「窓辺の猫」第六十三回 別れの準備
”可愛いはかわいそうより訴えかけるものがない。しかし、かわいそうでは生きられない。可愛いだけではどうにもならないが、かわいそうだとちょっとやそっと手を貸してもどうにもならない。”
庭に居着いた猫たちの避妊去勢手術をして、結局猫のためでなく人間のためなんだよなと徒労感を覚えています。一緒に過ごした期間は悪くなかったでしょ?と思われたいがために、リリースを決めた日から数日は畳部屋にマットを敷いたり、子猫たちの自由時間を増やして思い出つくりをしました。しかし、ままならないのはケージから出そうとすると、子猫たちはケージの中にいたがるということ。これまでケージでごはんを食べてトイレして寝ていたのに、なぜあえてわざわざケージから出すのか理由が分からなかったんでしょう。しかし、三毛猫のセミ先輩が遊びに誘ってくれたので、夜と総長は割とケージから出て遊んでいました。飼い猫とは完全に隔離するという目論見はなし崩しになくなりました。なぜなら、冷暖房費がもったいないから。飼い猫と一時保護猫を完全に別空間で過ごさせると冷房を2台以上稼働させなければならず、お金がかかるわけです。とはいえ、そうやって気をつけたら、子猫たちが私の部屋に来た7月は昨年より電気の使用量が下がりました。寒すぎてもいけないと思うわけで、冷房の設定温度は常に摂氏26度から28度。私は熱いくらいのこともありますが、飼い猫たちは冷暖房のない部屋に寝に行ったりしているので、やっぱりそこそこ冷えているんでしょう。
これを書いている今は、まだ子猫たちはリリース前です。3日後子猫たちを外に放すんだと決意しながら書いています。しかし、現状はどうなっているでしょうか。三毛のセミ猫は子猫たちを遊びに誘い、扉の前で鳴いたりどうにか部屋か出そうとしています。それはケージから子猫を出すようになってからの行動です。7月5日に避妊手術して1回目ワクチンして子猫たちは元気そうに見えましたが、小さいままでした。運動が必要かなと思って10日後に出したわけですが、2匹で転がって遊んでいたのが、今度は追いかけっこをするようになり、そこに先輩セミ猫が加わって、どうも運動が効きすぎていたようです。26日に2回目ワクチンして体重が100gも増えてないとなって、不安になり、1週間後に再び便検査に連れて行ったら虫はお腹にいませんでした。
元気に動きまわって小さいだけ。健康上の憂いもなく外に出せるとなってしまい、気持ちは複雑です。外に出すことに憂いがあるわけですから。私は外暮らしの猫たちを見てそれなりに倖せそうだと思ったことがありません。生きるって大変だなと自分の姿とつい重ね合わせています。
こういう思いは、動画にとって話しました。誰にも聞いてもらいたいようなものではありません。ただ、今後見返すこともあるんじゃないかなと思っています。
リリースすると言っても、中に入りたがるのに何が何でも締め出すとかそこまでするつもりはないわけで、よそに放すこともできず、外に出した後の子猫たちの出方待ちです。簡単に捕まえられるようなら、まだ里親募集を続けることができるかもしれません。けれども、うちを離れていなくなったり、あるいは事故にあっていなくなったり、お腹がすきすぎて息絶えたりする可能性もあります。それまで中の良かった血のつながった家族は人間とべったり1か月以上過ごした子猫たちを歓迎するでしょうか。わかりませんが、ぐだぐだ考えてもしょうがないので、少しでも気持ちを前向きにしようと部屋の模様替えしたり、子猫のフードを替えたりしたわけです。
私は庭に居ついた猫たちに困ってこういうことをしています。しかし、保護猫活動の団体の方はこういう断腸の思いを繰り返してきているわけですよね。頭が下がります。たとえばこれを人間に置き換えても、将来有望な研究や研究者をずっと支援するなんて大変なことなわけじゃないですか。一生懸命生きていることは素晴らしいけれど、生かそうという行いを積極的にされている人も同等以上に素晴らしいと思うわけです。
今はネット社会ですから、相手の素性もしれないこともままあります。それでも支援される方は生かすべき命かなどと考えずに真っ直ぐに信じてくださるわけですから、また違った重さがあるなと思います。
私が子どもの頃に「電車男」というテレビドラマがあり、映画にまでなるほど流行りました。その頃はストーリーの感動ポイントがよくわかっていませんでしたが、大人になってみるとSNSに良い炎上があればいいという願いがこもったような作品だったと思います。
私自身の人生にドラマは必要ありません。しかし、猫たちの人生にはこれから一発逆転の幸せな出会いがあってほしいです。
さてさて。感慨に耽っていても仕方ありません。今、どうなっているか分かりませんが、猫たちに一時別れを告げなければ。
"達者でね。身体を労って元気に暮らしてね。変なもの食べてお腹を壊さないようにしてね。私のことは忘れていいよ。縁があればまた、会いましょう!"
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