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台湾の文化創意産業と個人事業者の関係性―個人事業者の参加実態と課題―

本稿とクラファンの説明

私が大学3年後期にゼミで作成した論文です。
・台湾の文化創意産業について半年間調査、出店経験のある事業者にインタビューしてまとめたもの
・だいぶサポートしていただいている
・でも至らぬ点はある。タイのレポートより成長したので許して。
・団体名は伏せている
・レイアウト変えてる
・大変されど楽しかった
・長いので各段落冒頭だけ読むのもおすすめ
・脚注は最後

5月中旬より東南アジア渡航クラファンをします。渡航後に体験をまとめ、情報発信を行って世に還元します。私の言語化力、思考力、行動力の参考にしてください。

そして、東南アジア文化について学んだものを実物から体感し、アジアの同世代と強く豊かに文化を編みこむことを夢見る学生をどうかご支援していただけますと幸いです。
お金がある人、金銭的に支援していただけないでしょうか。お金がない人、お金のある人に伝えていただけないでしょうか。

では、楽しんで。

 

はじめに

台湾では、文創發展(文創)という文化クリエイティブ産業および文化振興事業が盛んに行われている。文創の目的は、台湾にある遺産と文化を活用し、一般市民による自由な再解釈を通して新たな文化を創り出すことで、文化経済の発展を図ることである[1]。文創事業における台湾政府の主な役割は、政府と産業の主体的な創作活動、金融システムの整備、一般市民の創作活動と起業に対する育成、国際的な市場構築など多岐にわたる。対外事業にも注力しており、「ナショナルチーム」をコンセプトとして資源統合を進め、台湾の国としてのブランドイメージの刷新に注力している。また、台湾の文化クリエイティブ・デザインに関する国際的な博覧会も開催しており、個人クリエイターの支援が精力的に行われている。

こうした文創事業はアート展示にとどまらず、若手アーティストの育成、子ども・市民対象の文化芸術関連のワークショップの実施、店舗併設がなされることで、国内外の観光客も訪れる場所となっている[山本 2019: 17]。2020年のコロナ禍においても市場の成長がみられ、文創関連産業の総売上高は前年と比べて1.5%増加し、海外売上高は9.8%増加した[台湾政府台湾政府文化部 2021: 12]。

張は、台湾政府が民間企業と契約を結ぶことで、芸術文化を通して近代化遺産のリノベーションに成功したと指摘している[張 2020: 222]。また、いくつかの文創関連施設は文創事業をけん引し人材を育成するという経営指標を忠実に守っており、文創の主目的である文化振興と人材育成を軸に据えた運営が実現していることを指摘している[同上書: 215]。加えて、ルーは文創におけるクリエイティブ・ライフスタイル産業について、文創事業の中でも特に収益性、市場性の両面で優れた業績を上げていることを指摘している[Lu 2017: 670]。しかし、先行研究は文創について政府などの大きな行政機関の目線から総合的に分析したものが多く、個人事業主や住民の目線から見た文創の分析はまだ少ない。加えて、これまで発表された論文は規模の大きな商業施設を中心にまとめた内容であり、文創事業に参加する個人事業主が抱える問題の詳細はまだ十分に明らかにされていない。このため、本論は文創関連事業にクリエイターとして参加する個人事業主の視点から、文創関連施設への出店が個人事業者に与えるメリットと課題を明らかにすることを目的とする。

研究では文創の5大基地のひとつとして、文創事業の推進関連行事を行う華山1914文化創意産業園区(Huashan 1914 Cultural Creative Park)という台北の商業施設を取り上げ、同施設に短期出店の経験がある4名の個人事業者にフェイスブックを通してインタビューを行う。また、インタビュー対象の一例として、果物の販売を行う事業者Aに対するインタビューを詳細に取り上げ、個人クリエイターの目から見た文創事業の効果と課題について明らかにする。これらの調査を通して、文創事業にクリエイターとして参加する個人事業者の目線から、現行の文創関連イベントへの参加と店舗経営のメリットとデメリットを考察し、文創事業を運営する政府等の大きな団体と個人事業主のつながりと課題についてまとめる。

以下、第1章では文創の概要と創設当初から現在までの歴史について、政府の事業概要と出来事を中心に時系列順にまとめる。第2章では華山1914文化創意産業園区の概要及び個人事業者との関係性をまとめ、個人事業者に対するインタビュー調査の内容と結果を提示する。第3章ではインタビューの分析を行い、華山1914文化創意産業園区と個人事業者の繋がりの現状と照らし合わせて、文創園区と個人クリエイターの相互作用や課題の考察を行う。それをふまえて、クリエイターが自身の創作活動をより活発に行うために必要な文創園区および個人事業者の取り組みと課題を提案する。


第1章 文創の概要

第1節 文創とは

本章では、1885年から現在にかけての文創の発展と、現在の文創の実態について述べる。文創とは、台湾の伝統文化を現代の文化と掛け合わせてリノベーションし、新たな文化を生み出す方法で文化振興と経済発展を図る政策とその事業のことである[2]。文創事業の対象となる産業は限定されておらず、音楽、ファッション、映画、テレビ、ラジオ、出版、広告、建築、デジタルコンテンツ、クリエイティブなど多岐にわたる[簡 2019: 5]。クリエイターの創作活動と文化の積み重ねから経済価値を創出し、それをビジネス化するものである。なお、文創事業は創作物の販売や展示にとどまらず、若手アーティストの育成、子どもや市民対象の文化芸術関連のワークショップの実施、大規模商業施設での店舗展開などの事業も行われており、国内外の観光客が訪れる施設も存在する[山本 2019: 17]。

