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ケビン・クロンは広島を優勝に導く使者となれるか?

先日、広島の新外国人獲得の発表があり、1Bをメインポジションとするケビン・クロンと、リリーフがメインのドヴィダス・ネブラウスカスの2名が来年からチームに加わることとなりました。

特にクロンについては、日本球界入りの一報が流れてからは、広島入りも噂されましたが中々移籍先球団が発表されず、ファンをやきもきさせましたが正式に発表され、待望の長距離砲加入に歓喜の声を上げたファンも多いかと思います。

そんなクロンについて、本noteではMLB時代のデータから、NPBで通用する可能性についてや、3年ぶりのリーグ制覇を目指す広島の力になれるのかについて、以下にて考察していきたいと思います。

1.打撃成績から適応性を探る

195cm/113kgの立派な体格から繰り出される圧倒的なパワーが持ち味で、動画中にある本塁打を見ても、センターから逆方向にも大きな打球を飛ばしており、飛距離は目覚ましいものがあります。
フォーム自体もシンプルかつスムーズで、AAA時代の成績を見ても非常に期待できる、素晴らしい打者と言えそうです。

・基本成績

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直近3年の打撃成績を見ると、今年はマイナーが開催されずMLBの成績のみで20打席ノーヒットという数値が並んでるのみですが、一昨年と昨年はAAAでもMLBでも非常に高い長打力を発揮しています。
特に昨年AAAで記録したISO.446は、2013年にNPB新記録の60本塁打を放ったバレンティンが記録した.449とほぼ同水準で、その長打力の凄まじさがよく分かるかと思います。

その一方で、長打の多さとトレードオフ的に三振が多くなっており、MLBでのK%は35%超えと3打席に1回以上は三振を喫している計算です。
基本的にこの辺りの傾向は変わらないことを考えると、首脳陣やファンは三振の多さには目をつぶる必要がありそうです。

・StatCastデータ

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MLBらしくStatCastにより取得されたデータを見てみると、打球速度はおおよそ平均的(MLB平均88.3mph)ですが、スラッガーらしく打球角度は高め(MLB平均11.9°)で、8割以上が安打になるとされる打球速度158㎞以上打球角度30°前後のバレルゾーンに飛ばした確率を示すBarrel%は、2019年に22.7%を記録しており、MLB平均の6.4%を大きく上回っているところを見ると、まともに当たれば凄い当たりを飛ばすロマン砲のような趣を感じさせます。

・左右投手別成績

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左右投手別の成績では、サンプルの多いAAA時代のものを参考にすると、左投手との対戦時の方が三振が減り四球も増えているのが特徴です。
右投手との対戦時は三振増に四球減とアプローチは悪化しますが、しっかり長打は出ているため、そこまで心配する必要はないのではないでしょうか。

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おそらく右投手との対戦でアプローチが悪化するのは、この2019年のコース別Whiff%(空振り数/スイング数で算出される空振り率)を見ると分かるように、アウトローに投げ込まれるとお手上げ状態なのが最大の要因なのでしょう。
インサイドの真ん中から低めにかけても弱いですが、マイナーの左投手ではこの辺りにコマンドよく変化球を投げ込める投手が多くなかったために、三振を喫する数はそこまで多くなかったのではないでしょうか。
ただ日本人の左投手は、右打者に対してインサイドを突くことを生命線とする投手が多いため、マイナー時代のように左投手対戦時に無双は出来ないかもしれません。

・球種別成績

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MLB時代の球種別成績を、速い系、曲がる系、落ちる系に分類したものを見ると、昨年は平均球速が150㎞を超えるMLBレベルでも、ストレートには対応を見せており、長打率.795とxwOBA.459は驚異的な数値です。
NPBに多い140㎞~150㎞の間の球速帯に絞ってみても、22打数で8安打を記録しそのうち4本が本塁打と、この辺りの球速帯は高い確率で捉えられており、かつ確実に長打にするところは見せているので、ストレート系を潰すことは何ら問題はなさそうです。

