見出し画像

2020年広島クローザー問題を考える

広島のクローザーと言うと、まず最初に名前が挙がってくるのが、2015年から2019年途中までクローザーを務め、通算でも115セーブを挙げている中崎翔太でしょう。

その中崎ですが、昨年は勤続疲労による球速低下が顕著に現れ、6月にはクローザーに座をフランスアに明け渡し、オフには右ひざの手術を行うなど苦しい一年となりました。今年も既に実戦復帰は果たしているものの、一軍のクローザーを任せられるほどの投球クオリティーまで戻せるかは疑問符が付くところです。

といった点から、おそらく2020年の広島のクローザーは中崎以外の投手が務めることとなりそうですが、現時点で候補に挙がっている投手たちがいずれも実戦でパッとしない成績に終始しており、いまだクローザーが確定していない状況です。

そんな状況の中、果たして誰がクローザーを務めるのがベストなチョイスとなるのかについて以下にて考えていきます。

1.クローザーの条件

誰をクローザーに据えるのがベストなのかを考える前に、まずクローザーに最も適合するのはどのような投手なのかについて、一度整理しておきたいと思います。

①野手に依存しないアウト奪取
②ゾーンの広さを生かせる制球力
③勝敗を一身に背負う重さを受け止められる精神力

私の考えるクローザーの条件としては、以上の3点となります。

まず①の野手に依存しないアウト奪取については、僅少差のリードを守るのがクローザーの役割と考えると、極力リスクを減らしながら打者を打ち取りたいと考えるのが普通でしょう。そのような観点から見ると、打球を取って一塁に送球するというステップを踏むゴロ性の打球は、野手の関与する機会が多いため、失策等のリスクが高いと言えます。一方、三振やポップフライはゴロ性の打球と比較しても野手の関与は少ないため、リスクは相対的に低いと言えましょう。

よって、奪三振能力が高く、かつフライボーラーがクローザーには適任と考えられます。これが出来ている投手の例を挙げると、藤川球児や松井裕樹らが該当します。

続いて②のゾーンの広さを生かせる制球力ですが、上記リンク中のDELTA社の研究によると、セーブシチュエーションでのストライク判定率はゾーン境界付近で上昇を見せているようで、球審はより守備側に優位な判定を行っているとの結果が出ています。という結果を鑑みると、広くなったゾーンを利用しない手はないわけですが、そのためにはきわどいコースに狙って投げ込めるだけのコマンド能力が必要となってきます。この能力があれば、当然ストライクカウントを稼いで優位に対戦を進められますし、見逃し三振を奪うケースも増えていくため、より打者を打ち取りやすくなることは間違いありません。

ということから、ゾーンいっぱいに投げ込めるコマンド能力の高さもクローザーに必要な条件と言えそうです。これが出来ているの投手の例を挙げると、森唯斗や中崎翔太、かつての岩瀬仁紀なんかも該当するでしょうか。特に横幅のゾーンが拡大するイメージのため、横変化で揺さぶり制球に優れる投手に有利に働きそうです。

最後に③の勝敗を一身に背負う重さを受け止められる精神力ですが、これはクローザーに普遍的に必要な要素でしょう。チームの勝敗を左右するポジションですので、どうしても精神的な負荷が大きくなっていきます。ですので、その負荷と上手に折り合いを付けられる投手でなければ、自身の投じるボールにも悪影響が出てしまうことになってしまいます。ですので、重圧を真正面から受け止めようとする投手はあまり向いていないのかもしれません。

という点から、重圧と上手に付き合うのもクローザーとして必要な能力の一つと言えそうです。

以上の条件を中心に、広島の現時点でのメンバーの中で誰が最もクローザーに適しているのかについて考えていきます。

2.各投手別分析

各種報道を見る限り、現時点でクローザー候補として考えられている投手は、フランスア、DJジョンソン、スコットの3外国人です。

上記3名に、実績十分でセットアッパー候補には入ってきている一岡竜司も加えた4名をクローザー候補と考え、各投手ごとにクローザーとして適任なのかを明らかにしていきます。

①フランスア

クローザー候補一番手として挙がってくるのが、昨年中崎に代わってクローザーを務めて12Sを挙げたフランスアでしょう。しかし、ここまではなかなか球速が上がらず、かつ体調不良に陥ったこともあり調整が順調に進んでいるとはとても言い難い状況です。