文創事業の担当部署は、台湾政府の文化関連事業を担当する行政法人文化内容策進院に設置されている、文創発展司の4部署である[3]。文創発展司は2012年の台湾政府文化部創設時に設置され、事業の遂行から人材育成まで文創事業全般を担当している。特に注力して行われている取り組みは、文創コンテンツと事業者の支援、地域レベルの活動支援、業界横断事業推進の3点である[4]。1点目の文創コンテンツと事業者の支援の内容は、文創関連事業に参加する事業主への助言、文創事業を担う政府関係者と個人事業主の人材育成、イベントや個人事業主への金銭補助である。2点目の地域レベルの支援の内容は、5大基地を中心とした各地の文創拠点経営、事業推進支援、地域文化発信である。3点目の業界横断事業の内容は、流行と文化、テクノロジーの連携計画の推進と、ビジネス業界のトレンドであるデジタル活用エコシステム構築である。その他、文創事業の海外発信にも注力しており、台湾国内の個人事業主と海外のバイヤーをつなげる活動を行っている。最も大きな事業は” Fresh Taiwan”と呼ばれる文創の広報イメージ戦略であり、2012年より台湾国内の約350社の海外販路開拓のサポートと、海外で行われた37件の国際見本市への出展を支援する事業を行った[5]

図1は、2016年から2019年の台湾政府台湾政府文化部の年間予算額の推移である。台湾政府は文創関連事業への注力を強めるだけでなく、文創事業の内容の変化に合わせながら台湾政府文化部に対する年間予算の額を増額させている。2017年には年間予算額が初めて200億元に達した。台湾政府文化部の予算は2019年以前も増加していたが、増加金額の内容が、国家発展委員会が承認した施設の建設予算や公共建設計画から、ソフト面の制作に関する内容が中心の基本運作需求及法律義務支出に変化し、2019年度は前年と比べて15.9%増加した。

図1 台湾政府文化部の年間予算(2016~2019年)(単位:百万元)
出所:Ministry of Culture "2019 Annual Performance Report."(https://www.moc.gov.tw/en/content_377.html, Accessed January 5 2023)より筆者作成

第2節 文創の歴史

文創事業のきっかけとなる建築遺産が形成されたのは、清朝政権と日本統治時代の台湾総督府の下で建設された、鉄道や工場などの都市基盤であった[張 2020: 205]、1949年の国共内戦以降は台湾政府がこれらの施設と日本統治時の都市計画制度を引き継いだが、1964年になると、国民党は中国を担う政党としての正当性を主張するため、植民地時代より引き継いでいた都市制度を廃止し、清朝と日本の統治時代に建てられた建造物の撤去を行った。しかし、1980年代の都市開発に伴う文化遺産の破壊問題と、1987年の戒厳令解除に伴うナショナリズムの高まりを受け、再び法的に文化遺産の保護が行われるようになった[同上書: 207]。このとき、日本統治時代の建築物は、中国にはない台湾独自のアイデンティティを示すものとしてとらえられ、重要な遺産として保護された。また、文創事業が始まった2002年に制定された「公共建設の民間参与促進法」は、建築遺産を再利用した公共施設運営への民間参入を可能にし、華山1914文化創意産業園区をはじめとする文創関連施設の民間運営を可能にした[同上書: 214]。

台湾で文創計画が政策として具体化されたのは、2002年の「挑戰2008 國家重點發展計畫」内で述べられた、「文創產業發展計畫」の発行がはじまりである。当時、台湾は1990年代より人件費の高騰で製造業の一部が徐々に中国へ移転し始めており、台湾国内の製造業の減少と失業率の上昇が問題視されていた[張 2011: 2]。この状況の打開策の1つとして政府が提案したものが文創であり、台湾政府は台湾発展の要として文創の重要性を主張した。文創の焦点は産業における国際競争に勝つことであり、近隣諸国の高度な工業化に遅れをとる台湾の状況に触れたうえで、美的なデザインを取り入れた付加価値のある工業製品の製造を通して他国との差別化をはかろうとした[台湾政府行政院 2002: 37]。計画の対象となる産業は、芸術、工業分野を中心に16の産業が選ばれ、現在と同様に様々な分野が事業の対象とされていた。これらの産業は当時軽視される傾向にあったが、台湾政府は北欧諸国、イギリス、日本などでこれらの産業が生活環境の向上に貢献していることに着目し、先進国の特徴として強調した。こうした産業分野を専門家や企業と連携して発展させることで、2008年までに雇用人口と生産額を2倍にすることが目標として設定された[同上書: 12]。

「文創產業發展計畫」の発行から1年後の2003年には文創産業パークの設置が計画され、文創の地方拠点となる5大基地が設置された[6]。5大基地は、嘉義、台南、花蓮、台北市華山、台北市松山に位置し、いずれも日本統治時代に台湾総督府が建設した工場や建築遺産を再利用し、民間事業者が運営している。2010年、「文化創意産業発展法」が施行され、文創事業の継続的な実施が法律として保障された[7]。文創制作の制定と4年ごとの見直しのほか、政府予算の十分な割り当て、補助金対象者が明記され、2002年より短期目標として掲げられていた文創事業は国際化を基本方針として長期的に実施されることとなった[8]

