「あなたが生まれた日」
北の国で 小さな木から
赤い実を一つ小鳥が運んだ
そのときあなたは生まれた
やわらかい風を受けて
大空に守られながら
小鳥はどこまでも飛んでゆく
木の実は見知らぬ大地に根を生やす
南の国で 花が雨にうたれている
雨があがったとき
あなたは産声をあげた
うなだれていた花びらは
力強く光に向かって開いていく
みずみずしく咲いているのは
さっきまでの雨を
したたかに吸い込んだから
東の国で パン焼きの音がして
だれかの目覚まし時計が鳴るころ
あなたは瞳を開いた
精一杯見開いた眼(まなこ)
人生に夜が何度来ようとも
あなたが最初に見たのは光
西の国で 月がおとぎ話を始めたとき
あなたは人類のひとりとなった
この時代の この国の この人々の
大切な存在となった
いまもこれからも それはずっと変わらない
あなたが生まれた日
世界はひとつの喜びを感じた
（「そらいろのとり」新風舎 収録）
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