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トスカーナ・オリーブの夢 1

オリーブオイルの美味しさに、惹かれるようになったのは、
いつの頃からだろうか。

13年半というメルカートの仕事で、食材に携わるようになってから、
初めて、その味の深い違いに、気付かされるようになった。
ひとことで「美味しい」と言っても、10あれば10、100あれば100だけ違う。
単に「美味しい」というだけでは、伝え切れないもどかしさを感じつつ、メルカートを辞めてからも、オリーブオイルだけは追い続けていた。

数年前、家探しをしていた友人について行った事があった。
トスカーナはマレンマ地方の、海辺に近い小さな町の裏手側に、その家はあった。
1ヘクタールほどのオリーブの木に囲まれた、小さな家だった。

「トスカーナが好きで、北の方からよく来ていたんだけどね、歳をとって、こっちにくるのも億劫になってしまったらしい。」

そう、不動産屋さんは言っていた。
そのままにしておくには勿体無いくらい、手入れの行き届いた庭。
時折、山側から吹く風が心地良く、それは、「いつか田舎に住みたい…」と思う私の思いを、そっとツツいた。

良いなぁ、こういうところに住みたいものだよ…

思いとは裏腹に、現実というのは厳しい。
田舎に住むには、資金もさほどなければ、職もない。
夢と現実の狭間には、大きな壁が立ちはだかっているような気がして、
「いつか…」という思いは、ただの「夢」だと思い込んで、毎日を過ごす。

ただただ、
11月の、搾りたてのオリーブオイルが出る頃が、ひそかな楽しみになった。

「こんなオリーブオイルを作れるようになったら、いいなぁ…」

それは、私の夢。
「トスカーナ・オリーブ」の夢は、その頃から抱き始めていたのだと、今になって思うのだった。



続く。

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