2012年以降、文創事業はソフトパワーに焦点を当て、文創発展司の設立とともに地域密着と産業形態の革新を目指し、台湾国内の文創事業のコンテンツと構造に関する政策を推進した[9]。その後も2019年には海外発信を専門に行う文策院が台湾政府文化部傘下に設置され、2020にはデザイン研究所である設建院が設置されるなど、より国際的な発信の強化が行われている[10]。デザインで工業的生産力の低さを補い、他国の産業との差別化をはかる点はどの時代も共通しているが、近年ではデジタル産業と国際化により注力されるようになり、広告やグラフィックデザイン関連の産業が盛んになった。


第3節 文創の現状

図2は、2002年から2020年にかけての文創関連事業の売上高をまとめたものである。文創産業は規模の拡大を続けており、展示、ワークショップ、店舗経営を通して多くの一般市民と観光客を巻き込んでいる[山本 2019: 17]。2020年のコロナ禍では、成長率こそ落ち込んだものの文創産業は成長を見せ、前年と比べて売上高が1.5%増加し9,264.63億元となった[台湾政府文化部 2021: 12]。コロナ禍における個人事業主の金銭的救済策を政府が促進させたため、文創に関する事業を行う総事業者数は6万7,618社となり、過去最高の企業数となった[同上書 : 8]。成長率が最も大きな産業はビジュアルコミュニケーション・デザインであり、売上高は前年度と比べて14.9%上昇した[同上書 : 21]。2020 年の雇用人口は 27万2,000 人で、2019 年の雇用人口 27万6,000 人に比べてわずかに減少した[同上書 : 205]。総売上高のうち、9割は国内での文創関連事業の利益であるが、文創関連事業の海外輸出収入は960.3億元であり、前年と比べて9.8%増加した[同上書 : 9]。輸出収入の上位は、デザインブランド・ファッション業界に関する産業が全輸出産業収入の70%を占めている。

図2 文創関連事業の年間売上高と成長率(2002~2020年)
出所:台湾政府台湾政府文化部 2021: 11-12より筆者作成

図3は、文創事業に参加する事業者の資本規模をまとめたグラフである。文創に参加する事業者は、資本規模500万元以下の零細企業が85.3%を占めており最も多い。台湾政府経済部と台湾政府文化部はクリエイティブ産業青年起業家ローンを設置し、起業家の若手支援に注力している[11]。同事業では、個人事業者に対する金銭的支援のほか、事業運営に関するガイダンスを提供し、文創事業に参加する個人事業者の育成に努めている。両省は、若手起業家に対する投資を通して、個人事業者への金銭支援を行いつつ、クリエイターに対する継続的な資金調達システムを構築するための研究を行っている。

図3 文創参加企業の資本金(2021年)(単位:%)
出所:台湾政府台湾政府文化部 2021: 9より筆者作成

図4は、文創事業に参加する全事業者の創業年数をまとめたグラフである。文創関連事業に従事する事業者は小規模の個人事業者が多いため、大規模事業者と比べて金銭面での後ろ支えが十分でない場合が多い。台湾政府文化部は、文創事業に参加する事業者向けに資金のサポートを行い、資金支援に関する情報をまとめたホームページを開設している[12]。事業者に対する金銭補助は、免税措置など申請したほとんどの事業者が受け取れるもののほか、優れた業績を上げた事業者に対する賞与制度などさまざまである[13]

図4 文創参加企業の創業年数(2021年)(単位:%)
出所:台湾政府台湾政府文化部 2021: 9より筆者作成

目覚ましい産業発展の裏で、改善が必要な課題も存在する。現在の文創事業は、文化遺産建造物と創造産業のつながりを重視しているが、利益指向型に偏ってしまう事例も存在する[陳 2022: 39]。遺産のリノベーションを通して創造的価値を保ち続け、創造産業の根幹である創造性を維持する必要がある。例えば、2010年に開業された松山文化創意産業園区では、歴史的なレンガ建築の中に白く巨大なドームが建設され、景観損傷と遺産破壊として問題になっており、ビジネスと創作のバランスの見直しが必要である[張 2020: 219]。同施設の敷地内には近代化遺産を良好な状態で保存し、そのリノベーションを通して来訪者の誘致をうまく行っている。一方、敷地の大部分は商業用地であるため、文創産業の拠点としての役割より商業的利益の回収が中心になってしまっている。また、文化遺産の破壊は民間委託の際のリスクのひとつである。

このように、文創は緩やかに発展を続け、個人クリエイターが自身の作品を展示し、他者と交流し、商売することのできる環境が整備されている。輸出と国内クリエイターの海外紹介など、国内クリエイターに対する手厚いサポートを通して海外進出が進んでおり、今後も発展が見込まれる。


第2章 文創とイベント参加者の関係性と実態

第1節       華山1914文化創意産業園区

本章では、文創事業の普及拠点である華山1914文化創意産業園区の概要を紹介し、同施設に出店経験がある個人事業者に対して行った、出店事業の実態に関するインタビューの結果をまとめる。華山1914文化創意産業園区は、2007年に開業した台北に位置する商業施設である[14]。同施設の敷地には、日本統治時代の台湾総督府によって建てられた、1914年創業の酒造工場と1918年創業の樟脳工場が存在した。1922年に酒の専売制度が導入されたのち、戦後も同様の制度を引き継いで1987年まで工場として経営されていた[王 2019: 104-105]。1987年に工場の操業が停止された後は、樟脳工場の煙突の撤去など解体作業が一部で行われたが、10年間廃墟の状態が続いた。2007年の商業施設開業時は、台湾国内の民間企業3社の入札が行われ、落札した文創発展股份有限公司によって元敷地内の文化財の修繕事業が行われた。その後、同企業の運営の下で華山1914文化創意産業園区が開業し、文化創意産業のフラッグシップ拠点として活用されるようになった。

