振り返っておくと、①先発・リリーフ両方で即戦力投手を指名については、栗林・森浦・大道と開幕一軍を意識しながら、先発・リリーフどちらもこなせる投手を3枚確保出来たので、ここはしっかり合致していると言えそうです。

一方、②長打力を秘めた右打ちの高校生を指名については、井上朋也や元謙太が早々に他球団に指名されたことから獲得はならず、右打ちの野手自体も育成で二俣を指名するのみにとどまりました。
ですので、この点についての補強については来年以降に持ち越しとなりそうです。
鈴木誠也のMLB行きが近付く中で、早めにその後釜を担えそうな選手が欲しかったところですが‥

全体的には、右打ちの長距離打者候補こそ確保できなかった点は残念ですが、確実に戦力となりそうな投手を複数枚確保するなど、投手陣の層の底上げを強く意識したドラフトで、弱点の穴埋めはしっかり出来たという印象です。
昨年までのドラフトは即効性というよりも、未来への投資の意味合いが強かったように思いますが、今年はどちらかというと即効性を重視したのを見るに、未来への投資に寄りすぎないようにバランスを取ることを意識したのではないでしょうか。
このような点からも、個人的には良いドラフトではないかと思いますし、あとは指名した選手たちが、広島という球団で自分の力を発揮できることを祈るのみです。

総括については、展望記事と同様にTHE DIGESTさんに寄稿させて頂いたので、こちらも併せてご一読頂ければと思います。

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