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マンマは強し(イタリアで最初に出会ったイタリア人女性)

「イタリアに行きます!」

勢いだけでやってきてしまった私は、語学学校で紹介されたホストファミリーの下でお世話になる。
言葉なんて喋れたもんではなく、だから、「イタリア語会話集」なんて本を片手に、「ピアチェーレ(はじめまして)。私は、ユキです。」
日本人独特のローマ字読みのようなイタリア語の発音で挨拶をした。
今考えても、酷いイタリア語だったと思う。
これが本当に最初の、「はじめまして」だった。

ホストファミリーは、若い夫婦で、5歳と3歳の二人の子供が居た。
奥さんの名は、アントネッラ。
夏だったからか、真っ黒に日焼けしていて、声はガラガラ。野太い声っていう表現がピッタリ来るような、声の持ち主。
話しかけられても、イタリア語がほとんど分からないから、返答に困っていると、大きなため息をつく。声が大きすぎて、荒げているわけでもないのに、なんだか怒られているような気分になった。
ダンナさんと話をしているアントネッラを見ていて、喧嘩してるんじゃないか…?と、不安になったこともある。
とにかく、強い。
それが、アントネッラの第一印象。

これが、典型的なイタリア人女性だと知るのは、もっとずっと後の話である。

私は、不思議でならなかった。
ダンナさんは、とても感じが良い人で、みんなに優しい。
「もっと、美人さんもいっぱい居るだろうに…」
失礼かもしれないけれど、そんな事を思ったりもした。
なんか、不釣り合いな気がしたのだ。
なぜ、素敵なダンナさんが、アントネッラを選んだのか。

2週間ほど経った頃、隣町にあるダンナさんの実家に連れて行ってもらった。
日曜日のお昼は、家族全員が集まってランチをするのだという。
ダンナさんのお父さんとお母さん、アントネッラと二人の子供、ダンナさんの弟さんのご家族、総勢十数人にもなる長いテーブルを見渡した時、「あ!」と思った。

どことなく似ている。
マンマとアントネッラ。

イタリア人男性は、マザコンが多い。
しかも、堂々と、マザコン。
自称、マザコン。

やっぱり、マンマなのか…
その時、妙に納得した。

私が一番最初に出会ったイタリア人女性、アントネッラ。
マンマは、強し。
ただ、ひとつだけ、想像と違った事がある。
それは、料理が苦手なこと。
夕飯はいつも、お肉を焼いたのとジャガイモのロースト、そして買ってきたパン。

イタリアに来て、パスタやリゾットの無い食生活は、なんとも不思議なものだった。

今、彼女はどうしているだろうか。

フィレンツェに住んでいる今、隣のマルケ州の田舎が、やけに遠く感じたりする。


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