同施設は台湾政府文化部文創発展部が制定した5大基地のひとつであり、民間企業の台湾文創発展股份有限公司が運営している[同上書: 102]。文化財保護、リノベーションによる利益算出、人材育成に関する事業を行うことで、文創事業を発信し、推進するための地方拠点の役割を果たしており、5大基地の中でも成功例として評価されている[張 2020: 215]。周辺地域の創作活動の拠点としての役割のほか、緑地、イベントスペース、文化活動と地域のコミュニティの場づくりなど、様々な活動を行っている[馬頭 2018: 7]。その分常設展が少なく入れ替わりが激しいことが特徴であるが、施設の鮮度を保ち、より多くの事業者に対する展示機会の提供につながっている。施設には、「会」、「展」、「演」、「店」と呼ばれる4つのエリアが存在し、それぞれ会議と講演会、展示ギャラリー、映画館と舞台芸術、飲食店と雑貨店などの事業を開催している[15]。16の常設店舗が運営されているほか、一定期間で入れ替わる短期出店店舗が出店している。短期出店店舗の出店期間は、約半月程度で入れ替わるものから、週末の2日間のみ出店する店舗までさまざまである。店舗によっては一定期間開けて複数回出店する事業者も存在する。

同施設は、短期出店事業に参加する個人事業者を、ポップアップストアと露店形式の2通りの営業形態で募集している[16]。募集対象は、法人、官公庁、一般企業、芸術文化団体、学校などの一般団体と、20歳以上の中華民国国民及び台湾で合法的な居住許可を持っている外国人が該当する。1つ目のポップアップストア方式は、4から12坪程度の独立した室内空間に出店することができ、3ヶ月ごとにテーマを変えて募集が行われる[17]。表1は、2023年度のポップストア方式での出店者募集にあたり、2022年9月に園区が掲示した各出店時期の募集テーマである。短期出店に応募する事業者はこれらのテーマに合わせて企画を考案して応募し、施設の営業部、役員会、1~2人の外部委員を招いた同施設の事業執行会議での審査に通される。評価観点は、テーマとの関連度、ブランド思考、商品の独創性、ディスプレイの4つであり、各観点が均等に評価される。

表1 2023年度の短期出店者募集テーマ出所:華山1914文化創意産業園区「華山1914文創產業園區「品牌短期進駐申請辦法」」(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Shortterm, 2023/01/04最終閲覧) より筆者作成

2つ目の露店方式は、テントを張った小さな区画に出店することができ、4ヶ月ごとにテーマを変えて募集が行われる[18]。表2は、2023年度の露店方式での出店者募集にあたり、2022年9月に園区が掲示した各出店時期の募集テーマである。選考方法は母体イベントによって異なり、露店への出店に応募する事業者はこれらのテーマに合わせて企画を考案し、同施設に出店計画を提出する。

表2 2023年度の短期露店形式出店者の募集テーマ
出所:華山1914文化創意産業園区 「【華山1914文化創意產業園區】 市集品牌進駐申請辦 法」(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Market, 2023/01/04最終閲覧)より筆者作成

上記に挙げた物品販売のほか、販促物の設置、音楽イベント向けの会場レンタル、ストリートアーティストの募集などが行われており、様々なジャンルの創作活動を行う事業者の募集が行われている[19]

第2節 物販を行う個人事業者の出店例

本節では、物販形式で華山1914文化創意産業園区への出店事業に参加した事業者に対するインタビューを3件まとめる。事業者Aは、台湾北部に拠点を置くキウイフルーツの栽培と販売を行う事業者である。山間部にある約2ヘクタールの果樹園でキウイフルーツの栽培を行い、商品の品質だけでなく環境と産業構造にも配慮した運営を行っている。また、キウイフルーツ生産者の協力団体を作り、価格競争の回避や農地周辺の山岳地帯の保全活動に取り組んでいる。同社のCEOは、大学卒業後海外の農業技術支援事業に参加し、帰国後に農業に従事する若者が少ない台湾の農業の窮状を知ったとのことである[21]。台湾の農業生産と販売の不均衡の解決のため模索する中、消費量が多く台湾発祥の果物であるにもかかわらず、輸入量の多いキウイフルーツに着目し、キウイフルーツ栽培事業を始めたとのことであった。

同店は政府の招待のもと華山1914文化創意産業園区へ2度の露店形式での出店経験があり、フルーツとその加工食品の販売を行った。出店時に事業者による選考が存在したが、いずれも政府からの招待による出店であり、農業の普及促進イベントでの出展であった。出店店舗の選考にあたり、会場内での店舗の立地、会場内の人の流れ、客層、華山1914文化創意産業園区の立地を意識し、店舗企画を提出したとのことであった。市場形式での出店の利点は、ブランドの認知度の向上である。華山1914文化創意産業園区への出店を通してブランドと製品の露出を増やし、ブランドだけでなく農業の認知度の向上を促すことが可能である。ただし、同施設は元来酒造工場であった建物を再利用しており、建物の形状が店舗経営に向いていない。そのため、通常の店舗デザインや運営戦略とは異なる店舗運営をしなければならず、集客が難しいとのことであった。現在の華山1914文化創意産業園区の課題は顧客の流れの設計であり、会場内の各イベントの配置を再検討する必要がある。また、イベントの告知はより積極的に行われる必要があるという。

