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【勝手気ままに読書メモ】#3 広瀬立成『地球環境の物理学』

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はじめに

学校の理科の授業で学んだはずのことを、もう一度学び直したいという方
新しい視点を身につけたいという、知的好奇心に溢れた方
授業準備をされる際に、参考にしたい本をお探しの学校の先生方
今まさに自然科学を学んでいる最中の学生・生徒の皆さん

こういった方々のために、1人の理科教員としてオススメの本を、勝手気ままにご紹介。
さて今回は、2007年に出版された『地球環境の物理学』。
この本は2021年の時点で絶版になってしまったが、今でも通じる内容が多いので、どうしても欲しいという場合は中古品をご購入あれ。

内容をざっくりと

この本は、熱力学の考え方を使って、地球環境問題を捉えていくという内容になっている。
・環境問題の現状(2007年までの状況)
・熱力学の歴史
・エントロピーとは何ぞや?
・エントロピーで自然界とゴミ問題を捉える

私が印象に残ったところ

1.生命も地球も産業も「エンジン」で捉えている

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そもそもエンジンというのは、燃料となる資源を取り込み、そこからエネルギーを得て物を動かすもの。
そして、排熱や不要物を外へ出す。
生物の場合、食物・酸素などを資源として取り込み、不要物を外へ出す。
地球環境の場合、資源となる何かの物質を取り込み、物質循環といった活動を行い、不要物を外へ出す。
産業(特にものづくり)の場合、石油・石炭・天然ガス(=まとめて化石燃料という)を機械などに取り込み、それを動かし、不要物や排熱を出す。
ただ、産業においては、化石燃料がいつまで採れるかということと、不要物や排熱で環境に悪い影響を及ぼしていることが問題で、これが環境問題として表れている。
こうして生命・環境・産業をすべてエンジンとして表してみると、物質とエネルギーの流れがわかりやすくなる。

2.地球=タマネギ?

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この図は本書を参考にして表したが、私なりに具体的に考えてみた。
例えば、家で何か食べたいと思ったとき、近所のスーパーやコンビニで食材を買っい、自宅で調理して食べたとする。
その後は生ゴミが出るが、これは決まった日に近所のゴミ捨て場で回収される。
上の図でいえば、家=環境A、近所=環境Bと当てはめると、環境Bから食べ物という資源が環境Aに流れ、逆に、環境Aから環境Bにゴミが排出されるということになる。
さらに近所のスーパー・コンビニで売られている食材は、その外の地域の農家が届けてくれる。
その後に出てくる事業ゴミは、その周りで回収・処理される。
この場合、図で言えば近所のスーパー・コンビニが環境Bで、その外の地域が環境Cといったところか。
このように、周りから資源を取り込む→エネルギーを生む→不要物を外へだすという流れは、図のようにタマネギの断面みたいに広がっていると表すことができる。
それでこの流れが地球規模で起こっていることから、地球環境はタマネギ構造だと示されているのは面白い。

3.改めてエントロピーとは何ぞや?
私は大学時代の物理化学などの講義でエントロピーについてふれたことがあるが、なんとなく「エントロピー=乱雑さ」ということだけは覚えている。
この本を読んで、私なりにエントロピーとは何か考え、下に綴ってみた。
「エントロピー=散らばり具合」と考えるとわかりやすいだろうか。

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上の図に示したように、エントロピーには「熱エントロピー」と「物エントロピー」の2種類ある。
熱エントロピーは熱の広がる度合い、物エントロピーは物質(をつくる粒子)の散らばる度合いといったところか。
例えば水の状態変化では、固体から液体になるときに融解熱が吸収され、液体から気体になるときは蒸発熱が吸収される。
このとき、熱は外からとりこむわけだから、熱のエントロピーは下がる方向に進んでいる。
しかし、物エントロピーから捉えてみると、固体→液体→気体になるにつれ、粒子がどんどん散らばっていく。
結局変わらない?
そんなことはない。

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上の図では海水が蒸発し雲になるという、水の循環の一部を表している。
ここでは海水が水蒸気になるとき、熱エントロピーは減少するが、物エントロピーは増加する。
逆に水蒸気から雲(水滴)になるとき、熱エントロピーは増加するが、物エントロピーは減少する。
ただ、この熱エントロピーと物エントロピーは必ず差し引きで+になる。
その差し引き分は宇宙へ放出される。

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それでは、エントロピーで生態系の炭素循環をどのように捉えるか。
自然界の中では、植物の光合成と呼吸、食物連鎖によって栄養源となる炭素が循環している。
ただ、循環しているとはいえ、廃物や排熱が出る=エントロピーは増加する。
それでも自然界の中では水や空気がこのエントロピーを取り込み、最後は宇宙へ放出し、エントロピー増加を抑えている。
エントロピーの観点から捉えると、人間社会の中でゴミが問題になるのは、ゴミとそれを燃やしたときに出る排熱がエントロピーとなり、抑えられないくらい急激に増加しているからである。

4.光合成の化学反応式

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高校の生物の教科書では、光合成の化学反応式を表す際、水は両辺にある。
化学反応式の書き方のルールからすればおかしいことだが、実はこれは液体の水と水蒸気とを区別するために記すんだとか。
恥ずかしい話、この本を読んで初めて知った。

雑記

この本の表紙では「中学生の科学の基礎知識だけで・・・」とあるけど、高校の物理・化学の知識がないと読むのは厳しい。
(熱量保存の式、水の分子量、物質量などが出てくる。)
ただ、地球環境について科学的に考えるには適した本であるがゆえに、絶版になってしまったのは惜しい。
できることなら改訂版を発売してほしいところ。
(※他にも環境とエントロピーの関係については、石原顕光先生が著された『とことんやさしいエントロピーの本』でわかりやすく説明されている。)
別の本に記されていたが、熱力学には地球で起こっている現象を捉えるといった究極の目的があるんだとか。
私ももう1回熱力学勉強しなおさんといかんなあ。

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