ただ問題が変化球への対応で、特に曲がる系に対してはMLB2年で打率.065とまともに捉えられず、空振り率も62.0%と振れば空振りという状態です。
スラッガータイプの外国人に対しては、おそらく最初から外のスライダー等で誘ってくる攻めが予想されるため、ここを我慢できるか否かがNPBでの成否の分岐点となるのではないでしょうか。

・打球傾向/打席内アプローチ

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打撃面ラストは打球傾向/打席内アプローチとなりますが、GB/FBは常に1を切る数値で、スラッガーらしくフライ性の打球の多さが目につきます。
打球方向では、2019年のMLBではPull%が45.5%(MLB平均36.5%)とプルヒッターの様子が窺えますが、AAAでは引っ張りに偏らずセンターにも打ち返せているので、NPBでも引っ張り方向+センターへの打球が多くなるのではないでしょうか。

スイング率やコンタクト率はMLB時代の数値しかありませんが、MLB平均が46.6%の中過去2年は50%超えと、それ以上にスイングを仕掛けていることから、積極的にスイングを行う打者であることが分かります。
そしてスラッガーらしくコンタクト率は60%台と、MLB平均の75.3%からは大きく下回る数値となっていることから、積極的にスイングを仕掛けて投手に恐怖心を与えながらも、ボールにバットが中々当たらない状態のようです。
加えて、ボール球に手を出すケースも多く、MLBでもまだボール球を我慢できていた同じスラッガータイプのオースティンと、この辺りで差があるのは少々気になるところでしょう。

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コース別のxwOBAも確認しておくと、インサイドに弱さを見せる一方で、真ん中からアウトサイド真ん中から高めのゾーンには強さを見せています。
ただ外にしっかり決まるとお手上げなので、インサイドとアウトサイド低めを丹念に突かれる、定石通りの攻めとなるでしょうが、ここをいかに我慢して得意なゾーンのボールを待てるかに、活躍のカギはあるはずです。

2.守備成績から適性ポジションを探る

打撃面の次は、守備成績からどのくらいの守備力を発揮してきたのか、見ていこうと思います。

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2020年はマイナー未開催で、MLBでも1イニングしか守備についていないため、全く参考になりませんが、2019年のデータだとAAA/MLBどちらでも1Bを多く守っていることが分かります。
ただ1B専任というわけではなく、AAAでは110.1イニング3Bもこなしており、場合によっては3Bでも起用することは出来そうです。

AAAでのデータだとイニングや失策以上のものがないため、守備力については言及しがたいところですが、MLBのデータでは64.1イニングという守備イニングながら、UZRは0.2とプラスの数値を記録しています。
一方、StatCastから収集されるトラッキングデータを基にして守備力を測るOAAという指標では、-1とこちらはマイナスの数値となっています。

どちらもサンプルが少ないため、これらデータだけでは何とも言えないところで、映像を見てもイージーな打球処理ばかりですから、その守備力を現時点で測るのは困難と言えそうです。

3.走塁成績

最後に走塁成績に触れていきますが、スラッガータイプでメインポジションが1Bということからも分かる通り、決して足を活かしたプレースタイルではありません

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盗塁数は年間1個ほどで、2019年は盗塁やそれ以外の走塁を包括的に見たBsRで-0.5を記録していることから、それは明らかです。
スプリントスピードの26.2(ft/s)は、今年阪神でプレーした同ポジションのボーア(24.0ft/s)よりは上ですが、やはりMLB平均の約27(ft/s)からは劣っており、走塁に力を入れている云々の意識の問題というよりは、単純にスピードが劣っているため、足の活かしようがないといったことが分かります。

ただ広島が伝統的にスピードを活かした野球を好み、更に河田雄介氏がヘッドコーチに就任することを考えると、昨年以上に走塁意識は求められ、外国人も例外ではないはずです。
そんな中、決して足は速くありませんが、それに応える姿勢を見せられるかも適応のポイントかもしれません。

4.NPB/広島にフィットするのか?