次に、事業者Bは、台北に拠点を置くレザー雑貨の制作と販売を行う事業者である。同社のセールスマネージャーによると、2018年に創業を開始し、スマートフォンケースや時計のベルトを中心にレザー雑貨の制作と販売を行っているとのことであった。2023年の春にはアメリカ最大の電子製品関連イベントに出店し、スマートフォンケースの販売を行う予定とのことであった。同店は華山1914文化創意産業園区へポップアップショップ形式での出店と商品の販売経験がある。出店時に事業者による選考があり、新商品とインテリアの発案と広報戦略の立案に注力した。市場形式での出店の利点は、新商品の制作とブランドの目的を表現する機会の獲得であると話していた。

次に、事業者Cは、木製のインテリアの制作と販売を行う事業者である。同社のマネージャーによると、約20年前から環境保護と自然をテーマにした木製家具の制作を開始し、今日まで作品制作を続けているとのことであった[28]。流木を用いた自由な形状の作風が特徴的であり、現在はオンラインでの製作物販売を中心に行っている。同店は華山1914文化創意産業園区へポップアップショップ形式での出店と商品の販売経験があり、今後は10回程度の出店を計画しているとのことであった。出店目的は様々な地域に顧客を作ることであり、出店時の選考では募集テーマを重視して企画を提出した。同施設への出店の利点は、事業の露出と実体験による顧客との交流機会を増やせることである。華山1914文化創意産業園区への出店の欠点は出店料の高さであり、個人事業者が単独で出店する場合、金銭的に短期間しか参加できない。華山1914文化創意産業園区の改善点として、空間を利用してより多様な企画を検討することを挙げていた。

第3節 講演の実施経験がある事業者の例

本節では、物販形式で華山1914文化創意産業園区へのイベント事業に参加した事業者に対するインタビューをまとめる。事業者Dは、台湾の東に拠点を置く木工彫刻事業を行う事業団体である。同団体の活動目標は、木工芸術の普及促成、青少年育成、不動産産業の発展を通した少数民族支援、木工芸術を通した利益と生活の好循環の創出である。特に、地方の若手木工制作家に対する育成支援に注力しており、学生を対象とした木工教室と展示会を台湾各地で開催している。同団体が創設されたきっかけは、木工家具の制作で国際大会での受賞歴を持つDが創設した木工教室である。毎年台湾国内の各地で、同団体主催の中学生による木工家具展示会が開催され、徐々に知名度が上昇した。こうした活動は寄付によって支えられており、現在も各界から同団体に向けて熱心な募金活動が行われている。

これまでに約200人の学生が参加して1,600以上の作品が作られ、13の木工製作物展示会に8.6万人以上の人々が訪問した。地方の少数民族の学生に対する支援も行っており、チャリティーセールの余剰金の寄付や木工教室への貧困層の学生を招待している。2010年には木工人材育成協会を設立し、木工技術の伝承と農村での雇用の創出に注力している。同協会は、長期的なサポートを通して、台湾地方部での持続可能な木工産業の推進に取り組んでいる。将来的には、同協会のように技術の伝承と農村部の活性化に取り組む団体が増え、農村部のさらなる活性化を促進させるという目標のもと、活動が行われている。

同団体は華山1914文化創意産業園区でシンポジウムを9度開催した経験があり、2022年の講演では団体の活動内容と目標の説明を行ったとのことであった[35]。講演の準備は1年をかけ、100点以上の家具を制作し、講演開催時に合わせて展示した。同団体秘書は、華山1914文化創意産業園区を講演の開催にあたって、立地と文化基盤の2点から理想的な場所であると表現している。同施設は台北の中心に位置し、近くに地下鉄の駅が2か所存在するため非常にアクセスが良い。また、環境と文化創造の基盤が、顧客を引き付ける重要な要因となっている。なお、同施設には歴史的建築遺産を保護するためのルールが存在し、イベント参加事業者の活動を制限する可能性があるが、許容範囲であるとしている。同氏は、華山1914文化創意産業園区の事業全般を前向きで良い事業として評価している。

このように、華山1914文化創意産業園区への出店経験がある個人事業者は、創作活動の支援に対する意欲的な姿勢を評価しつつ、出店時の金銭的なハードルと空間利用法に課題を見出していた。

第3章 文創事業に参加する個人事業主の実態と課題の考察

第1節 個人事業者が華山1914文化創意産業園区に出店するメリット

この章では、第2章のインタビューをもとに、華山1914文化創意産業園区に出店する事業者が出店を通して得られる利点と、同施設への個人事業者の出店事業における施設側の課題をまとめる。同施設の事業展開における利点は、密度の濃い事業展開機会の獲得である。インタビューに応じた5名の個人事業者は、同施設への出店の利点について、認知度の向上と交流機会の獲得を表す回答を共通して挙げた。これは、政府に招聘された事業者、自発的に出店申請を行った事業者、シンポジウムを定期的に行う事業者など、立場の異なる事業者に共通して見られた特徴である。インタビュー対象の事業者の中には複数回にわたって同施設への出店を行う事業者も存在し、最大出店回数は事業者Dの9回であった。また、出店の欠点を問う質問では、出店に関する事務的な欠点が挙げられているものの、出店募集事業の理念とテーマに対しては欠点が挙げられていない。インタビューにおける施設への反応と、複数回出店する事業者の存在を踏まえると、同施設での個人事業者出店事業は、参加事業者に対し、文化振興と個人事業支援の2つの側面から充実した機会を提供することができているといえる。