そんな出遅れ状態のフランスアですが、昨年の成績を基にすると、支配的なボールを投じており、クローザーに相応しい威力を誇っています。

画像1

画像2

三振奪取力やフライが多いのかゴロが多いのかといった打球性質について、上記のような表でまとめてみました。K%30.5とリーグ平均と比較しても明確に奪三振能力が高く、かつFB%の高いフライボーラーという性質を持っていることも分かります。

球種別の成績を見ても、NPB平均6.8%を大幅に上回る13.2%を記録し、空振りを奪えるストレートに加え、NPB最高峰の切れ味を誇るチェンジアップという決め球を持っていることがよく分かると思います。以上より、クローザーの条件①はクリアしていると言えそうです。

ただBB%はリーグ平均以上の数値となっており、ストライクゾーンの横幅を上手に使うだけの制球力には欠けているため、クローザーの条件②はクリアしているとは言い難いでしょう。

最後にクローザーの条件③については、成績面で推し量るのは難しい部分ですが、一つ客観的な数値を挙げることが出来ます。それはセーブ失敗の数です。昨年のフランスアは、19度のセーブシチュエーションで実に7度の失敗があります。さすがにこれだけ失敗が多いと、精神面がクローザー向きではないと捉えられても仕方がないでしょう。その他要因としては、エンジンがかかるまで時間がかかることや、ストレートが多すぎる配球も挙げられるでしょうが、精神面も多少なりとも失敗の多さには絡んでいると考えられます。ということから、③もクリアしているとは言えない状況です。

以上よりフランスアについては、
①野手に依存しないアウト奪取→○
②ゾーンの広さを生かせる制球力→×
③勝敗を一身に背負う重さを受け止められる精神力→×
となります。

②DJジョンソン

続いて候補として名前が挙がるのが、パワーカーブが持ち味の新外国人投手・DJジョンソンでしょう。しかしここまではOP戦以降6度の登板機会で3本の本塁打を浴び、計6失点と思うような成績は残せていません。現時点では開幕一軍すら危うい立場にいます。

そんなDJジョンソンについて、以前上記noteにてその特徴をまとめたのですが、アメリカ時代の投球の特徴としては、ゴロを打たせることに長けた投手でAAAでは30%を超えるK%をマークするなど奪三振能力にも優れていました

画像3

画像4

以上を踏まえて、ここまでの日本での投球はどうなのか確認してみると、K%とBB%は平均以下の数値に止まっています。持ち味のパワーカーブも空振り率2.6と全く機能しておらず、加えてSwStr%(空振り率)も平均を大幅に下回り、ゴロ率が高いという数値を示していることから、クローザーの条件①はクリアしているとは言えません

BB%の高さから制球力が高いタイプではないですし、投球スタイルもパワーカーブやチェンジアップといった縦変化で勝負していくタイプのため、横幅を使う投球スタイルでは決してないということから、クローザーの条件②もクリアとはなっていません

最後のクローザーの条件③ですが、DJジョンソンのクローザー経験を確認すると2018年にAAAで18セーブを挙げた経験があります。セーブ成功率は確認できないため、フランスアと同じようにして精神面がどうなのかを推し量ることは出来ませんが、全くの未経験でもなく二桁セーブを挙げた実績があると考えると、精神面での適性が皆無とは考えづらいと思います。ですので、○とも×とも言えないその中間の△としたいと思います。

以上よりDJジョンソンについては、
①野手に依存しないアウト奪取→×
②ゾーンの広さを生かせる制球力→×
③勝敗を一身に背負う重さを受け止められる精神力→△
となります。

③スコット

対外試合が始まって以降、苦境に陥るリリーフ陣の中で、良い意味で最も印象的な投球を披露しているのが続いての候補であるスコットです。ここまで7試合の登板で防御率は2.86をマークし、被打率も.160と対戦打者をしっかりと封じ込められています。周囲の状況もあり、単純な成績面だけを見れば、クローザー候補一番手と言えそうです。

スコットについても、DJジョンソンと同様に以前上記noteにその特徴をまとめましたが、ゴロ系の投手でAAAではK%30%越えというのはDJジョンソンと共通の要素です。大きく異なる点は、DJジョンソンのパワーカーブに対し、スコットは縦に割れるスライダーがマネーピッチという点になります。