ここまで走攻守それぞれのデータを見ていきましたが、最後にNPBや広島で活躍することは可能なのかについて、考えていきます。

①気になるコンタクト率の低さとボール球スイング率の高さ

打撃面でいうと、ツボに入った時の長打力はえげつないものがありますが、NPBへの適応で気になる部分は、コンタクト率の低さとボール球スイング率の高さです。

コンタクト率が70%を切り、ボール球スイング率が35%を超えるクロンと同タイプの打者でNPBに適応した打者を挙げると、そのクロンを見出したエルドレッド(元広島)、ブランコ(元中日/横浜/オリックス)、ペーニャ(元ソフトバンク/オリックス/楽天/ロッテ)、ペゲーロ(元楽天)、スパンジェンバーグ(西武)とそれなりに名前が出てきます。
もちろん、ダフィー(元ロッテ)、パラデス(元ロッテ)、A・ロドリゲス(オリックス)と上手くいかなかった打者もいますが、適応例も多くあるため、そこまで心配する必要もないかもしれません。

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上述の打者たちはいずれも三振の多い打者で、クロン自身も三振の多い打者であるため、周囲はクロンが三振を喫することには寛容になる必要があるでしょう。
そうして思い切り振れる環境を整えれば、あとはクロンに甘い球をしっかり捕まえてもらうだけだと思います。

そしてクロンが力を発揮し、エルドレッドのような存在になれば、バティスタが抜けて以降、長距離砲が鈴木誠也のみという布陣で、得点創出の負荷が誠也に重くのしかかることとなっていた状況が改善に向かうはずです。
これにより、その負荷の大きさから自身の打撃を崩すこともあった誠也の、打撃成績にも好影響をもたらすでしょうから、クロンが適応できるか否かが来年の広島の得点力を大きく左右することになるでしょう。

②内野陣のスローイングに影響を及ぼさない程度の1B守備力は有しているか

打撃以外で気になるのが、松山が1Bに入るようになって問題視され始めた、1Bとしての守備力の問題です。

今年1Bとして-11.6という数値を記録したのもそうですが、今年多数スローイングでの失策を犯してしまった堂林翔太がそうであるように、その他の内野陣のスローイングに悪影響を与えるという要らぬ副産物まで産んでしまっています。
チーム全体のUZRも、松山が1Bで起用されることの増えた2018年以降急落しており、当然松山だけの問題ではありませんが、この起用も少なからず影響を及ぼしているはずです。

クロンの起用ポジションは、おそらく1Bということになるでしょうが、松山の例を見ると、守備範囲は狭くとも守れる範囲は堅実に守り、各野手からのスローイングはしっかり受け止められるだけの能力は欲しいところです。

これは決して高いハードルではなく、非常に大柄な体格から的の大きさもあるため、現時点でも松山に送球するよりは安心感を持って送球できそうなことは、想像に難くありません。
あとはスクーピングなどのハンドリングの部分を平均的にこなせれば、守備の部分もエルドレッドやバティスタのように、内野陣を引き締める役割を果たしてくれることでしょう。

以上から、データ的に見てもクロンへの期待としては、三振は多く喫しながらも本塁打を量産し、守備面でも大きな的を活かして内野陣を引き締める、かつてのエルドレッドの姿そのものだと言えそうです。
ですので、エルドレッドの時のように、三振の多さ等について周囲も我慢が必要でしょうし、クロン自身も打撃面では得意なボールが来るまで我慢が必要になるでしょう。
そこを乗り越えられれば、貴重な大砲として、エルドレッドのようにチームを優勝に導いてくれる存在となるはずです。

データ参照 Baseball Savant(https://baseballsavant.mlb.com/)

      FanGraphs(https://www.fangraphs.com)

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