先に挙げた利点は、同施設の立地の利便性の良さと強力な文化基盤の2点によって支えられている。インタビューの回答者は、同施設の利点の1つとして立地の良さを挙げた。華山1914文化創意産業園区は台北の中心部に位置しており、周囲にバスと地下鉄の停留所が複数存在する[37]。同施設のホームページには駐車場と駐輪場の場所とそれぞれの利用料金が合わせて記載されており、アクセス手段の選択肢が多いことがわかる。同施設は市街地に訪れる観光客だけでなく、車で施設に訪れるような台湾の地方部に住んでいる人々にも開かれており、施設のターゲット層が幅広いと考えられる。文創関連事業は台湾政府の政策として行われる事業であるため、老若男女幅広く対象とした事業を行う施設として立地の良さは重要な要件であるといえるだろう。また、アクセス手段の多様さをホームページで詳細に伝えることで、立地の良さを事実にとどめず広く知らせることができるため、情報共有の点でも整備が行き届いているといえる。

インタビューの回答者が挙げたもう1つの同施設の利点は、強力な文化基盤である。華山1914文化創意産業園区で行われる事業は、より多くの市民に文化的交流と体験を提供するという方針に基づいて行われている。この方針は同施設への個人店の出店形式と出店を希望する事業者の選考によって質が担保されており、常に新しい創作活動と人々の交流が起こるような構造ができている。インタビュー回答者は、出店時の選考準備の際、商品の発案だけでなく、ディスプレイ、広報戦略、募集テーマとの関連性、会場内の人の流れを考慮した運営方針など、それぞれの方法で事業の価値をアピールしている[38]。また、同施設の事業者に対して行われる選考は、施設の運営者と外部委員による複数回の審査をもって行われる[39]。事業者側の選考対策の柔軟さと複数の目を通して行われる審査の厳密性を踏まえると、華山1914文化創意産業園区に出店する事業者は、高いレベルで創作活動を行う事業者が選ばれており、同施設で行われる催しの質の向上に貢献していると考えられる。また、個人事業者側のアピールポイントの多様さは、台湾政府の提唱する文創の多様性を体現しており、台湾政府が目標とする幅広い文化事業の活性化が達成されているといえる。

第2節 個人事業者のデメリットと課題

同施設の事業展開における課題は、出店事業者に対するサポートの不安定さである。インタビューを行った個人事業者が挙げる同施設の改善点と、台湾政府と同施設が行う施策にすれ違いが見受けられた。インタビューでは、同施設の課題として出店料の高さと集客のさらなる強化が挙げられたが、どちらに対してもある程度対策が行われている。金銭面に関しては、文創事業に参加する事業者向けの公的な金銭援助をまとめたホームページが台湾政府文化部によって公開されており、経済支援に関する最新の情報が発信されている[40]。集客に関して、同施設はソーシャルネットワーキングサービス戦略を中心に注力している。特にフェイスブックでは、最新の店舗配置図、新店舗の案内、開催予定のイベントの参加者募集等を、関連する店舗のアカウントのリンクと共に毎日発信している。なお、同施設のフェイスブックアカウントのフォロワー数は30万人であり、影響力も十分であると考えられる[41]。同施設への出店事業は、出店システムとイベントの質は十分な水準であるものの、出店前後の事業者のサポートは不十分であるか、施設の運営と個人事業者双方の対策の活用が不十分であると考えられる。

こうした欠点は、出店時の賃料の高さと同施設の空間特性が1つの原因となって形成されている。インタビューで特に課題として指摘された点は、華山1914文化創意産業園区の出展料の高さである。ポップアップ形式、市場形式など出店形式の選択肢が用意されているものの、ある程度業績のある事業者しか出店することができないとのことである[42]。また、詳細な金額がすぐにアクセスできる情報の中に提示されておらず、金銭的な実情を把握することが難しい。募集対象が金銭と会場の規模によって絞りこまれるほど、広く市民に開かれるというニュアンスが薄れてしまうため、文創が持つ公共性は低下してしまう可能性がある。高額な出店料を賄うことができる事業者は、ある程度店が繁盛しており、世間からの評判を得ているととらえることができるが、選定によって出店事業者の内容が単一な傾向になってしまう可能性がある。金銭的なハードルは出店事業者の質の担保にもつながるが、より多くの人に出店機会を与えるという同施設の特質と相反する事象にもなりうるため、定期的に出店料の見直しと検討が必要である。

インタビュー内で次に多く挙げられた同施設の課題は、施設内の空間設計の不十分さである。華山1914文化創意産業園区は、日本統治時代の酒造工場を修繕して再利用した商業施設であるため、敷地内の設計が商業的な人の流れや利回りを計算して作られていない[43]。そのため、敷地内の店舗の位置関係が現代のショッピングセンターの通常の位置関係とは異なっており、店舗の配置と人の流れを利益の最大化につなげにくい構造になっている[44]。出店事業者は、現代の商業施設とは異なる特殊な空間設計を考慮して経営戦略を立てなければならず、店舗運営の難易度が通常のより高い。また、人が効率よく循環する設計ではないため、会場内の立地によっては客が来店する可能性が極端に低いスペースが存在する可能性がある。出店事業の売り上げと顧客の数は天候にも大きく左右され、ポップアップ方式、市場方式どちらも屋外のスペースを割り当てられる場合が多い同施設では、雨が降ると顧客が極端に減少することがある。これを踏まえると、出店スペースと出店時期ごとによって顧客の来訪機会に極端な差が生じ、事業者が得られる利益が不安定であると考えられる。

