![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55793451/rectangle_large_type_2_39a5c46c21b96042eebee1cab86bfb8f.jpg?width=1200)
トスカーナ・オリーブの夢 1
オリーブオイルの美味しさに、惹かれるようになったのは、
いつの頃からだろうか。
13年半というメルカートの仕事で、食材に携わるようになってから、
初めて、その味の深い違いに、気付かされるようになった。
ひとことで「美味しい」と言っても、10あれば10、100あれば100だけ違う。
単に「美味しい」というだけでは、伝え切れないもどかしさを感じつつ、メルカートを辞めてからも、オリーブオイルだけは追い続けていた。
数年前、家探しをしていた友人について行った事があった。
トスカーナはマレンマ地方の、海辺に近い小さな町の裏手側に、その家はあった。
1ヘクタールほどのオリーブの木に囲まれた、小さな家だった。
「トスカーナが好きで、北の方からよく来ていたんだけどね、歳をとって、こっちにくるのも億劫になってしまったらしい。」
そう、不動産屋さんは言っていた。
そのままにしておくには勿体無いくらい、手入れの行き届いた庭。
時折、山側から吹く風が心地良く、それは、「いつか田舎に住みたい…」と思う私の思いを、そっとツツいた。
良いなぁ、こういうところに住みたいものだよ…
思いとは裏腹に、現実というのは厳しい。
田舎に住むには、資金もさほどなければ、職もない。
夢と現実の狭間には、大きな壁が立ちはだかっているような気がして、
「いつか…」という思いは、ただの「夢」だと思い込んで、毎日を過ごす。
ただただ、
11月の、搾りたてのオリーブオイルが出る頃が、ひそかな楽しみになった。
「こんなオリーブオイルを作れるようになったら、いいなぁ…」
それは、私の夢。
「トスカーナ・オリーブ」の夢は、その頃から抱き始めていたのだと、今になって思うのだった。
続く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?