画像5

画像6

以上の要素も踏まえ、日本でのここまでの投球を振り返ると、ここまではK%29.6とフランスアにも匹敵する高い奪三振能力を示しています。またアメリカ時代と同様に強めのゴロ系投手の傾向が出ており、球種別ではアメリカでも有効だったスライダーが空振り率35.8と魔球レベルの数値を叩き出しています。ゴロ系ながらも奪三振能力が高く、決め球となるボールも持っていることから、クローザーの条件①は完全に○とは言えませんが○に近い△と言えるでしょう。

決して細かい制球力があるとは言えませんが、破綻しているわけではなく、スライダーとツーシームという横の変化で揺さぶっていく投球スタイルということから、ゾーンの横の広がりを生かせそうなため、クローザーの条件②についても×とは言えず△と言えるでしょうか。

最後の条件③については、過去のマイナーでの成績を振り返ってもクローザー経験はあまりなく、シーズン二桁セーブを挙げた実績はありません。ということから、過去の成績から客観的に確認することは出来ないため、③についても△となるでしょうか。

以上よりスコットについては、
①野手に依存しないアウト奪取→△
②ゾーンの広さを生かせる制球力→△
③勝敗を一身に背負う重さを受け止められる精神力→△
となります。

④一岡竜司

最後に候補として挙げておきたいのが一岡竜司です。過去に専任クローザーを務めた経験はありませんが、3年連続で防御率2点台以下を記録するなど、その安定感や実績は現リリーフ陣の中では抜群で、クローザーを務めるとなっても完全なサプライズ起用という感じでもありません。ここまでの実戦では、ストレートの威力は取り戻しつつあるものの、防御率5.40と振るわない成績となっています。

画像7

画像8

一岡の投手としての特徴を、昨年の投球成績ベースで確認しておくと、K%は13.5と非常に低い数値に止まっています。2018年はK%25.6を記録していたため、大幅に奪三振能力が低下しているのは気になるところです。ただフライボーラーで昨年の被本塁打は1本に抑えられている点は、クローザー向きと言えそうです。球種別では、フォークの空振り率が9.7と前年の21.8から大幅に低下しています。このフォークが空振りを奪えるレベルまで戻すことが出来れば、奪三振能力も向上するはずです。以上より、クローザーの条件①はフライボーラーながら奪三振能力が低いということで、△となります。

ノビのあるストレートとフォークが中心の投球スタイルということから、縦変化で勝負していくため、クローザーの条件②は×となりそうです。制球力が低いわけではないために、カットボールをスラッター化して活用出来れば、横変化を生かす投球スタイルも模索出来そうですが‥

最後の条件③については、前述の通り過去に専任クローザーの経験はありません。過去数度あるセーブシチュエーションでの登板で、失敗した経験はないため、精神面でそこまで大きな問題はないと考えられます。ただ専任だとまた変化もあるでしょうから、③については未知数ということで△としたいと思います。

以上より一岡については、
①野手に依存しないアウト奪取→△
②ゾーンの広さを生かせる制球力→×
③勝敗を一身に背負う重さを受け止められる精神力→△
となります。

3.結局誰が適任なのか?

クローザーの条件3点を中心に、クローザー候補と考える4投手をそれぞれ確認していきましたが、○を2点、△を1点、×を0点としてそれぞれ採点してみると、下記の通りとなります。

フランスア:2点
DJジョンソン:1点
スコット:3点
一岡竜司:2点

ということで、現時点でクローザーに最適な投手は、ここまでの成績面から考えると言わずもがなでしょうが、スコットとなります。現時点でスコットをクローザーに据えることへのリスクは、ゴロ性の打球が多くなりアウト奪取を野手に依存するケースが増えることくらいですので、クローザーに据えることは全く問題ないでしょう。

あとは、フランスアの復調やDJジョンソンが日本に適応するのを待ち、彼らがセットアッパーとして活躍すれば、勝ち試合をポロポロと落とすことはないはずです。

開幕がいつになるのかいまだはっきりしない中、万全な調整とはなっていない広島リリーフ陣にとっては時間が出来たとポジティブに捉え、開幕にはここで挙げた投手たちが十分調整出来た状態でクローザーを争っていてほしいものです。

データ参照:スポーツナビ一球速報
      2020 プロ野球オール写真名鑑
      1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #クローザー #フランスア #DJジョンソン #スコット #一岡竜司 #2020年

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?