第3節 華山1914文化創意産業園区への出店事業をより良いものにするために

華山1914文化創意産業園区での出店事業を改善するためには、施設の空間利用の見直しと、個人事業者の連帯強化が必要である。同施設への出店事業は出展料が高く、資金規模の小さな個人事業者に対し、事業展開と広報活動の機会を十分に提供できていない可能性がある[45]。この場合、市民に対し広く文化活動を開くという目的を十分に達成できていない可能性があるため、より多くの事業者に出店機会を与えるための工夫が必要である。また、出店事業に参加する個人事業者により良い経済活動の場を提供するためには、元来商業目的ではない同施設の空間利用を見直し、来場客と店舗の交流機会と利益を最大化するための施設内の設計を再検討する必要がある。

空間利用については、歴史的建造物を商業施設として再利用しているほかの事例を参照し、敷地内の店舗の位置関係について再検討する必要がある。その一例が、神奈川県横浜市に位置する横浜赤レンガ倉庫である。同施設内の用途は、展示、商業利用、芸術活動、イベント等が挙げられ、華山1914文化創意産業園区と同様創作活動の支援に焦点が置かれている[46]。同施設の遺産活用術は、酒造工場の特性を引き出すという観点から、華山1914文化創意産業園区の空間設計に応用することができる。会場内の人の流れをより詳細に分析することで、利潤を生みやすい店舗配置を再設計すべきである。また、人があまり来ない場所は芸術鑑賞の場として活用することで、静かに鑑賞に集中できる小さな展示スペースを増設することができる。また、元酒造工場という特性に着目し、酒に関する催事や店舗を計画することも可能である。横浜赤レンガ倉庫は、倉庫建築がドイツ発祥であることに着目し、ドイツの文化であるオクトーバーフェストを祭事として開催している[陳 2017: 30]。華山1914文化創意産業園区に出店する個人事業者の中には飲食店経営者が多く存在するため、それらの事業者と協力することで、商業的な取り組みと文化振興に関する取り組みの間により強力な結束を生み。文創事業のさらなる活性化に貢献できると考えられる。

出店料に関しては、文創関連事業に従事する事業者が交流できる場の設置が効果的であると考える。華山1914文化創意産業園区は、遺産を活用した大型の商業施設であるため、施設の維持と運営に相当の資金が必要であると考えられる。同施設における資金の必要性を踏まえると、出展料の引き下げを即座に行うことは難しい。これを踏まえると、現時点では、個人事業者の共同出店と出店料の分担を促進することが、最も現実的かつ効果的な解決策であるといえる。同施設が担う「市民交流の場」としての性質を活用し、個人事業者同士の交流の場を設けることで、より多くの個人事業者に対して出店機会を与えることができる。また、個人事業者同士の交流は、クリエイターとしての情報交換と学習の場としても活用することができるため、文創事業の持続的な発展につなげることができる可能性がある。

このように、同施設は、建物の特性を考慮した空間利用の見直しと個人事業者同士の連帯機会の提供を行うことで、出店機会の不均衡を解消し、個人事業者による出店事業をさらに活性化させることができる。


おわりに

本論は、文創関連事業にクリエイターとして参加する個人事業主の視点から、文創関連施設への出店が個人事業者に与えるメリットと課題を明らかにすることを目的とした。文創とは、台湾政府台湾政府文化部が推進する台湾国内の文化創作事業の活性化をはかる政策である。文創関連事業に従事する事業者の多様性が特徴的であり、16分野にわたる幅広い創作領域かつ小さな資本規模で経営を行う個人事業者が多い。同政策は、2002年に台湾国内の経済活性化計画の一環として施行され、2007年の五大基地の建設などを経て、現在では政策の一環として事業規模を拡大している。2010年、文創関連政策は法制化され、国際市場を視野に入れた事業展開を行うようになった。2020年の新型コロナウイルス感染拡大時も市場規模を拡大し、文創事業の登録者数と政府の文創に対する予算は増加傾向にある。2020年にはデザイン研究所が設立され、今後はメディアやデザイン分野を中心に成長が見込まれる。

文創事業の拠点の1つである華山1914文化創意産業園区は、過去に酒造工場として使われていた施設を改装し、2007年に開業した商業施設である。同施設は、文創の市民への普及と交流の推進という理念のもと、創作活動を行う個人事業者に対し、出店事業と展示事業の募集を行っている。出店形式は個人店の営業のほか、シンポジウムを行う事業者も存在する。出店事業に参加する事業者は、顧客との交流機会や広報機会の獲得を主な目的として出店事業に参加している。また、販売する商品の内容だけでなく、経営理念、会場内の来場客の流れ、店舗装飾など総合的な店舗運営戦略がたてられており、施設内のコンテンツの質が高く保たれている。

同施設が評価されている点は、立地の良さと強力な文化基盤である。台湾の首都の中心部に位置し、創作活動の発信地として頻繁に催事を開催しているため、集客をしやすい環境が整っている。事業者によっては10年近く同施設でシンポジウムを行っている事業者も存在していることから、華山1914文化創意産業園区は創作者の発信拠点としてある程度信頼を得ていると考えられる。一方、同施設の課題は、資金面と集客に関する面で出店事業者のサポートに不十分な点が存在することである。出展料に関しては、高額にすると店舗の質は保たれるが、新規参入者の参画が難しくなるため、創作者支援の側面が弱くなってしまう。また、空間利用に関しては、横浜赤レンガ倉庫のような建築遺産の商業施設としての再利用例を参照し、元酒造工場としての特質を見直すことで解決が可能である。ただし、台湾政府台湾政府文化部と華山1914文化創意産業園区は、2点の課題に対してすでにある程度対策を行っているため、運営側と個人事業者の間に認識の違いが生じている可能性がある。これらの可能性を踏まえたうえで、同施設は出展料と施設内の空間利用の見直しと、個人事業者同士の交流の場を創作者に提供することで、より一層発展できると考えられる。

昨年の研究で課題として挙げたアンケートの運用については、インタビューの打診の総数を増やし、直接個人にメッセージを送って打診することで改善することができた。年末の忙しい時期であったため回答が得られるか不安であったが、状況別の文章をあらかじめ作成して素早く対応を行えるように準備することで、回答者との念入りなコミュニケーションを行うことができた。今回の研究では、現地での調査が実施できなかった点が課題として残ったので、卒業論文制作の際は研究対象の現状と要素の関係性を整理し、問題の解像度を高めて研究の質を向上させたい。


参考文献

簡佑丞. 2019.「台湾における近代化遺産活用の最前線-総論」(東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室編『台湾における近代化遺産活用の最前線』東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室) pp. 20-91

台湾政府台湾政府文化部. 2021『2021台湾文化創意產業發展年報』文化内容策進院

台湾政府行政院. 2002 『挑戰2008 國家重點發展計畫』台湾政府行政院

張英裕. 2011.「文化創意における台湾台中電子街の発展契機(その1)」(日本デザイン学会編『第58回日本デザイン学会研究発表大会概要集』日本デザイン学会) pp. 67-68

張海燕. 2020.「台北における近代化遺産の保存と活用の両立」『名城論叢』第20巻4号 pp. 203-224

陳芳婷. 2017.「文化遺産建造物を活かした創造産業の創造性促進:日本の事例にもとづく台湾の政策課題の検討」「静岡文化芸術大学修士論文」

馬頭忠治. 2018.「台湾のコミュニティ・リノベーションとアートマネジメント : 新しい社会的価値の現代的創出」『鹿児島国際大学地域総合研究』第46巻1号 pp. 1-24

山本薫子. 2019.「都市における共同性の構築・再構築をめぐる可能性と課題」『地域社会学会年報』 第31巻 pp. 15-29

王栄文. 2019.「華山 1914 文化園区の保存活用と経営 台北酒工場、樟脳工場の保存活用と経営」(東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室編『台湾における近代化遺産活用の最前線』東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室) pp. 102-111

Lu, Wen-Min et. al. 2017. “Performance Analysis of the Cultural and Creative Industry:a Network-based Approach”. in Naval Research Logistics (NRL). Vol. 64 Issue 8 pp. 662-676

参考ホームページ(一部)

全国法規資料庫(https://law.moj.gov.tw)
台湾政府台湾政府文化部(https://www.moc.gov.tw)
台湾設計研究院(https://www.tdri.org.tw)
台湾政府文化部獎補助資訊網(https://grants.moc.gov.tw)
台湾政府文化部文化創意産業推動服務部(https://cci.culture.tw)
華山1914文化創意産業園区(https://www.huashan1914.com)
横浜赤レンガ倉庫(https://www.yokohama-akarenga.jp)
Facebook(https://www.facebook.com)
Fresh Taiwan(https://freshtaiwan.org)
その他インタビュー事業者ホームページ

脚注(一部)
[1] 台湾政府文化部 「文化クリエイティブ産業」(https://www.moc.gov.tw/jp/content_122.html, 2022/12/31最終閲覧)

[2] 台湾政府文化部 「文化クリエイティブ産業」(https://www.moc.gov.tw/jp/content_122.html, 2022/12/31最終閲覧)

[3] 同上

[4] 同上

[5] Fresh Taiwan(https://freshtaiwan.org.tw/en/, Accessed 4 January 2023)

[6] 台湾政府文化部「文化クリエイティブ産業」(https://www.moc.gov.tw/jp/content_122.html, 2022/12/31最終閲覧)

[7] 同上

[8] 全国法規資料庫「文化創意產業發展法」(https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=H0170075, 2023/01/04最終閲覧)

[9] 台湾政府文化部「文化クリエイティブ産業」(https://www.moc.gov.tw/jp/content_122.html, 2022/12/31最終閲覧)

[10] 同上

[11] 台湾政府文化部「文化クリエイティブ産業」(https://www.moc.gov.tw/jp/content_122.html, 2022/12/31最終閲覧)

[12] 台湾政府文化部獎補助資訊網(https://grants.moc.gov.tw/Web/index.jsp, 2023/01/04最終閲覧)

[13] 台湾政府文化部文化創意産業推動服務部「文化創造産業振興法」(https://cci.culture.tw/, 2023/01/04最終閲覧)

[14] 華山1914文化創意産業園区(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Index, 2023/01/04最終閲覧)

[15] 華山1914文化創意産業園区(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Index, 2023/01/04最終閲覧)

[16] 華山1914文化創意産業園区「華山1914文創產業園區「品牌短期進駐申請辦法」」

(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Shortterm, 2023/01/04最終閲覧)

[17] 同上

[18] 同上

[19] 華山1914文化創意産業園区「華山1914文創產業園區「品牌短期進駐申請辦法」」(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Shortterm, 2023/01/04最終閲覧)

[37] 華山1914文化創意産業園区(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Index, 2023/01/04最終閲覧)

[39] 華山1914文化創意産業園区「華山1914文創產業園區「品牌短期進駐申請辦法」」(https://www.huashan1914.com/w/huashan1914/Shortterm, 2023/01/04最終閲覧)

[40] 台湾政府文化部「台湾政府文化部獎補助」(https://cci.culture.tw/cci-rewards/ 2023/01/30最終閲覧)

[41] Facebook "華山1914文化創意產業園區"(https://www.facebook.com/1914CP Accessed 30 January 2023)

[46] 横浜赤レンガ倉庫(https://www.yokohama-akarenga.jp/ 2023/01/30最終閲覧)

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